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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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幕開けの刻(1)

全ての準備が整い、魔鉱石が世界に披露されて1ヶ月。


荒れ地にはいろんなことが起こった。


まず――

領主の家が建った。

そう、ようやくである。


館の場所にいろいろ意見があったようだが、今までグランヴィーオがいた西の村に決まった。

平屋の、さほど大きくはないがしっかりした家だ。村の境界線を拡張し、一番奥まったところにできた。一刻も早い措置をということだったようで、そのうちでかい館を建ててやる!と担当した大工は息巻いていた。

次はロドリゴとトールの家で、今ふたりは建てられたばかりのグランヴィーオの家に住んでいる。


同時に建てられたのは、家畜小屋と鍵が厳重にかかる倉庫である。


家畜がやってきた。

まず手始めに、馬2頭と牛1頭、豚3頭に、鶏が5羽。


なかでも馬は必須だった。

東の村へは徒歩で半日、北の村へは約1日、ダンジョンへは約2日、荒れ地を出るには3日弱。

今までこれだけ時間をかけて出かけていたのだ、まずは負担を減らしたかった。


鍵付きの倉庫は、残りの鉄鉱石と魔鉱石の保管のためである。念入りにレンガで壁を作り、屋根は金属の板を噛ませて作った。それらしい錠前で鉄製の扉に鍵をかける――が、本命はグランヴィーオがかけたダンジョン仕様の魔法の壁と結界である。


その2重の構えを知っているのは、村でも一握りの人間だけだ。

錠前の鍵よりも、むしろ魔法の解除のほうが、盗みを働こうとするような邪な人間には厄介には違いなかった。


畑も拡張した。今はまだ試験的な作物しか植えていないが、そのうち全村民の家が建て直されたら、畑も各家に作る予定だ。


東の村も似たような規模で、ようやく村らしい形になりつつある。


建造物は、村の外にもできていた。

西の村より少し南に下った場所に、リュケーの商館が建てられた。


リュケーの商会の名前は『プリスベ(荒れ地)商会』。内緒の親商会がメイラという古語を冠しているので、別の古語からもじって付けた。


その商会の本拠がなぜ村から離れた場所かというと、今後魔鉱石の売買を目的に、大量の商人が詰めかける予定だったからだ。


基本的に、魔鉱石の取り扱い窓口は隣国のレイモア――メイラ・ジェ・レイモア商会だが、勘違いや少しでもあやかろうとして産地の仲介業者を頼るだろうという予想だった。


商人たちは勝手に商機を見出すか、手出しができないと分かって落胆して帰るか……どちらにしろ、商館の周りは賑やかしくなるし、それを村では対応しきれない。


リュケーの仕事は、魔鉱石の生産管理と、領地の主な御用聞きだ。もとは東の村の行商人だったが、一連の計画ですっかり領地の顔になっている。


1ヶ月経った今、予想通り商館周辺はいつも賑やかだった。交渉を続ける人々はテントなどを各々張り、馬や馬車が縦横無尽に停まる。対策として次は人足を増やし、宿屋を建てるようだった。


人の流入といえば、魔術師もだ。


魔鉱石のオークションは、大成功を収めた。

予想金額を数倍超えた値段で落札され、しばらく界隈はその話題で持ちきりだった。

魔鉱石の落札者は非公開となっているが――知識の峰で間違いないようだった。


その魔鉱石の鉱山は、荒れ地にあると、最初から公表していた。


それにつられて、魔術師もやってくる。

最初は高名な魔術師が、国の権威や金銭を笠に融通しろとやってきた。けれど取引窓口がメイラ商会だと知ると、肩を落として去っていく。


それを何度か繰り返すうちに、在野の中堅の魔術師がやってくるようになる。主に、荒れ地の調査が目的だった。


忘れ去られた死霊の彷徨う土地。

新しいダンジョンが出来た、噂の荒れ地。


そんなところに人が住んでいて、魔鉱石の生産を始めたのだ、土地そのものに興味が出てくるのも必然だった。

そして彼らは、そこに住まう魔術師たちに声をかけられるのだ――ウチで働かない?と。

すでに2人の魔術師が、鉱山の魔鉱石の採掘に携わるようになっていた。


このように、見かけは順風満帆だったが、やはり問題は起こる。


水と食料が奪い合いになった。

新しく訪ねてくる人間が各自に用意してくれればいいが、荒れ地の厳しさを知らないものが多く、余剰に買い入れていたプリスベ商会の在庫もすぐになくなる。村に確保してある分にまで強引に手を付けようとした商人が、出禁を食らうこともしばしば。

そのうち、商人相手の商売を始めるものも出てきた。無法地帯になりかけていると、リュケーは調整に必死らしい。


そして、同じく治安が悪化する。

喧嘩や盗み、詐欺や闇取引まで。

意外と西の自警団が、その犯罪の取り締まりに貢献できていた。

なにせ長年死霊や魔物との戦いに明け暮れた、腕っぷしだけは自慢だ。東の村の戦力も育ってきて、ようやくそれらしい形になった。冒険者や傭兵も雇い、今のところ大きな被害は出ていないようだった。……村の倉庫周辺で、やたら逮捕者が出るのは案の定というべきか。


対死霊部隊も、武装の強化がなされて実績が積めるようになった。

ササラの協力で、死霊の被害の数自体は抑えられているものの、代わりに少数だが悪質な死霊の存在が明るみに出てきた。討伐や撃退などを繰り返しているが……ここは荒れ地である。


「川の工事もおおむね順調です」


西の村長のロドリゴが領主のグランヴィーオの前で報告する。


隣国レイモアから引水の許可が出て、今は国内で町や村を迂回しながら掘り進めている。

実のところ、一番時間がかかるところがその国内の工事だった。荒れ地まで抜けてしまえば――規格外の魔術師が、その膨大な魔力であっさりと作れてしまうので。


レイモアでは急に決まった工事に戸惑う町もあったとか。近くに川が流れるとなると、生活に支障が出るところも。反対や不満の声もあり、工事が止まって交渉が行われることが。


「……早く、荒れ地に来て欲しいものですな」

「ああ」


荒れ地に来てから穴を掘ってばかりの領主は頷いた。


その他の問題も、今のところどうにか対処できている。

それらの報告が終わると、ふたりは家を出て村の家畜小屋までやってきた。


「今日も元気いっぱいですな」

「……ああ」


村の外れにできた家畜小屋の周囲には柵があり、そこに昼間は動物たちが出てきている。


草は生えておらず食めないだろうが、広い土地にのんびりと過ごす家畜。その光景に癒されるものも多いとか。

なにせ、今まで動物を養うという余裕がなかった。それだけでも今までと違ってきているのだと、村人は実感しているようだった。


だが、ロドリゴが元気と言うのは家畜のことではなく――


「こっちおいでー!」

「そっとだぜ、気をつけて……」

「きゃー!はは」


動物たちに興味を持ったらしい村の子どもたちだった。

今は囲いの中で鶏と豚を放牧し、数人の子どもたちがそれらに触れては歓声を上げている。


その中に……ドレス姿のラクエがいるのも、見慣れつつある。

彼女はときおり笑顔を見せながら、鶏について回り(捕まえたかったようだ)、他の子供に手を引かれて豚を撫でに行ったり、なかなか満喫しているようだった。


召喚したてより、まるで違う。

村の子どもたちももう半年この使い魔の女の子を見ているため、警戒心はまるでなかった。


「ラクエ様も、楽しそうでなにより」


使い魔の記憶は、半分は戻っているとみていいだろう。


神霊バ・ラクエ記憶はどうも人間の感覚としてして掴みづらいものらしく、ラクエが話してくれてもよく分からないことが多い。


少女の方……どうやらササラいわく、レイスよりもさらに上、リッチになりかけた死霊だが、不遇の半生だった事がわかっている。

母親と、数人の使用人の記憶しか語られることがない。

母親は何があったのか泣き暮らし、少女は構ってもらった覚えがほとんどなかった。使用人も遠巻きに彼女に接しているようで、ひとりきりのときが多いようだった。


――なぜ、この幼さで死んだのか。

それはまだわからない。


一方、死霊だった頃の少女は、ササラのおかげかだいぶ記憶が戻ってきた。

やはり活発な霊ではなかったらしく、神殿の近くに留まっていたらしい。

何故かその場を離れがたく、周辺をうろうろとするだけで村の方向へは行ったことがなかったようだ。


たまにササラが暇を持て余し、人間たちを襲って楽しんでいたようだが。


「……」


ロドリゴは好々爺の風情そのままに子供達を見ていたが、ふと何かに気づいたように顎に手を当てて考え込んだ。


「どうした?」

「……いえ、少し子供らの教育のことを」


余裕ができれば、次は教育だとロドリゴは強く提案していた。

さいわい、叡智を探る魔術師が豊富な領地で、体制を整えることは簡単だろう。もともと貴族の一族だった西は、子供も簡単な文字を書けることが多い。


「……思い過ごしならいいのですが」

「なにをだ?」

「年寄は心配性ですので。さて、レオルは……」


向こうの家畜小屋で、数人が飼い葉を掻き出している。

こちらに気づき、それぞれ手を振ったり会釈する中に、家畜管理担当についた男がいるのを確認して、ロドリゴがそちらに向かおうとした。


そこに――


「あっいた!」


聞き覚えがある声が後ろからかかる。


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