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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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知識の峰(2)

ゼルが主に喋り、ベルソンが付け加える。

たしかに、一般の人間にはよくわからない知識の峰の事情や、魔法のことも口にしたようだ。


「……ふうん、ダンジョンの攻略に乗り気なんだな、やっぱり」


オハイニと、イルゲは思案げにしている。


「けど、魔鉱石のこともずいぶん気にしてたようだぜ、計画が大幅変更になる、とか嘆いてたぞ」

「誰もいないと思ってたのに村があって、魔鉱石の大量生産が迫っているなんて、思わないからね……アタシだって他人から聞いたら嘘だと思って信じない」


ふう、と小さく息をつき、オハイニは片膝を立てた。ローブの裾がはだけたのを見るとイルゲが眉を寄せる。


「こら、見えちゃうでしょ」

「うるさいなあ、小姑か」

「ほら、そこの男がいやらしい目で見てる!」

「いやムリムリ、見るだろ」

「ベルソンくんは見てないだろ!」

「……」

「ベルソンきさまそれでも男か!」


そっぽを向いたベルソンがよくわからない巻き込まれ方をして困っていたので、ラクエが彼のそばに座った。それを見たオハイニが何故か衝撃を受ける。


「く……幼女がいた、しまった」

「それ以前に領主様が……まあいいや」


イルゲがそっとオハイニの裾を直した。


「それで、知識の峰はどう出るかな?」

「……アタシが思うに、絶対に拠点は作るはず」


オハイニは、口元の拳を当てる。


「もともとは誰も住んでいないはずの地域の、どこの国のものでもないダンジョンの攻略のため。けど、魔鉱石というとんでもないお宝と、それを所有する確固たる領地が出来てしまった。諦めるはずがない。なんとしても自分たちへ有利な方向に少しでも持っていきたいはずだ」

「……採掘権を欲しがるとか?」


ベルソンがボソリと言う。オハイニは頷く。


「そう、荒れ地で以前みたいな交代で……あるいは根こそぎ自分たちのコントロール下に置きたがるかも。領地とはいえ小さい村だ、少し金銭でも渡して脅せば、とか考えてるんじゃない?」

「……強欲だな」


ゼルが呆れて首を振る。オハイニは苦笑しながら、


「ともかく、魔鉱石のことで、さらに大きな拠点を作る気でいてもおかしくない。ダンジョン目的ならあのナイトワロ師の研究室と少しの関係者……十数人程度のつもりだっただろうけど、魔鉱石への干渉目的なら数十人……」

「魔術師だろ?そんなに?」

「そんなに」


こっくりとオハイニは頷く。


「『知識の峰』には1千人以上の魔術師がいる」

「げ……」

「知識の峰の門徒であるというなら、全世界に1万人近く。入門自体はそれに相当する実力と、一度の『峰』への入山があれば認められる。世界中にシンパが1万人いるってこと」

「そんなに魔術師っているもんなのか……」

「荒れ地だけですでにこの有り様だよ?」


実は多いほうだが、わかりやすい指標だろう。


「けど、『知識の峰』は、よく言われるとおり、魔術師の最高峰。実力が足りない、あるいは魔術師と認められない人間のほうが多いんだ。他の大陸にも似たような魔術師の組織はあるし、把握はできてないけど、十万人はくだらないはず」


「……ああそうなのか」

「魔力があれば魔術師だけど、それだけで魔術師と名乗れるかといえばそうじゃない。以前のアタシみたいにね」

「名乗れない、隠してる魔術師もいるってことか」

「それよりも在野の魔術師のほうが目立つけどね」


貴族や国に支援を受けて、魔法の行使や、研究の成果を出すのが仕事。


魔法を使えれば、誰がなんと言おうとも魔術師だ。

そう、ここにいるグランヴィーオのように。


「……そういう有象無象でも、集めれば数にならないか」


グランヴィーオは、ふと思い出した。


冒険者でもぽつりぽつりと魔術師がいなかったわけじゃない。

知識の峰にこそ届かなかったが、貴族に雇われ魔術師としての力と叡智を振るっている魔術師も。


そして、魔鉱石の採掘には魔術師が必要。


「集める……?」


オハイニが、ハッと顔をあげる。


「ああ、もしかして、うちで独自の魔術師集団を作ろうって!?」


「なぁるほど!同業者がいっぱいいるんじゃ、なかなか手を出しづらいってか!」

「さっすがグランヴィーオ!」

「ただ、それには問題がある」


見ようによっては、力には力を、だ。

この荒れ地で、間違えれば今まで気を配ってきた事業にも影響が出るだろう。


「え……ああ、完全に敵対する段階に入るってことね」


オハイニが顎に手を当てる。


「今更じゃ、ないかなあ……もちろんメイラとレイモアには説明するし、結局睨み合いにしかならないだろ。いくら魔術師同士の抗争っていっても、戦争は現実的じゃないし」

「そうなのか?そんな似たような話でしょっちゅう小競り合い起こってるじゃねえか」


ゼルがうんざりと息をつく。国や、貴族間でのことだろうか。たしかに、傭兵や冒険者もそれに巻き込まれることは多い。


「うーん、もっとこう、搦め手で来る感じ」


オハイニは指先で頰をかく。


「魔術師ってスタミナがないから動くことにすごくめんどくさがる。机の上で全部終わらせたいと思ってる奴らが多い」

「怠惰の極みだな」

「ねー。それにくわえて、今回はメイラなんて大物が噛んでるから、一度火がついたらとんでもない大火事になるのは分かってるよ。一番現実味があるのは、セントールを操ってレイモアと代理戦争させる、くらいか」

「……ありそうだな」


鉄鉱石の出る鉱山を火種に、つい数ヶ月前に同じようなことをやった2国だ。


「それだって、可能性ではって話だよ。今この段階で武力行使なんて、世界から非難される。メイラは戦争なんて話を聞いた日には、ありったけの魔鉱石と残りの鉄鉱石を世界にばら撒くよ」


「どういうことだ?」

「戦争になるだろ?全部ストップさ、これ以上在庫はないです!って言いながら被害者ぶるのさ、なんで出てこないかというと、戦争してるから」

「ああーなるほど」


「特に怖いもの知らずのウヴァーン国が、海の向こうから鬼のような剣幕で来るでしょ、自分とこの商売台無しにされるんだから。セントールみたいな小国なんか潰されるよ」

「……あーだからロドリゴ爺がザリハを大歓迎してたのか!」

「そう。海の向こうの帝国の王族事情なんて知らないけど、ああ言うってことは無意味じゃないんだろ」


まっさきにウヴァーンの王族と紹介したのだ、つまりザリハには権力が何かしらあるということだ。


「ともかく、戦争は現実的じゃない。失うものが大きすぎる。だから、今は魔鉱石を握ってる荒れ地をどうにかしたいと思うわけ」

「そこに、対抗馬の無名魔術師集団かー」

「面白いじゃないか」


イルゲが楽しそうに、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だ。


「そしたらほら、夢の研究室の復活だよ、オハイニ」


イルゲの軽い調子の言葉に、オハイニが動きを止めた。

ぼうっと、夢から覚めたように表情をなくす。


「……ああ、そっか。すっかり諦めてたわ」


その声は、小さく掠れていた。

ゼルがぎょっとする。


「オハイニ?」

「……そっかぁ……」


オハイニが笑った。泣きそうに顔をゆがめながら。


「ど、どうした?」

「いや、ちょっとね。そうか……」


顔を一度手で覆い、しばらく彼女は無言だった。


「ごめん、ちょっと……そうだな、話しておいたほうがいいかも。ナイトワロ師なんかも出てきたし」


やがて顔を上げたオハイニが、苦笑しながら言った。

涙はなかった。


「アタシが『知識の峰』から破門になった理由」


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