知識の峰(1)
鉱山でまたひとつ採れた魔鉱石に目を輝かせてから、ザリハは帰る支度を始めた。
「名残惜しいですネ……」
ザリハが惜しむように言う。
「実は、この荒れ地は私の故郷に少し似ているのデス」
「世界一の帝国なのにか?」
ダンが不思議そうに聞き返す。ザリハが小さく笑った。
「一部の都市が栄えているだけで、多くは不毛の砂漠なのデス」
「そうなのか……」
「馬車に揺られていると、長く旅をしなければ街にたどり着けなイ、生まれ育った村のことを思い出しマス」
「村……ですか?」
ロドリゴも訝しげだった。
ザリハがにこりと笑った。
「長くなりマス。次にお会いするときに、お教えしまショウ」
ザリハはこのあと1ヶ月かけて本部のあるヨナイテ国に戻るのだという。
「今後はこのジョシュアに任せマス。よろしくお願いしマス」
「こちらこそ」
ロドリゴとダン、そしてグランヴィーオと固く握手を交わし、ザリハはジョシュアを伴って馬車に乗り込んだ。
その夜、ベルソンたちダンジョン組が帰ってきた。
魔術師たちは探索を終えると、そそくさと離れていったらしい。
「怪我はなさそうだな」
トールたち自警団と、グランヴィーオに出迎えられたベルソンとゼル、それと20歳くらいの仲間の男は少しやつれたような格好だった。
「……あんのクソ魔術師ぃ……」
恨みのこもった声で唸るゼルに、なにやら察したグリウは肩を叩く。
「俺ぁ兄さんはもう少し早く帰ってくると思ったよ」
「何度帰ろうと思ったか!オハイニのこともだが、村や荒れ地をあることないこと!散々にこき下ろしやがって」
「……――」
風貌に似合わずおっとりとしているベルソンですら疲れ切っているようだから、相当酷かったようだ。もう一人の青年も言葉もない。
「その領主と嬢ちゃんのスタイルが癒しになるとは思わなかったぜ」
ゼルが遠い目でグランヴィーオたちを見る。ササラに連れられて村の内外をずいぶんと活動的になったラクエだが、たまにこうやってグランヴィーオの腕に乗りたがる。
「なんで帰ってこなかった?」
トールが不思議そうに聞くと、ベルソンがぼそりと、情報収集とつぶやく。
「知識の峰の動向か何か、少しくらいわかんねえかと思ってよ」
ゼルが肩を回しながら、
「って言っても、一般人にとっちゃあ謎の組織だから言ってることもよく分からなかった。せいぜいが……どうもここに拠点を作るつもりでいるらしいってことくらいで……ほかは、オハイニに話せば分かるかね」
「明日にでも聞きに行くか。なににせよ、お疲れさん、今日はゆっくり休め」
トールがねぎらうと、そうさせてもらうわ、軽く手を挙げ、自分の家へ向かおうとしたゼルに、グランヴィーオは声をかけた。
「何階まで行った?」
「おっと、肝心のこと忘れてたぜ。18階だ」
「……5階までの様子とあまり変わらなかった」
一度一緒にダンジョンに潜ったベルソンが、補足する。
「敵の量が増えたくらいか。ああ、簡単な仕掛けもあった」
壁の位置が動いたり、入口を塞がれたりするものだったが、条件を満たしたり、魔法でどうにかなるものだったようだ。
「次の19階に行く道がわからなくてよ、それで引き返してきた」
「そうか」
「それで、領主様のことに気づかれたかもしれねえ」
グリウが顔をしかめた。
「え?やばくないか?」
「いや、本当かどうかは分からねえ。ただ、あの……ナイトワロ?とかいうやつが、ぼそっと、結界がオハイニのものか疑ってるようなことを呟いたからさ。あと、不自然に領主のことは話題にしなかった」
ダンジョンの入口の結界は、解除用の魔道具で解けるようにした。その構築は念の為オハイニがしたものだったが……
「拠点をつくるというなら、どのみち隠せるはずもない」
「……ま、そのへんは俺らはどうしようもねえわ」
「いや、助かった」
疑われているかどうか、それだけわかっただけでありがたい。
ゼルがグランヴィーオをなんとなく驚いたような目で見て、これ以上はまた明日な、とぶっきらぼうに言って去って行った。
翌日。
グランヴィーオとベルソンとゼルは東の村に向かった。
「あれ?帰ってたんだ」
オハイニはリオールたちの指導にあたっていたようだった。少年たちは魔術師としての基本がほとんど出来つつある。今度試しに鉱山へ連れて行く予定だ。
彼らに休憩を言い渡し、オハイニの家へと上がり込んだ。
村でも大きめの家だ。今まで彼女が薬師の役割も果たしていたので、診療所も兼ねている。
天井から幾つも薬草が吊るされ、手作りなのかいびつな棚には、出来た薬がいくつかストックしてある。
「なんでてめえがここにいるんだよ」
ゼルが入るなり不機嫌そうに吐き捨てる。
イルゲが床板に直接座り、なにやら道具や紙を散乱させている。
「あれ?言ってなかったけ?この家に同棲してる」
「居候!」
オハイニが突っ込んだので、そういうことなんだろう。
「……新しい家が建つまでだよ。どこも今は空いてないしね」
「くそう、いい気になるなよ!?俺、俺だって」
「お前西じゃん」
「くそおおおお」
「お前らうるさい」
オハイニに一喝され、ふたりとも押し黙った。
「しっかし、一気にむさくなったわね」
手狭になった家に、顔をしかめてオハイニが文句を言う。
「ヴィーオの顔がいいのとラクエちゃんがかわいいそこのセットだけが目の保養」
『わたくしも加わります?』
突然ササラが隣に出現した。
「アンタはお呼びじゃない」
「そうだ、帰れ」
『……最近この扱いに快感すら覚えますわー』
不穏なことを言って、消えたササラ。
「……で?何の用?」
「ああ、ダンジョンで俺たちがあの魔術師から聞いてきたことを伝えようかと思ってな」




