大きな商いと小さな無駄(7)
「ちゃっちゃと取引は進めて良いと聞いていますので!では!第一回?二回?あれどっちですっけ?大商談会をはじめまぁす!」
妙にテンションが高い、小さな男が声高に開会を宣言する。
背も身幅も小さい男だ。少年くらいの体型だが、顔立ちを見ると30代のリュケーよりも年上か。やや浅黒い肌に、独特の編み込みの髪型で、丸いメガネをかけている。
「ではでは!ここにザリハ様の覚書もございます!それに沿ってお話を進めてもよろしいですか?」
「構わない」
グランヴィーオが頷くと、にっこりとその男は笑った。あまり人相は良くない。
「あ、正式に自己紹介がまだでした!私、ジョシュアと申します。ザリハ商会長の秘書的な立場におります。お見知りおきを」
「ああ」
「早速ですが、まずは商会の動きをご報告します」
ぺらりと上質の紙をめくりながら、ジョシュアは続けた。
「知らせが遅れているようですが、レイモアへのメイラ・エイデストル支部の設立は議会によって承認されていると思います。実はそこに私の異動が決まっておりまして……ええ、出世です。支部の支部の支部長です!」
よほど嬉しいのかそっと天幕の天井を仰いでいる。
「そして、リュケーさんを正式に我が商会員としてお迎えし、別の商会をこの西の村に立てていただきたいと思っております」
「ええ、お話だけはお聞きしております」
タツィオが板書をしながら返事をする。
「具体的にはまだ何も決まっていないとロドリゴ村長からは聞きましたが」
「そうですね。説明させていただきますと、この村の体制が整うまで、すべて魔鉱石の売り出しの窓口はメイラで請け負うというお話です」
それはグランヴィーオも聞いていた。
「直接の窓口はレイモア支部です。ところが、それだけでとんでもない負担になると思うのです、特に私に」
自己主張が強いようだ。
「誰かが私どもと村との仲介を請け負ったほうが、能率が上がるとザリハ様はお考えです。そこで、行商人で、なおかつ荒れ地と縁が深いリュケーさんに白羽の矢が立ちました」
「念願の自分の店、それにこんな儲け話を断れるはずがありません」
人好きのする笑みを浮かべたあと、リュケーは少しだけ肩を落とす。
「……嫁と娘には会いに行きづらくなりましたが」
「それは……さみしいな」
既婚者のダンが同情する。
「これは後に詰めることですので、今は賛否の採択だけさせていただきたいです。皆さん賛成ですよね?ね?」
「……なんか反対したくなるんだけど」
ボソリといったのはオハイニだ。眉を寄せて、なんともいやそうな顔である。
えっ、と驚いたようなジョシュアに、投げやりに手を振る。
「うそうそ。賛成です」
「全員異論はないですよね?」
タツィオの苦笑しながらの言葉には、全員頷いた。
「は、はあ、驚きました。では、こちらは賛成ということで処理をします……ふぅ」
相当焦ったのか、額の汗を拭うジョシュア。
「次、次ですね。収支報告の件です。実は今まで鉄鉱石との物々交換状態で取引をしており、記録はあるのですが収支が計算されておりません」
「どういうことだ?」
ダンが首を傾げた。
「現金化という手間を惜しんで、鉄鉱石の値段は決まっているのですが、それをいくつ売ったとか、何をそれで買ったとか、そういうことはまだ計算していないのです」
「んん?」
「ザル勘定ってこと」
オハイニが口を挟む。
「どうせ足りるだろうからって、誰が何を買ったとか、鉄鉱石をどれくらい商会に渡したとか、全部書いてはあるけど誰も確認してないっていう話」
「それは……大変だな」
まだあまり飲み込めていないのか、ダンが的はずれな感想を言いだした。
「……まあ、また教えるよ。続けクダサイ」
「はい。その収支はこのキャラバンが帰り次第、こちらで計算させていただきます。早いうちにご報告と、鉄鉱石の精算に人員を送りますので……」
「あ、またキャラバンにできますか、それ」
タツィオがふと言った。
「今度は通貨の用意もお願いします。メイラの通貨というのはどこのものか知らないのですけど」
「メイラ・エ・ウヴァーン・エイデストルの決済はヨナイテの通貨です。ですが、今回レイモア支部ができるので、同国で流通するヒクトリアのものをご用意します。キャラバンはできる限り組ませていただきますよ」
「よろしくお願いします」
「……」
ダンが俯いたまま顔を上げない。
「それで……キャラバンという話が出たので、ついでにこの話も」
にやりとまた人の悪そうな顔で笑う。
「お次は何が欲しいので?」
材木と人足。
家畜と土、飼料に肥料。
どっさりの食料。
薬に医者。
日用品。
銀製武器。
etc……
「うふふふ、これが最初の私の取引……!」
上機嫌をそのまま体現したかのようなジョシュアは、小躍りしかけたのをさすがに抑えたようで、一瞬腕が変な方向に振り上がった。
けれど、今まで以上に真剣な顔つきに変えると、メガネを指先で押し上げる。
「量が量ですので、ご用意できた順に、先程言った精算の報告と一緒に第一弾としてお送りします。そのさい、おそらく鉄鉱石では不足が生じます。どうされますか?」
「そう……ですね、そちらの商会としてはどのような方法を考えていますか?」
「ええと……一番スタンダードで混乱がないのは、借金という形で、魔鉱石の売上から引いていくという形でしょうか」
「一番良さそうですが……ただ、魔鉱石の売り出しに間に合いますか?」
「そこですよね」
覚書を見ながら、ジョシュアはうめいた。
「この村に信用はもちろんあります。ですので、こちらは心配しておりませんとはお伝えしましょう。ただ、債務者としては不安でしょうね」
「……いつ頃になりそうですか?売り出しは」
「今のところ、魔鉱石の在庫は3つでしたか。一度掘れば1つは出てくるんですよね?」
「ええ、そして、1ヶ月内には1回につき数個になる予定だと」
「ああ、間違いないよ」
オハイニが頷くと、ジョシュアはふむ、と腕を組む。
そこに、タツィオが手を上げる。
「お願いがあるのですが……その、最初の3つは、ここの魔術師の皆さんにお配りしたいと……」
「え!?」
驚きのあまり、オハイニが立ち上がった。
「いいの!?いやでも、」
「ロドリゴ村長がどうしてもお願いしてほしいと。この村がここまで来れたのは、グランヴィーオ様やオハイニさんたちが頑張ってくださったからだと」
「……イルゲは来たばっかりだけど?」
「掘ってくださるのは主におふたりなので」
「え、えー……貰えるなら、貰ちゃおうかな……」
ほおを赤らめて、もじもじとするオハイニに、グランヴィーオはふと声をかけた。
「俺の分はお前にやる」
「な、なんで!?」
「俺には必要ない」
それどころか、近くにあればただ魔力を吸入するだけだ。無意味と言っていい。
「あ、そっか……」
「ええ、では、オハイニさんにおふたつですね」
「……いいの?」
信じられない、と顔に書いて、オハイニは呆然とした。
魔術師が手に入れれば万能になると言われるほどの魔力を秘めた石だ。手元に確保してあるからこそ、それを自分のものにできるとは現実味がなかったのだろう。
タツィオは当たり前です、と軽く返事した。
「領主がお決めになったので。ということで、ぜひともお願いします、メイラさん」
「分かりました、それは生産元の自由ですよね」
意外とあっさりとジョシュアは了解したようだった。
「そして、実はザリハ様が考えているのは、オークションに出品という形です」
「オークション……?」
聞き慣れない言葉だ。




