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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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大きな商いと小さな無駄(4)

だが、一部ではそこまで感動できるわけでもない人間が。


「……って、ちょ、いいの、グランヴィーオ」


オハイニがコソコソと小声で言う。


「代表がロドリゴ村長って話だよ、領主形無しじゃん」

「構わんが」


どうであれ、鉱山の持ち主は自分であり、その周辺の村は何故か自分の恭順を示している。それは変わらないようだ。


「ええ……?」


不満そうに顔を歪めるオハイニが、さっとザリハをに振り返る。


「ザリハさん、ここの領主が誰だか知ってる?」

「ええ、もちろん、グランヴィーオ様でいらっしゃいマスネ」

「だったら、」

「失礼ながら」


グランヴィーオへ、片手を向けて示す。


「グランヴィーオ様は無名の魔術師でいらっしゃるのデ。知識の峰にもいらっしゃったコトはないと。その方が領主と名乗りを上げても、外の国は納得しないでショウ……実態はどうであれ」


オハイニは、顔をしかめて腕を組む。


「……で?」

「ソノ点、旧アイースル国の宰相にして、自治領代官であったロドリゴ・ワイツィ殿は、まだその名は有効でデス」

「……懐かしい名前だな」


トールがぼそりとつぶやく。

ロドリゴが一瞬目を細め、うつむいた。


「お恥ずかしい限りだ。主君も守れなんだ」

「イイエ、完全に消失したユグトル占領下の国もありマス。民を守り、最後まで戦い抜いた宰相閣下。特にレイモアの議長殿はご興味がおありのようでデス」

「そうですか……つまり、私はグランヴィーオ様の隠れ蓑ということですな」

「有り体に言えば、そうデス」

「よろしいことです。何もかもが理想です」


満足そうにロドリゴは息をついた。

けれど、グランヴィーオにはそれは納得できなかった。


「……それは反対だ」

「そ、それはどういう意味ですかな?」

「ロドリゴばかり目立たせる計画だな。私はそれを許可できない」


不安がある。

もし、ロドリゴの名だけが一人歩きした場合……噂が広まった場合、何が起こるかわかったものではない。

そんなことがあった気がする。


「実権は貴方様のもので変わりませんよ?」

「何かあってからでは遅い」

「……?いえ、問題の処理は私だけでなく一丸となって解決に当たるのでご心配は……」

「グランヴィーオ」


突然割り込んできたのは、トールだった。妙に確信めいた目でこちらを見ている。


「大丈夫だ。爺様に直接何か起こるわけじゃない」

「だが、」

「もし危険が起こったら……いや、起こりようもないだろ、魔術師やら悪神やらがいるんだぞ」

「……」

「危ないとしたら、政治的な何かだろう。それは爺様以上に対応できる人間はここにはいねえだろ」


たしかに、そういうことはグランヴィーオの手に余る。

そして、命の危険があれば、自分の出番か。


「……理解はした」

「もしや私めの心配を?」

「爺様」


トールが何か耳打ちすると、ロドリゴは軽く目を見開き、重々しく頷いた。


「心配してくださり、感激です。何も危ないことはございませんので、ご安心を」

「ならいい」

「……ご了承いただけた、ようデスネ」


話の成り行きを見ていたザリハは、妙に笑顔になっている。


「では、具体的な商談を……」

「待って、ザリハさん、ここにひとり慣れないことしてグロッキーがいる」


オハイニに言われて全員振り返ると、ダンがじっと座ったままあらぬところを見ていた。




翌日、ロドリゴがトールを伴い、ザリハの案内でレイモアに旅立った。

馬車であれば3日はかからないだろうという旅程で、村ではまだキャラバンは賑わっているが一足先に向かっていった。


それと3日の差で、客がやってきた。

魔術師集団『知識の峰』のダンジョン調査員である。


新たなダンジョンの出現は、遠く知識の峰にも届いた。だが、遠すぎてその噂が魔術師たちに聞こえたのは2ヶ月経ったときだった。

急いで上役たちが相談し、調査員を派遣。だが、どれだけ早くても荒れ地へは一ヶ月以上かかる。


その間に、なんと新しく村が出来ていて、鉱山から魔鉱石という、とんでもないお宝が採掘されていた。


寝耳に水、青天の霹靂。

ともかく、驚きであった。


同時に。


「ぐ……ううううぅぅ」

「悔しいか?悔しいか?」

「う、ううっ……!」

「あーっははは!その顔!最高だね!」

「ふぐ、うぁぁぁ……」

「いいぞぉ!もっと泣け!」


3人の魔術師が、地面に膝をつき、泣いている。

それを見ながら、オハイニが高笑いをしている。


西の村の前で茶番が始まったのは数十分前。

オハイニと、とうとうやって来た知識の峰の魔術師たちが口喧嘩を始めたのだ。


いわく、ダンジョンに入れないと。

もちろん、結界で物理的に全ての出入りを禁じたのはグランヴィーオである。そうそう解けない術にしてくれとオハイニに言われた。


なんやかんやでオハイニの存在にたどり着いた魔術師たちは、彼女の仕業と断定し、抗議しにきたのだが――


魔鉱石のことも知り、そして、僅か時の差で他国と巨大商会に全て奪われたと知って、泣き崩れたのだ。


「あーいい気味」


せいせいしたと、オハイニは晴れやかだった。

イルゲは眺めているだけだったが、魔術師を罵るオハイニに嬉しそうな顔をしていた。


「う、うぐ、貴様……知識の峰に復讐のつもりか」


涙でぐちゃぐちゃの中年の男が、ようやくオハイニに怒りを覚えたようだ。

知り合いらしい。


「もちろん。と、言いたいところだけど、アタシはこの荒れ地にもう根を下ろしちまってね。この地に一番いい方法を取っただけさ」


指を男に突きつけ、オハイニはハッと鼻で笑う。


「アンタらのやり口はよぅっく知ってる。この地の民をクソみたいな魔術師の餌にさせてなるものか」

「人間のことなど知らん。ただ魔法を極めようとする、その世界の意志をお前は邪魔しているんだぞ、オハイニ」


断固として、男は主張した。それが絶対だというように。


「前にも似たようなこと言われたね」


冷笑し、オハイニは踵を返した。


「魔鉱石はともかく、ダンジョンは知らないよ。あとで結界を解くから、好きにしていいよ」

「……誰も攻略しようとしていないのか?」


男は立ち上がり、村の方を見た。今は中央に天幕が張ってあり、見通しが悪いが、貧困を極めている様子がわかったのだろう、眉をひそめる。


「なんだ、この貧相な村は」

「生きるのに必死で、やっと希望が見えた村だよ」


オハイニはぞっとするような笑みを浮かべた。


「そもそも死霊がさまよう荒れ地に、まともな人間が住んでるわけないだろ」


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