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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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大きな商いと小さな無駄(3)

「水のことデスが」


ザリハがにっこりと笑う。


「勝手ながら、レイモアに水源を一つ確保しました。定期的に汲み出してお運びできマス。なんなら、お好きにお使いくださイ」

「おお……!?」

「前回、ロドリゴ殿がお困りのようでしたので、必要かと思いまして」

「なんとお礼を申せばいいやら……」

「もちろん、タダではないのデスが」


と、人が良さそうな顔で笑うザリハ。ロドリゴがにこりと答えた。


「はい。どのような条件で」

「荒れ地の代表として、ロドリゴ殿、貴方をレイモア評議会に召喚したい」


「……ほう?」

「どういうことだ?」


レイモア……荒れ地に隣接した国だが、そこにロドリゴが顔を出さなければならないという。

ザリハが頷き、


「まず、私どもの事情を聞いてほしイ」


海の向こうのウヴァーン国の一大商会、メイラ・エ・ウヴァーンの支部として、エイデストル大陸に登録してあるザリハの商会。

その本部は荒れ地より遥か遠い、東の大国ヨナイテにある。


設立当初、各国にその支部のさらに支部という拠点を作ろうと画策していたが、ユグトル帝国が崩壊、混乱の時代が始まった。


戦乱と荒廃のその中でも着実に力をつけ、エイデストルの支部は大陸の市場を把握するほどのものになった。

けれど、実際はその力はメイラ支部そのものというわけではないのだ。


メイラの名を冠している商会は、エイデストルにはただひとつしかない。


「混乱の時代に、せっかく立てた商会が国に横から取られるというコトも何度も経験しましたヨ」


別の商会として登録してあるので、関与ができないのだ。それを狙っての法律だろう。


「今は、それが定着して、他の大きな商会も同じ有り様デス。細分化して、財を手元に置くこともできず、名を挙げるコトができない」


だが、世の中は徐々に安定した時期になった。


「いい機会デス。メイラ・エ・ウヴァーン・エイデストルは、拠点を一つ作ります」

「……つまり、レイモアにそれを作り、我ら荒れ地が最大取引先と公開するというのですな?」

「おっしゃる通りデス」


「……あのさ、それってアンタらの野望の大義名分に、荒れ地を利用するってことでしょ?」


オハイニが低く呟く。じっとりとザリハを睨めつける。


「水一つでえらい荷が重くないかい?」

「ほっほ、そう見えるかね」


ロドリゴはしかし、大したことでもないというように笑い飛ばす。


「いや、良いお話ですね、ザリハ殿」

「そう言っていただけると、こちらも嬉しいデスネ」

「あのー、ロドリゴさん?」


責めるようなオハイニに、上機嫌のロドリゴはやっと答える。


「この取引の中核は、この荒れ地で魔鉱石が採れることだ。それについて、ひとつ大きな問題がある」


ロドリゴが順に、オハイニとイルゲ、そしてグランヴィーオを見つめた。全員、魔術師だが――

グランヴィーオはふと思い至った。


「そうか、魔術師か」


魔鉱石の売り先は、主に魔術師だ。

だが、個人で魔鉱石の所有に関わることはまずない。希少であるし、そして値段が法外だ。

それでも、欲しがる者はいるのだ。主に魔術師を抱えた国や貴族。

そして――


「そうか、『知識の峰』……!」


オハイニが、忌々しそうに吐き捨てた。

普段は山の上に引きこもる魔術師の集団だが、各国の宮廷魔術師の多くが知識の峰出身だ。


宮廷魔術師の主な仕事は、国益のための研究。

言ってしまえば、国が栄えるのは知識の峰のおかげである。

それはつまり、『知識の峰』の権力は各国に借り、すさまじいということ。


その知識の峰の魔術師たち垂涎の、魔鉱石の鉱脈。


「今『知識の峰』の荒れ地に関する情報は、ダンジョンの出現のみですネ」


ザリハがゆっくりと喋る。まるで心配がないというように。


「大急ぎで調査員がこちらに向かっているとのこと。距離がありますからネ、私の知るところでは早くても1週間後のご到着――といったところでショウか」

「間に合ったか……!」


オハイニがどっと肩を落として、安堵のあまり項垂れる。その肩をそっと抱くイルゲ。


「ええと、つまりどういうこった……?」


ダンが話についていけず、目を白黒させている。

やんわりとロドリゴは説明を始めた。


「つまり、魔術師の最高峰が敵になるかもしれんということだ」

「敵!?」

「アイツら、知識欲は立派だが、他のことはどうでもいいんだ」


オハイニが絞り出すように言った。


「自分勝手ってこと。前にも言ったけど、魔鉱石があれば何でもできるって言い切れるほどの夢のアイテムさ、魔術師にとっては。そんなのがごろごろ出る、どこの国のものでもない鉱山なんて、アイツらの目に止まったら根こそぎ奪われるぞ」


「そんなにか?」

「そんなに。ザリハさんが来ていなかったら、荒れ地なんてちょいと制圧されて、民は死ぬまで鉱山を掘らされてただろう」

「……ああ、常識はなさそうだな」


トールがしみじみと言った――何故か、グランヴィーオを見ている。


「ど、どうするんだ?何か方法はあるんだろう?」


ダンはうろたえているが、ロドリゴたちが落ち着いているからかそこまで喚くつもりがないらしい。

ロドリゴはちらりと魔鉱石を見る。


「まず、これは権力同士の戦いだと思ってくれ。我々荒れ地の民はこの地で生きていく。だが、強大な魔術師集団が収入源を根こそぎ奪うかもしれん。今の心配はそれだ」

「ああ」

「そこに、この大きな商会の助けがある。ザリハ殿はレイモアと取引して、さらに大きな商会にするつもりです」

「レイモアと?」

「そう、拠点を作り、荒れ地と契約して、独自の領地として認める。それをレイモアにも許可を得るつもりである」

「独自の領地……?つまり、俺らの土地と認められるってことか!?」

「ええ、そうです。そして、それは『知識の峰』が迂闊に荒れ地に手を出せなくなるということだ」


「荒れ地と契約した大帝国の商会とエイデストルの一国を敵にしてまで、魔鉱石の奪取を目論めるかと言えば……先のレイモアとセントールの戦争の何十倍の規模の、旧ユグトルの戦争に引けを取らないものになるでショウネ」


知識の峰にその責任を負う気概があるかといえば、さすがにないだろう。


「レイモアへの餌は魔鉱石の横流しかい?」


ニヤニヤとオハイニが言えば、ザリハは眉をひそめた。


「その言い方は好きではないデス」

「これは失礼」

「我々はレイモアに良心的な価格で魔鉱石の取引に応じると言っただけデスヨ。その後は知りマセンがネ」

「それは良いお取引ですね」


しばらくザリハとオハイニが睨み合い、同時に吹き出した。

しかし、すぐにザリハは表情を改めた。


「ひとつ謝らなければならないのは、勝手に我々が決めてしまったことデス。すでにレイモアの評議会には話を通してありマス」


ザリハは真剣な顔で、胸元に片手を当てた。


「ロドリゴ殿がレイモアの議場に足を一歩踏み入れれば効力を発揮します。あとは、ご決断を待つばかりデス」

「いえ、こちらからお頼みしようと思っていたところでした。ありがとうございます……これでやっと、我らはこの土地に真の意味で住まうことができる」


感慨深そうに、深い声でロドリゴはそう言った。

ダンや、トールにビルスなどは、しみじみと想いに浸っているようだった。

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