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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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大きな商いと小さな無駄(2)


魔鉱石の採掘ができるようになった。


これで今後の見通しが立てられると安堵と喜びで沸き立つ東西に、さらに朗報がやってきた。


リュケーとアフマドが再来した。


いつもの数台ではなく、10台は下らない馬車でやって来た。


「聞きましたヨ。魔鉱石の採掘ができたと」

「これは、つまり商談ということですな?」


呆気にとられたロドリゴだったが、すぐに気を取り直す。

もう、荒れ地が外の世界から隠れる段階ではないのだと商人たちが判断したということだ。


「ハイ。改めて自己紹介を」


アフマドは胸に手を当てて、それから両手を合わせた。


「私は『メイラ・エ・ウヴァーン商会』エイデストル大陸支社の支部長を務ル、本当の名前は『ザリハ・ノリョ=シシュメル』と申しマス。コノ度は大変素晴らしい取引に応じてくださり、心よりお礼申し上げマス」

「……これは、とんでもない」


ロドリゴが目を見開いた。驚愕したようだ。


「え?有名な人?」


荒れ地で長年住まう人間たちにはいまいちピンとこないが。


リュケーは苦笑し、アフマド――本当の名前はザリハだったか――は、笑い声を上げた。


「はは、この程度ですヨ、まだまだ精進アルのみ」


ロドリゴは、緊張の面持ちでザリハを手で指し示す。


「このお方はウヴァーン国の王族の傍系に名を連ねておられる」

「え!?」

「嘘!?」


さすがに知識を売りにする魔術師にはこれで分かった。


ウヴァーン国は、このエイデストル大陸とは海を隔てた、フォンゼン大陸の大帝国。

その末席とはいえ、王族の血筋ともなると大事である。


「そちらよりモ、メイラ・エ・ウヴァーンの支部長として、名を売りたいところですがネ」


気さくに笑い、ザリハは言った。


「説明させていただきますと、メイラ・エ・ウヴァーンは帝国一の商会デス。我が故郷だけでは飽き足らず各大陸、各国に勢力を伸ばし、支部や傘下に収める商会は数しれず。そのエイデストル支部に、私がトップとして在籍しているというわけデス」


「じゃあ実質世界一の商会……」


イルゲがボソリと言うと、それでやっと理解した荒れ地の面々は、震え上がった。


「今回の取引は、本国も注目しておりますよ」

「な、なんか突然ヤバいものに見えてきた」


グリウがゾッとしない顔で半透明の石を眺める。


「ヤバいんだよ最初から言ってるでしょ」


オハイニが突っ込んだ。


「魔術師の方々が我が商会をよく知らないのは、きっとエイデストルではメイラの名のつく商会が一つだけだからでショウ」

「メイラ……アラト古語では富という意味か」


イルゲが思案げにすると、ザリハはニコリと目を細めた。


「どうにモ、エイデストルは混乱の時代以降、各国が独自にルールを定めて、一つの商会が支部を他の国に作れないのデス。だから名前を変えたり他の商会を買ったりして、裏で繋がっていマス。バラバラだから知名度もないのでショウ」

「なるほど」

「まあ、我が商会のことはここまでにして……さっそく本題に入りまショウ」




西の村の広場に、簡易的な天幕が作られた。

フォンゼン大陸の騎馬民族が使う移動型の住居らしい。商隊が野営になるときに運んでいる、メイラ・エ・ウヴァーンの必需品だとか。


その中で、荒れ地の命運がかかる会議が始まった。


まず、荒れ地の状況。


鉄鉱石の選別は、まだ終わってはいないがだいぶ目処が立った。


意外だったのは北の村が協力的で、作業に定期的に加わってきたのだ。いまいち意図はわからないが、北の村長いわく、鉄鉱石のおこぼれをもらうのに、手伝いもしないのは気がとがめるとか。


鉄鉱石の貯蓄は、荒れ地全体で分配する予定だった。すでに何度か北の村には渡している。


問題は、南の村だった。レイスの事件以降、東西は無視され続けている。もちろん、鉄鉱石の分配のことについてもなしのつぶて。


「そのうち何かしら手を打ちましょう。今は南に構う暇もありませんしの」


ロドリゴは顎を撫でながらそう言う。


「魔鉱石の本格的な採掘はすぐにでも始められるとのことだったが」

「ああ、いつでも」


オハイニが自慢気答えた。


「ヴィーオは坑道の中には入れないが、その他の準備がやってくれるから、アタシとイルゲがどっちか入れば済む話さ。リオールたちもそのうち参加させるから、すぐにまとまった量が安定的に採れるよ」

「魔術師が一人いればいいのか?」


トールが不思議そうだった。


「見た感じ、一つ採るのに時間かかってたが」

「前に言ったと思うけど、そこのこれ、同じ大きさの鉄鉱石の50倍の値段がつく」

「……これで鉄鉱石50個分。つまり……必死に掘らなくていいのか」


真顔でじっと見つめるトールの視線の先、木箱にビロードの布が敷き詰められた真ん中に、半透明の鋭い線を描く鉱物が鎮座している。

巨大商会のザリハが楽しげに収めていた。


「そうデスネ」


そのザリハがニンマリと笑う。


「そして、我々の手にかかれば最初の1カ月は200倍の値段にすることも出来マス」

「にひゃ」


ダンが不思議な鳴き声を上げた。

それとは逆にロドリゴは、にこやかになる。


「期待しておりますよ。では、魔鉱石の掘り出しは魔術師方にお任せしましょう。しばらくは何も気にせずに、できるだけでよいですので」

「分かったよ」


「それでは……次は、深刻な水不足ですかの」


グランヴィーオがダンジョンの水を雨にする作業は、魔力と構築はグランヴィーオが魔道具で作り、あとはちょっとした術で発動するまで作業を簡略化した。オハイニとイルゲも交代でするようになって、能率的に雨乞いはできている。


北も南の方面にもたまに降らせて、地下水の量も増えた。だが、農業をするにはまったく足りないということが先日わかったのだ。


ロドリゴは目を細めて、彼が書きつけていた計画書をじっと見つめている。


「作物のこともですが、今後人口が増える予想のため、絶対的に足りないのはわかっていることではあったのだが」

「は?人が増えるのか?」


ダンがぎょっとロドリゴを振り返る。


「お前さんにはお話は何度かしていたと思うがのう」

「え、いや、……すまん、本気だとは思わなくてだな」


しどろもどろになるダン。


「あーそうね、増えるだろうね。街くらいにはなるでしょ」

「魔鉱石の売買だけで、とんでもないお金のやり取りと知名度アップになっちまうからな、その手の商売する奴らは来たがるだろう」


外から来た魔術師たちは各々頷く。


「イエイエ国が建つと思いますヨ」


ザリハがこともなげに言って、ロドリゴを見た。

全員が面食らうなか、西の村長は表情を変えることはなかった。


「農作物の方はどうかのう」

「あ、ああ。まず、試験区画は順調だ」


ビルスと、最近協力するようになった東の農業管理担当の男が姿勢を正す。


「見たことがないほど艶が良い。花の蕾も出てきたから、期待できるだろう」

「他にも色々してみて、生き返ったような作物も少し出てきた。聞いた話以上にいいぞ」

「良かったぁ」


イルゲがほっと胸をなでおろす。


「私達が今後肥料や土を用立てます。是非必要なものはおっしゃってください」


リュケーの言葉に、嬉しげにビルスは頷く。

はたとイルゲが気づく。


「……あれ?俺が聞いてきたことって無意味じゃない?もう外から買い放題だろ?」


オハイニとビルスがいっせいに顔を背けた。

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