死せる者の棲む地(7)
「さて、帰るよー」
「オハイニ、大丈夫か?」
ゼルが心配そうに彼女の手を握ろうとしたが振り払われた。
「それこそアタシ(東の魔術師)をどうにかしようとしたら、今鉄鉱石を抱えてる西と東がいっせいに敵に回るんだべ?ないない」
「そうは言ってもな……」
「トール、心配だろうがグリウはお姉さんに任せなさい」
さあ帰った!とマントを引っ張られ、渋々移動する。
あっさりと村から出て、帰路につく。
ゼルが何度も南の村を振り返るが、そうしたところで何も変わるはずがない。
「さっきの……ササラ?ってどうなったんだ?何か消えたっぽいが」
トールが恐る恐る聞いてくる。
心配をするのか、死霊ごときを。
「問題ない。契約は生きている以上、そのうち修復する」
「やっぱり消したのか」
複雑そうな顔をして、それ以上は聞いてこなかった。
ラクエはいつもと変わらない表情で大人しく抱かれている。
西の村に帰り、ロドリゴに報告する。
彼は苦笑して、お疲れ様でした、とだけ言った。
「先に鉱山のことは了承を得たので、計画に支障はないでしょう。荒れ地の死霊の実態も知ることができたうえ、強力な使い魔を増やされた。今後はそれが生きてくるはずです。そうお気を落とされることもありません」
隣で聞いていたトールがえ?と振り返ったようだ。
「落ち込んでるのか」
「……」
そうか、自分は落ち込んでいるのか。
おそらくそれは、南の村で思った通りの成果を出せなかったからではない。
「……まあ、爺様の言う通りだ。南の村と仲が悪くなったのは、あれは仕方ねえだろ」
ぽん、と軽く肩を叩かれた。
それで少し心が軽くなったのは、我ながらおかしなものだと思わずにいられない。
グランヴィーオたちに遅れること半日、オハイニとグリウが帰ってきた。
「いやーなんかよくわかんねーけどひどい目にあったぜー」
後遺症も無いようでけろりとしたグリウを、トールとゼル、話を聞いていたベルソンが寄ってたかっておもちゃにしている。
「無事で何より」
ロドリゴが疲れた顔のオハイニにねぎらうと、彼女はへらりと笑う。
「ああ、なんかカーネリアさんがことを荒立てるなって一言言ったら、遠巻きにされるだけで何にもなかったよ」
「ほっほ。道理が分かるお人ではあるようだからの」
オハイには肩をすくめた。
「それで分かったけど、南の村長が暴走気味。テヌって魔術師に挨拶されたけど、彼女には表立って敵意はなかったかな。村でも今回のことで村長派とカーネリア派で分かれたみたいね」
「うむ、少し面倒なことになりましたな」
「今のところアタシらには関係がないしね、様子見でしょ」
「あっグランヴィーオサマ」
グリウがトールに肩を掴まれたままこちらに寄ってきた。
「助けてくださってどうもでした!よく覚えてねーけど、やばかったみたいだし」
「いや……」
礼を言われることではない。むしろ……
「すまなかった」
「へっ?」
「危険な目に遭わせた。もっと警戒すべきだったと……後悔している」
「えっえー……?」
頭を下げると、グリウが全身を強張らせてトールに目で何かを訴える……トールはトールで、目を見開いて無言だったが。
「い、いいですーって!俺はほら、こう、元気だし!」
「それでか……」
トールが何か小さくつぶやき、首を振って、こちらの肩を叩く。
「グリウは無事だし、本人もこう言ってるだろ」
「だが」
トールがグリウに目配せすると、彼は何か思いついたようだった。
「……あーそうそう、それで、犯人捕まえて使い魔にしたって聞いたんすけど、出せます?」
「……ああ」
もう2日経っているから復活できるだろう。
オハイニに断ってから、魔法を構築する。
簡単ではないが、契約がある上にあれは霊体だ、素体の構築はいらないからすぐに再召喚という形で呼び出せた。
『あっはー!復活ですわん』
「えーなんでこのテンション!」
出てきて早々珍妙なことを抜かすササラに、グリウが指を差して笑う。それを見て、ササラはキョトンとした。
『アラ、あなた誰かしら』
さっそく超特大級の発言をかました。
一瞬で場が凍る。
「……ほおお?」
さすがに、グリウは怒ったらしい。
「俺はグリウ。あんたの手下?に殺されかけたモンです」
『……あっ』
うっかりと言うようにササラは口を手で押さえた。
「ちょっとツラ貸してくんねーかなー?いや今じゃねえよー?今度な、俺専用に銀の矢出来てくるんだわ、その試し撃ちに付き合ってほしいなーなんて」
『は、そ、それは、ラクエ様とマスターにお聞きしないとぉ……』
「許可する」
「きょーかー」
『アアッご無体な!?』
「よーしよし、ちいっとばかし痛いかもしれないけど我慢してくれな……3分の1くらい削れるかもしれないけど」
「全部でも構わないが」
「じゃ、半分ってとこで」
『ひいいいいご勘弁をおおおおお』
「ま、死霊だしねー」
矢じりに魔法かけてやんよ、とオハイニがすごみを効かせてのたまった。




