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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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死せる者の棲む地(6)

「いや、まあ、死霊が大暴れ!とか言われたらねえ……」


もう何も言えないと、天を仰いでオハイニは嘆く。


「それよりも制御を失ったバ・ラクエが気になった。要因が分かっている以上、刺激する気も起きなかった」

「まあ、命令聞かない猟犬ほどやっかいなものはないわな」


ゼルが肩をすくめてうそぶく。


「けど、本当に使い魔にする気なのか、その、」

『わたくし、サザーランドと申します』


ぱっと、いきなり現れるレイスの女。


「……サザーランド?」

『はい。正式名称はそうです。わたくしも実は恩讐だけが残った霊で、それにたくさんの霊がくっついた、今のラクエ様と近い状態なのですぅ』

「何このにこやかな霊」


オハイニが引いた。


「美人だよな」


ゼルが唸る。


「なんでササラなんだ」

『ラクエ様がそう呼んでくださるので……えへ』

「…………………そうか」

「うわ、グランヴィーオのそんな嫌そうな顔初めて見た」


『心配はございません!わたくし、尽くす女なので!』

「……本当に死霊のコントロールは効くのか」

『正確には、半分以上が何も言わず従ってます。他は言うこと聞かせちゃいますのでご安心を。あ、ただ、今後わたくしレベルの死霊が出ないとも限りません、そうなるとガチンコ勝負です』


「……被害はないとは言い切れないんだな」

『そ、そこは目を瞑っていただけると……』

「燃やすか」

『ひい!』


「ど、どうしたのアンタ……」


オハイニが何やら顔を引きつらせた。


「どうもしない」

「いや明らかに性格変わってるんだけど。いつもの私と俺どころじゃないじゃんよ」

『こちらが本当のマスターですか?確かに違うよね、こう、私を今にも消そうとするあの鬼神のような姿……』


頬を染めて目を潤ませるササラに、グランヴィーオ含め全員が一歩後ろに下がった。

そして、


「何の話をしている……?」


――最悪の状況に陥る。


いつからいたのか、近くにエンツィオが呆然と立っていた。


ササラを見て、それからグランヴィーオとバ・ラクエを交互に見る。

わなわなと震えたかと思うと、


「そうか、貴様ら、死霊と通じていたか」

「どうしてそうなる?」


オハイニが思わずといったように真面目な口調になった。


「……結構状況的にはクロじゃねーの?」


もはや現実逃避を始めたゼルと、トールはいっそ笑っていた。


「東の村長も人の話聞かねえとは思ってたが、ぶっ飛びはしなかったな」

『通じてはいるよね、マスターと下僕だもの』

「やっぱり燃やすか」

『マスターひどい!』


「何をごちゃごちゃと……!貴様ら、死霊と結託して我が村を襲うつもりだったか!はっ、そのガキも……!?」


ラクエもたしかに、死霊の類ではあるが……


『ガキとは失礼な!』


何故か、胸を張ってササラが一歩前に出る。


『このお方をどなたと思ってるわけ?この荒れ地の最強にして最高の、悪神バ・ラクエ様!そんじょそこらの死霊と一緒にしないでくださる!?』

「か……」

「あ……」

「……」


思わず、ササラの存在を霧散させた。


「いやー犬は飼い主に似るって言うけどねえ……」


オハイニは半眼でグランヴィーオを見やる。とてつもなく失礼なことを言われた気がするが、よく理解できなかった。


エンツィオは白目を剥きかけている。


「……あ、悪神……!?くそ、皆のもの出合えー!」


騒ぎを聞きつけ、どんど人が集まってくる。


「あーあー」

「どうする……!?」


どの程度かはわからないが、危機的状況だろう。


やれやれ、とオハイニが面倒くさそうに頭をかく。

そして、近くにいたトールに耳打ちをする。

トールは少し驚いたようだったが、最後には頷く。


「グランヴィーオ、アタシがどうにかするから、アンタは黙って、何もせず、そのまま立ってて」

「了解した」


オハイニが強く言うので、頷いておく。


南のほとんど全員が出てきているのかと思うほどの人だかりで、何人かは武器を持っている。


うっすらとした敵意と、疑念。

彼らの顔からは村長ほど強い感情は見当たらない。


オハイニが息を吸った。


「誤解を招いたのは謝る。けど、アタシらの話をまずは聞いてほしい」

「何を今さら!貴様らが死霊と会話していたのを私は見たぞ!」

「その通りだ!けど、あれはすでにこの大魔術師グランヴィーオ様が手なづけた使い魔だ。あれは敵である他の死霊に対抗するため、アタシらの案に乗ってくれたのさ、絶対服従でね」


まあ、間違っていない。

核心はぼかしているが。


数人は、特にテヌの周囲の人間は彼女がなるほどと頷いたことで少し空気を和らげた。

だが、エンツィオはなおも声を張る。


「死霊というだけで悪!我らが神は認めておらぬ!それをあまつさえ……悪神だと?邪教徒め!」


悪神、という単語に、周囲がまたざわめきが大きくなる。

こころなしか、敵意も見え始めた。

さらに村長は指を差し、つばを飛ばしながら怒鳴る。


「この村を乗っ取る気だろう!もう我が神を奪われてなるものか、この外道の邪教徒――」

「アタシらは邪教徒なんかじゃない!アンタらの言う邪教徒はあの卑怯な腐れ外道どもだろう!アタシらは関係ない!」


オハイニが今まで見たことのないような剣幕で喚く。

それに気圧されたのか、しんと静まり返った。


「あのクソ野郎がアンタらをどう騙したかなんて知ってる。心底あれとは一緒にされたくない。アタシらは荒れ地の民だ、それ以上でもそれ以下でもない。

ここに死霊を伏し悪神を従えたお方がいるんだ、アタシらがあいつらに怯えて暮らさなくてもいい日がすぐ訪れるさ」


オハイニはゆっくりとエンツィオの前まで歩いていく。


「今は信じなくてもいい、ただ、穏便に終わらせようぜ。差し当たってはグランヴィーオサマ、トールにゼルは今ここから帰してもらう」

「なに……」

「アタシはグリウが起き次第、一緒に帰る。その後は知らない。それでいいでしょ?」


「……今日起こったことは各村に通達する。それでもいいのか?」

「どーぞ」


ふん、とオハイニは鼻を鳴らし、こちらを振り返った。

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