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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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死せる者の棲む地(2)

グランヴィーオは、最近構築した魔力絶縁の上位互換を解いた。


「……ひぃっ!?」


案の定、ベールの女は悲鳴を上げてその場でへたり込む。驚愕に目を見開き、ガタガタと震え、だんだんと顔から血の気が引いて後退りを始めたところで……魔力絶縁を掛け直した。


女は詰めていた息を吐き出し、倒れそうになる体を腕をついて支えた。


「なんだ?どうした!」


慌てた南の村長は膝をついて女を助け起こす。


「何度経験しても慣れないわ……」


かなり離れていたオハイニも戻ってくる。距離があれば受ける影響も少ないらしい。あとはグランヴィーオとバ・ラクエの、魔力吸いと悪神の圧迫感を知っているかどうかという心構えだろうか。


「貴様!何をした!」


南の村長に食ってかかられた。何をしたといわれても。


「魔力絶縁を解いて、かけなおした」

「魔力?本当に魔術師か!?」

「ええ、本当です!本当ですからおやめくださいませエンツィオ様!」


悲鳴のような声を上げた女。南の村長は怒りながらもこちらから距離を取った。


「どういうことだ、テヌ」

「……そちらは魔術師の方です。そして、その女の子は……使い魔かと……」


青ざめたまま、女は目をそらした。


「途方もない力です。そして……あれは何かしら……」

「ウチの領主サマは特殊でね」


オハイニが肩をすくめた。


「まあ、魔力絶縁はアタシらみたいなしがない魔術師のためだ、親切な方だよ、お分かり?」

「……ええ、分かりましたわ。エンツィオ様。大丈夫です。信用いたしましょう。いえ、信用してください」


テヌと呼ばれた女魔術師は懇願するように、南の村長の肩に手を置く。


「こちらが不用意なことをすれば、一瞬で我々など潰されます、村ごと」

「……、了解した」


ゾッとしないような顔で、エンツィオは少し大人しくなった。

眺めていたロドリゴは咳払いをした。


「分かっていただけたところで、改めて。我が村に何用ですかな?」





南の村に異変が起こったのは一ヶ月ほど前。


村の外に薪を拾いに行った男が、そのまま帰らなかった。


何があったかと捜索隊が組まれ、村の周囲を探し回ったそのうちの一人も行方不明に。

ただならない事態と警戒し、村人は外を出歩かないよう気を付けていた。しかし、やはり閉じこもっているわけにもいかず、村から一歩でも出るときは必ず数人で行くようにと、命じていてもその数人のうち一人がいつのまにか消えていることもあった。


消えた住民は7人。


「1人目が消えたのと同じときに、死霊も目撃され始めたのだ。何か関係があるはずだ」


ロドリゴの家で、エンツィオはやや疲れた顔で話す。


「つまり、死霊の仕業だと?」


ロドリゴが聞き返すと、曖昧に頷く。


「魔物かとも思ったが、ああいうのは襲うだけ襲うか、餌のつもりでしかないだろう。死体や、血の跡くらい残るはず」

「けど、非物質の死霊も物質に触れるもんじゃないしね。目的とか、そういうのは普通はないよ。あれこそ生きてるものを襲うだけ」


オハイニの言葉に全員が考え込む。

どれもこれも、確かなものはないように聞こえる。

だから、頼ってきたのだろう、最近魔術師を擁した西の村に。


「どれも断定できない。南の村で調査するしかねえだろう」

「来て……くれるのか」


驚いたようなエンツィオ。


「そのためにお前は来たんだろ」


本当に死霊であるなら、魔術師が出ないわけに行かない。南の村に魔術師がいるのはオハイニすら初耳だったらしいが、そのテヌだけであり、彼女は解決策を持たなかった。


「ですが、手助けをする代わりにひとつ」


ロドリゴは、抜け目ない。


「鉱山の鉄鉱石については協力的にお願いしたい。今の作業は続けることを南でも承認くだされ」


エンツィオは渋々というように頷く。


「……カーネリア様も、せっかく掘り出したのならと仰せだ」

「それは良かった」


にっこりとロドリゴが笑う。


「では、グランヴィーオ様。よろしくお願い申し上げますぞ」



村が手薄になるのも良くないが、今は南の村の問題が急務だ。


ベルソンを中心に自警団を残して、オハイニは西の村ではないが魔術師として同行、トールとグリウ、それともう一人自警団のゼルという男を連れて行く。ゼルは流れ者だったらしく、数年前に村に居着いた年かさの男だ。


「オハイニとは久しぶりだなあ」

「ハイハイ」

「なあ、こっち(西)来いよ、ヨリ戻さねえ?」

「ヨリもなにも、アンタとはそんな仲良くなかったはずだけどねえ」

「つれねえなあ」


どうやらそういう仲らしい。

トールがげんなりとふたりを見ているが、どこ吹く風のゼル。

オハイニは若干迷惑そうだが。


同道している南の村長エンツィオと魔術師のテヌは、口数が少なかった。

村のことも気がかりだろうし、グランヴィーオの「脅し」が効いたらしい。……脅したつもりはないのだが。


南の村は、西の村からダンジョンへと向かう延長線上に近い位置だ。途中で道をやや逸れて、1日ほど歩けば辿り着く。


南の村は西の村ができるより前に、そこに村を建てていた。


フラウリアという神――神霊を崇めた団体だ。

昔は大陸の半分が信仰したとも言われる。だが、その神霊の力は徐々に衰えていき、組織としても衰退、最後は神を持たないヴェ・ニロー教に乗っ取られ歴史から姿を消した。


それが10年ほど前で、生き残りがこの荒れ地に流れ着き、村を作ったのだろうという想像はすぐに出来る。


「私は先に村に知らせてくる。テヌは皆を案内せい」

「はい」

「待った。一人になるんじゃない。アタシも行く」


村の佇まいが見えてきた頃に南の村長がはやって帰ろうとするのを、オハイニが呼び止めてついていく。


「あっ」


出遅れたゼルは切なそうにその背中を見送る。

テヌは一言も喋らず、そのまま歩いて、村長たちに遅れること数分で村にたどり着いた。

オハイニは入口で待っていた。


「南の村長はカーネリアさんに報告しに行くって」

「そうですか。……では、カーネリア様のもとに我々も参りましょう」

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