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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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踏み出す第一歩(4)

「ともかく、次は、これが採れます」


ロドリゴが咳払いをしながら続けた。


「埋蔵量もそれなりです。次が、あるのですよ、その意味がわからぬお方ではないでしょう、カーネリア総代は」

「む……」


南の村長が何故か悔しげにうめき、そろりと踵を返す。


「……話は一旦預かる。だが、今の作業はやめろ、いいな」


そして、すっとラクエの前を通り、手を伸ばす。


「あっ」


とは、誰が言ったのか。

ラクエが持っていた石を、大きな男の手が掠め取ろうと動いたその時。


すっ、とラクエの手が動いた。

すかっと、男の手は宙を引っ掻いた。


「……」


無言で佇むラクエ。

顔を赤らめた男は、さらに手を伸ばす。


「こ、これはカーネリア様にお見せする!」


さっと石を退かすラクエ。


さっ、さっ、さっ。

それが3回続いて、とうとう周りの刺すような目に気づいた男がそそくさと離れていく。


「泥棒かよ」


グリウの呆れ返った言葉に、全員が頷いた。


「よーっくやったラクエちゃん!」


きゃっきゃとオハイニがはしゃぐ。トールがなんだか微妙な顔をした。


「よく取られるって分かったな……避けるし」

「ラクエにはこの石を肌身離さず守れと命令しただけだ」


具体的な指示はしていないが、つまり自分が持っていないといけないということは理解していたのだ。


「その、なぜこの子がお持ちで?」


リュケーが不思議そうにラクエを見ている。


「この世界で一番安全な場所だからだよ」


オハイニが自慢げに言うと、リュケーはますます混乱したようだが。


「しかし、まさかこんなものが……」

「これが鉱山にあると分かったのも、グランヴィーオ様のおかげです。領主様がいなければ、このような新しい希望を見ることもなかったでしょうなあ」


鉱山の土くれを見ながら、ロドリゴは感慨深そうだった。


それらには鉄鉱石があるが、魔鉱石はまだラクエが持っているそれっぽっちだ。


偶然、魔鉱石の鉱脈付近を掘ってしまったのだ。


グランヴィーオが新しく構築した魔力絶縁が有能すぎて、魔鉱石に近づいているのにまったく気づかず、気がついたら高濃度の魔力に当てられて、魔力吸いの体質が危うくグランヴィーオを行動不能にした。

異変に気づいたラクエがグランヴィーオを坑道の外まで連れてこなければ、けっこう危なかったと思い返す。


そんな苦労して欠片を手にしたが、オハイニが言うように、大事なものは世界一安全なところに預けておくのが一番だろう。


「それで……私に見せたということは、何かご要望があるのでしょう?」


リュケーが表情を改めると、ロドリゴは深く頷く。


「鉄鉱石が終われば、これを売りに出したいのです」

「私に、ですか?」


恐れおののくようなリュケーに、ロドリゴは優しく笑う。


「そうなれば一番良いのですが、無理にとは言いますまい。ただ、知恵をお借りしたく」

「なるほど……いえ、嬉しいお話です」


リュケーも釣られたように笑って、それからもう一度まぶしそうに鉱山を振り返った。


それから東の村に戻り、商談になった。


それは村長たちの仕事で、その傍らでグランヴィーオたちはリュケーが持ってきた特別な荷物を吟味していた。


布にくるまれたそれらを開いて、出てきたものに全員が感嘆の息を漏らす。


「すっげー輝いてんぜー!」


グリウははしゃぐ。


「急なお話でそれが限度でしたが、いやはや、こんなことならもっとご用意すべきでしたね」


いたずらげに向こうからリュケーがそう言い、誰もが笑う。


銀製の武器や、装飾。リュケーに念入りに頼んだものだ。

使いやすそうなロングソードが二振り、それと短剣が5本、ネックレスやペンダント、指輪などがいくつか。

すべて、対死霊用の武器やお守りになる。


「軽い」


普段鉄の剣を差しているトールが、銀の剣を持って持って軽く振る。ベルソンも真似をしていたが……斧使いの彼には軽すぎたらしく、無言で首を振っていた。


「切れ味も問題なさそうだな」

「柔らかいから魔物とかには使えないよ。けど……よっと」


オハイニが軽く刀身に触れると、一層輝きが増す。


「何したんだ?」

「魔法だよ、死霊に効くやつ。数時間なら効果あるから、うまく組み合わせればパワーアップね」

「ほお」

「さすがに矢じりはないかー」


ちょっと残念そうなグリウも、次には用意してもらえるだろうと高をくくっている。


「しかし、数は心もとないな」


グランヴィーオがつぶやくと、それは全員思っているのか苦笑する。


最近だと鉱山を中心に西と東の人の行き来が活発だ。もちろん、死霊にも遭遇する。いまのところ大した被害がないが、今後もますます危険は増えるだろう。


「……なあ、ちょっと思ったんだが」


トールがそっと剣を置いた。


「自警団と東でこいつらを使うって話だが……いっそ、新しい団を作るってのはどうだ」

「……ふうん?」


オハイニがニヤリと笑う。


「いいんでない?」

「いいだろう」

「ああ、トールにしてはまともな案じゃね?」

「グリウ、表出ろ」


聞き咎めたトールが一瞬怖い顔をしたが、咳払いをして表情を改める。


「それで、鉱山周辺だけじゃなくて、荒れ地の……全体というか……」

「ああ、南とか?」


ニヤニヤ笑うオハイニを、睨みながらもトールは頷いた。


「死霊のことだって荒れ地全部の問題じゃねえか。できる奴らが対処するのは当たり前だろ」

「おおーかっこいいぜーひゅーひゅー」

「うるさい」


顔が赤くなっているトール。


「いや、実際いい案だって」


オハイニが椅子に座り、足を組んだ。


「バ・ラクエのせいで全体が物々しくなっちゃってるから」

「わたし?」

「いやラクエちゃんのせいじゃないよ!その、……まあともかく、他のところも含めて死霊の対策をするのは悪いことじゃない。巡り巡って自分たちのためでもある」


一体どれくらいの死霊がこの荒れ地に集まってるかは調べられない。姿を消せるような非物質を数えようとすること自体無謀だ。


裏を返せば、ちまちまと鉱山に近寄ってくる小さな数を相手にしても、きりがないということだ。なら、まとめて相手にすればいい。


「爺様に言ってみる」


トールが剣を包みながら言うと、


「かまわんよ」


と、少し遠いところからロドリゴの返事があった。

向こうのテーブルで話をしていたはずの西の村長は、にこにことこちらを見ている。


「私もちょうどそのことを考えていた。トール、お前にその件は任せるから、好きにやってみなさい」

「えっおっ……!?」


ぎょっとしたトールに、グリウとベルソンは無言で拳をぶつけている。

ロドリゴはますます笑って、


「さっきの南の村長に言ったお前の言葉、私の心をよく分かっておった」

「ああ、爺様も……え?」

「だから、きっと大丈夫だろうと。頼んだよ」

「お、おう……」


目を白黒させるトールが、しばらくしてようやく実感できたらしく、笑顔でグリウたちを殴り返していた。

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