踏み出す第一歩(3)
「こ、これは……」
東の村が懇意にしているという行商人のリュケーは、連れられた先の光景に絶句したようだった。
平凡な男だ。オハイニより少し年上で、人が良さそうな顔をしている。麦わらのような髪に黒い目で、背丈はそれほどあるわけではない。そのリュケーと護衛についてきた冒険者たちが、目にして驚愕しているものは……土塊の山である。
鉱山の入口近くに、山になっているそれは、グランヴィーオが坑道を掘り進めて出てきたものである。
とりあえず、掘った。
岩肌が崩れやすいと聞いたので、先日解析したダンジョンの魔術を参考にして、崩れないような岩壁にしながら、何も考えず掘った。
山を崩してしまう案もあったが、後始末も時間がかかるだろうと言うことで却下、掘れるだけ掘って、その後土塊に混じっている鉄鉱石を選別するという方法になった。
今は東と西の村総出で、選別作業をしているところだ。土を崩して、ふるいにかける。出てきた石をじっくりと見て、鉄鉱石とただの石に分ける。その繰り返し。今も10人ほどが分担で作業をしている。
「ちょっといいかね」
ロドリゴが呼び止めたのは、車輪が1個だけ付いた荷車を押している東の村の男だった。
その荷車に乗っている黒い石の山から、ロドリゴは一つ取り上げた。
「リュケーさん、これを見てください」
「まさか……」
石を丹念に見たリュケーは、ため息を漏らす。
「本当ですね……鉄鉱石です」
「すでに樽3杯分は出てきております。……これで、頼んでいたものは買えますかな」
「ええ、もちろんですとも!」
リュケーは顔を輝かせている。
冒険者たちも物珍しそうに作業場を見て、中には自分でふるいをやっている奴もいた。
リュケーはまだ山となっている土塊にうっとりと見入りながら、
「今回の馬車に乗っているものは全てお売りします」
「なんだと」
ダンが驚いた。
「ほうほう、担保はいりますかな。借用書もご用意したほうが?」
「いえ担保はいりません。この景色で十分です。契約書は欲しいですね、ですが……」
「ええ、値付けもまだですし、話を詰めましょう」
ロドリゴとリュケーがトントン拍子に話を進めている。
ダンがその横で目を白黒させているから、どうやらあまり二人の話題がわかっていないようだった。
そのまま話を始めそうなロドリゴとリュケーだったが、突然あたりに響いた怒声に、中断する。
「お前ら!何をしている!」
荒れ地の方から、怒り心頭といった男が早足でこちらに向かってくる。
リュケーはキョトンと彼を見て、それからあっと声に出さずに言った。どうやら見覚えがあるらしい。グランヴィーオも、かろうじて覚えていた。
他の面々は、苦い顔や苦笑をしている。
ともかく、あまり関わりたくないのは確かだろう。
怒りに燃えてこちらにやってくるのは、壮年の、白髪になりかけた大柄な男だった。
南の村の村長。
この鉱山の掘り出しに異議を唱えた南の村のまとめ役である。
「今すぐその作業をやめろ、西の」
今にも血管が切れそうなほど顔を真っ赤にする南の村長に、ロドリゴは片眉を上げた。
「どうしてかのう。お話はしてあったはずだが」
「南は賛成しておらん!」
「カーネリア総代にはお返事はもらえませんでしたな?反対するならご意見をいただける予定でしたが……進めても良いということでは?」
南の村は一方的にまくし立て、鉱山での計画を進める最後の賛否には何も言わなかった。その1,2回のやり取りで、グランヴィーオもかろうじて村長の顔は覚えた。
「傲慢すぎるぞ!荒れ地の代表にでもなったつもりか!勝手に、こんな……!」
「勝手なのはどっちだ」
ロドリゴの後ろに控えていたトールが一歩踏み出す。
「さんざん集まってくれと爺様が声かけても南は顔も出さなかっただろうが。それをあとからしゃしゃり出てきて勝手をするな?南以外は、あのデル・オーですらいいって言ってんだぞ、聞いたときに反対だといえばいいだろう!」
「色々あるんだ!若造ごときに話にならんな!」
「んだと……」
トールが怒りに任せてさら足を踏み出した……が、何故かはっとグランヴィーオ(と、その抱き上げているラクエ)を見て、勢いをすぼめた。
「ともかく!お前は引っ込んでろ!」
こちらは同じテンションのまま、南の村長はロドリゴにまた詰め寄る。
「今すぐやめろ。お前が偉そうな顔をしているうちは賛成できん」
「なら、どうすればよいので?」
「掘り出してしまったものはしょうがない、荒れ地の全村で今度こそどうするかを決めれば良い」
「はあ……お話になりませんな」
ロドリゴは、彼には珍しくぞんざいな仕草で手を振った。
そして、
「グランヴィーオ様、あれを」
「ああ」
ラクエを腕から下ろし、その彼女が持っていた袋から、彼女自身がそれを取り出した。
リュケーがダンに何かを言われたようで、こちらにおっかなびっくり近づいてくる。
それは半透明の、鋭い線を持った石だった。小さなラクエの手のひらに乗るくらいの、あまり大きなものではない。
「これは、魔鉱石というものです」
「まっ……」
リュケーは大声を上げかけた。が、なんとか飲み込むと、ラクエのすぐ近くまで行ってじろじろと石を凝視する。
「まこう……?新しい鉱物か?」
不審そうに、南の村長はラクエとその石を見ている。ロドリゴは小さく笑った。
「ええ。鉄鉱石よりもはるかに値がつく鉱物です」
「……私には真贋は分かりませんね、伝説のたぐいかと思ってました」
表情は驚いたまま、リュケーは軽く息をつく。
「ですが、魔術師の方がいるのなら……そうなのでしょう」
「なんだというのだ」
南の村長は苛つきながらも様子を伺っている。オハイニが何故か胸を張る。
「価値が分かる奴には分かるもんさ」
「なんだと」




