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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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荒れ地のダンジョン(10)


穴の向こうから、何かが飛んでくる。


「伏せろ、トール、ベルソン!」


思わず、叫ぶ。

だが、ふたりはグランヴィーオが言う前に、身体を地面に伏せた。


飛んできたのは、魔法で撃たれた何か。

あちらも目標、つまりこちら側が見えているわけではないのだろう。とんできた魔法は、壁に当たって消えた。


「うわ、魔法!?」


オハイニのぎょっとした声に応えるように、さらに数発飛んできた、が、やはり明後日の方向だ。


「積極的に魔力を使う個体がいるのか」


今まではいなかった、『魔術師』がいるわけか。

だが、やはり徹底した戦略があるわけではなく、こちらが攻撃したから反撃した程度だ。

魔物でも、さほど知能が高くはないのだろう。


「……突入する。トール、もしダークウルフがいたら、何体まで相手にできる」

「3体……だな、さすがにあれは一人1体が限度だ」

「なら最大3体までなら戦闘だ。それ以上なら一旦引くぞ、作戦を練る。オハイニ」


話しかけられると思っていなかったらしいオハイニはビクリとした。


「うえ、はい?」

「魔法の防御はできるか」

「え、えっと……」


少し考えて、


「……移動に合わせての防壁とかは無理なんだ、構築したことない。結界で……なら」

「いいだろう」


魔法を使う個体の数は少ないはずだ。特定できれば集中狙いしてもらえばいい。


「俺が合図したら、いくぞ。グリウ、また矢を入れろ」

「へーい」


先ほどと同じように、数本の矢が穴の向こうに飛んでいく。


今度は、魔物は出てこなかった。

その代わり、魔法が数発飛んでくる。いくつかはやはり適当なところに着弾したが、そのうちのひとつはベルソンの近くに――だが、当たる前に宙で霧散する。


「まあ、結界は得意なんだけど……」


オハイニが、結界を作ったらしい。

ベルソンは少し固まっていた。だが、その後なにやら振り返ってぐっと親指を立てる。


「アンタそういうキャラだっけ!?」

「突撃」

「もー忙しいねえ!」


グランヴィーオの号令に、全員が急勾配を滑るように走って降りていく。


だんだん穴が大きくなっていく。視界が広がる中、コボルトが棍棒を持ってこちらに向かってきた。


「遅ぇ!」


トールがさらに加速し、コボルトにすれ違いざま剣をお見舞いする。

次のうさぎ型は、グリウの矢に当たり、さらにコボルト数体が急勾配を走って上がってきたが、ベルソンが無軌道に見える斧の振り回しで、叩き伏せていた。


穴の向こう側――5階フロアは、今までで一番広いようだった。


いきなり視界がひらけて、全体を把握できなかった。だが、その広い空間にあちこちに魔物がいる。


ダークウルフは――2体。

コボルトは、視認できる数は6体以上。


さらに、見たことのない新しい個体がいた。

豚のようなまるまるとした胴体、うっすら体毛が生えているが、青白いそれは、自分が危機に陥ったら勢いよく飛び散らかす攻撃の針だ。ピックピッグ。


「数が多い……!どうする!?引くか!?」


トールの問いに、グランヴィーオは答えた。


「やる。オハイニ、一度全員の前に結界を」

「え?分かった」

「グリウ、構えていてくれ、他はそのまま動くな」


ほとんどお互いの距離が離れていなかったため、だいぶ安全が取れた。


案の定――

オハイニ全員の結界を張った十数秒後、魔法が飛んできた。

目の前でぱしゅぱしゅと音を立てて弾ける、魔力の塊。ぶつかれば吹き飛ばされるだろう。


「グリウ、魔法を使ったやつをやれ」

「なーるほど!」


コボルトの2体だ。

グリウはちゃんとそれを見ていて、グランヴィーオが言い切る前に矢は彼の手を離れていた。


トールとべルソンは。

端のほうにいた魔法を使うコボルトに矢が刺さったと同時に、駆け出した。

トールは近づいてきていたコボルトに、ベルソンはその数歩奥にいるコボルトたちに、目をつけたらしい。


トールは、素早い動きで、コボルトの脇を通り抜けざま剣を振るう。犬の首がごろりと落ちた。


ベルソンがその横を走り抜けて、四つ脚で駆けてくるコボルトらに向かっていった。

飛びかかってくる犬型を、ベルソンが斧を振り上げて腹を斬った。同時に、その血しぶきを避けるように一歩横に移動すると――振り上げたばかりの斧を力任せに地面に下ろす。

信じられない力と、反射神経だ。


その斧にかすったコボルトは、ギャンッと一声鳴いて下がり、そこに待ち構えていたトールに斬り捨てられた。ほんの1分も経っていない。

やはり、全員腕がいい。


残りのコボルトとダークウルフも動いている。コボルトを切り捨てたトールに、横合いから飛びかかってくる同じ犬型、それを難なく躱した彼に、大きな狼が突進してくる。


「っち!」


ダークウルフは太い前足でトールを薙ぎ払おうとする。全長は成人女性と変わらない、体格の大きいそれに、トールは相対、立てられる爪に剣を当て、躱した。


その彼の背後に回り込んだコボルト。

だが、飛びかかった瞬間に、バシン、と弾かれたように退いた。オハイニの結界だ。


少し離れたところでベルソンもダークウルフと対峙している。

こちらはベルソンの巨体に似合わない素早さと、縦横無尽に振り回される斧に狼型が怯んでいる。そのふたりをつけ狙うコボルトは、飛びかかろうとすると結界に阻まれ、順番にグリウの矢に狙われ、ひとつ、またひとつと倒されていく。


「ッグリウ!」


トールが叫んだ。ダークウルフの連続して殴りかかる前足を払いながら、大型の後ろに隠れてコボルトがいたことに気づいたようだ。


コボルトは一心不乱にダッシュし、後方――グランヴィーオたちへと向かう。


「待ってました!」


弓を構え、矢をつがえ、キリキリと引き絞る痩躯の男は、ピタリと自分たちに向かってくるコボルト見据えて、矢を放つ。

ぴゅう、と風を切る音と一緒に、とすっ、とあっけなくコボルトの眉間に刺さる。

その場でバタリと息絶えたコボルト。


その前方ではダークウルフが、ベルソンの斧に胴を叩かれていた。

よろめいたダークウルフが、体勢を整える前に、風を切る音とともに振り下ろされた斧に首を半ばまで斬られ倒れた。


さらに別の狼のモンスターは、トールの振りかぶった剣に首を跳ね飛ばされた。首から下の胴体は血を噴きながら、びくり大きく痙攣して地面に沈む。


結界を作るのに必死だったオハイニが、ほっと息をついたとき、くるりとグリウが彼女を振り返った。

その手には、矢がつがえられた弓。


「ひえっ!?」


矢が飛んでいく。

ひゅ、と彼女の横頭を通り過ぎ、ぎゃ、と断末魔の悲鳴が上がる。

オハイニが後ろを恐る恐る振り向くと、少し離れたところにコボルトの死骸が、ぽつんとあった。


「……あ、ああ、あれ狙ったのか」

「悪い悪い、言うより射ったほうが早くって!」


グリウは謝りながら周囲を警戒する。

コボルトやダークウルフは積極的に攻撃してきたが、残った豚のようなモンスターはうろうろとしているだけだった。


「俺が行く」


トールが駆け出した。


「気をつけろ、針が飛んでくるはずだ」


グランヴィーオの声が聞こえているのだろうか。

まっすぐにピックピッグに向かっていくトール、それを見たオハイニが、


「それなら……」


魔力封石から魔力を引き出し、魔術で結界を作った――ピックピッグの周囲に。

トールの間合いに入った途端、豚型は全身を震わせる。


その体皮から細かい青い針が無数に飛ぶ。


間一髪だった、結界は針を通さずに、地面へパラパラと落ちていく。びくりと足を止めかけたトールだったが、そのまま数歩走り、剣を上段に構えた。

ピックピッグは結界から逃れられず、鳴き声を上げながら透明な壁に体当たりを繰り返している。


「トール!そのまま斬って大丈夫!」


オハイニの言葉に、ざっと振り下ろされたトールの剣。


ぱっと結界は砕け散り、中のピックピッグは首から血を流してバタバタともがきながら倒れた。


周囲には、生きたモンスターの姿がなくなった。


「終わり……?」


ぽつりとオハイニが言った。


広すぎる空間であるため、まだ敵がいるか確認できない。

目で見えるのは、かなり遠くにおそらく次の階へだろう穴が開いているということ。

そして、もう少し離れているところに、気になるものが……


だが。

すぐに、異変が起こった。


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