荒れ地のダンジョン(9)
ちらりとこちらの方を振り返ってから、また前を向き直り続けた。
「元貴族の一族なんだ。爺様が長老だが、昔は……アイースルっつー国の王族に代々仕えた古い家のモンだ。だが、俺らが小さい頃にかのユグトル帝国に国を滅ぼされてな」
淡々と話すトールと、グリウやネべルソンはその頃からの知り合いということだろう。東の村のオハイニは違うはずだが、知っているのか口を挟む様子はない。
ユグトル帝国。
30年以上前、その帝国に皇帝として即位したマイディリド3世が始めた大陸統一戦争。
もともと強大な帝国だったユグトルは、すぐさま周辺の小国を飲み込み、あらゆる国と戦い、制圧し、怒涛の勢いでその領土を広げていった。
その犠牲となった国のひとつが、トールたちの母国ということだろう。
「王家は全員処刑されたと聞いた。ついでにその忠臣だったウチの一族も……ってところだったが、爺様が帝国と取引して、全部の処刑は免れた。爺様は宰相だったんだが、国が帝国の領土になったときに代官が必要だってんで、その代官になったんだ。おかげで俺たち含め、助かったのもいたが……」
「俺の親父は、村長の兄貴の娘の嫁婿だったって。んで、剣はとんでもなく上手かったらしくて、騎士団長になってたらしい。よく覚えてねーけど」
グリウが言った。
「だから、まあ処刑されたんだと。トールの親父さんも、ベルソンの両親もそうだってな」
「俺の父は戦死だ」
ベルソンがボソリと訂正した。
「あ、そうだったっけ。悪かった」
「いや」
「そういう、ようは強そうだったり健全な大人は殺されたんだ。反乱が起こらないように、だなー」
あ、とオハイニが声を上げた。
「それで西の村はお前たちより上は少なくて、突然ロドリゴ爺くらいの人たちばっかなんだな」
グランヴィーオは、ほんの少ししか西の村に滞在していなかったからよくは分からないが、言われてみれば妙齢の人間は少なかった気がする。
「そうだな」
トールは頷いて、
「まあ、それで、一族の滅亡は防げたんだが……知ってるだろうが、そのあとユグトルの滅亡だな、その後が大変だった」
十数年前、大陸を戦火で燃やし尽くしたユグトル帝国は――突然、一夜で滅んだ。
その後の混乱は、地獄だった。
秩序のない時代は何年も続き、この数年でようやく落ち着き、復興へと歩み始めた。
「俺たちは住んでた土地を追われて、あちこち戦争が起こってるのを逃げ回って、ここ『荒れ地』にたどり着いた。10年前……くらいか?」
「西の村が出来たときに東の村と揉めちゃってなー」
「あーそれで。アタシその頃いなかったからよく知らなかったんだよね」
オハイニが納得、というように手を打ち鳴らす。
「で、えーと、グリウが弓使いなのは……」
「剣術がすごい苦手でさー」
グリウははは、と乾いた笑いをこぼす。
「親父は俺に期待してなかったのか、そんな厳しい訓練とかはさせられなかったな。弓が得意だって気づいたのは、みんなで逃げ出してうろうろしてたときに、戦えるようにっていろんな人から教えられた中に弓があって……逆に、親父が生きてたときに、見込まれて稽古つけてもらってたのはトールだったぜ?」
「ああ……」
トールは曖昧に返事をした。
「ってことで、俺は狩人として活躍中。トールやベルソンは見回りとか村の周囲の魔物退治とか、そういうのやってる」
「グリウが飛び抜けて弓が上手くて、獲物やら魔物を仕留めてくるんだ、俺たちは村に近づいた奴らを倒してるだけだ」
倒しているだけ、とトールは言うが……
「だが、3人とも並の冒険者より実力は上だろう」
グランヴィーオの言葉に、トールがぎょっと振り返った。
「は?」
「先程のダークウルフ」
グランヴィーオがラクエの持ち運びについて考えているうちに倒された狼型のモンスター。
「あれも中堅の、ある程度依頼の成功率が高い冒険者にしか任せられねえ。それより下は極端に討伐確率が下がる」
「へー……初めて見るけど、そんなやつだったんだ」
「動きが素早すぎる。まず近距離で勝てる見込みがない」
「……振り回したら当たったが」
のっそりと、ベルソン。
グランヴィーオは頷いた。
「さっきのは致命傷は脇腹に深い傷、それと首の刺し傷。普通ならトドメは弓か、魔術師がいれば魔法だ。だが、お前らが仕留めた2体とも斬撃だ。目が良くて……瞬発力が良い。それから……思い切りも」
誰かがそう言っていた。
「戦士はそれに加えて体力と筋力……がいる。グリウはそれを持ち合わせていないが、勘がいい。武器は何であれ、戦うならもってこいの人材だろ」
「……アレ?俺褒められてる?」
ぽつりと後ろからこぼれたつぶやき。
「そうだろうがよ」
トールは呆れたように笑った。
「雑談はここまでだ。次の階だぞ」
前方が、いきなり急勾配に下がっていた。その向こうに大きな……おそらく3メートル四方はある穴が空いている。
いきなり道が下がっているため、上方にいるグランヴィーオたちに穴の下の方が隠れて見えない。
「どうする」
トールが伺ってくる。突入するか、それとも他の方法を取るか、考えあぐねているんだろう。
「敵がいるなら気づかれている。そうだな……グリウ」
「んお?」
「2、3射ってみてくれ。全員戦闘準備」
全員構えたところで、グリウが弓を引き絞る。
ぴゅ、と空を切る音とともに、矢が穴の方へと飛んでいく。
すると、すぐさま道の下から駆け上がってくるうさぎ型。
3匹。
構えていたトールとベルソンが、1匹ずつ斬り捨てた。やはり、目がいい。
もう一匹は、グリウの矢が頭にかすり、怯んだところをトールが剣を突き立て、絶命した。
そこへ……
ぶわっ、と突然、周囲の空気が乱れた。




