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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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荒れ地のダンジョン(8)

はっとしたトールたちは慌てて武器を持って居住まいを正す。


「ど、どうするんだ?」

「そぉね……」


ちらりとオハイニはこちらを見た。具体的な指示はグランヴィーオに任せるつもりらしい。


「時間が惜しいが、ひとつずつ覗いていくしかあるまい」

「全員で?」

「ああ。モンスターが潜んでいる可能性が高い。今までの傾向だと動物型だし、不意打ちには注意しろ」


人ひとりが立って歩けるくらいのその穴は、暗くて奥が見えない。

穴の正面に、トールが剣を構えながら先頭に、ベルソン、グリウ、オハイニ、グランヴィーオ(と、抱えたラクエ)の順に並んだまま、そっと歩を進めていく。


そうして、だいぶ近づいたときだ。


ばっ!と、暗い穴からなにかが飛び出してきた。


それが、警戒していたトールに正面から飛びかかった。

とっさに剣をふるったが、間に合わなかった。相手の動きが速すぎる。


「……ぐっ!?」


トールの腕をかすめ、ざっと地面に降りたそれは、小動物のようだった。

また素早い動きで何処かへ行こうとする――


が。

ひゅ、と空気を裂く音がして、その鼻先の地面に矢が刺さった。


一瞬動きが止まったそれに、すぐさま矢が重ねられた。矢は胴の真ん中を貫き、力を失って倒れ込む。

その場で息絶えたそれは、うさぎのような形の魔物だった。

普通のうさぎなら、脚の先は鋼の鎌のようにはなっていないだろう。


トールはどうにも当たりどころが悪かったらしい。膝はついていないが、動けないほど激痛なのか。


血が、腕を滴り地面に落ちる。


「トール!傷見せな!」


慌てて駆け出そうとするオハイニを、グランヴィーオは襟首を掴んで押し留めた。

間髪入れず、穴からもう1匹、同じうさぎの魔物が飛び出してきた。

前に出てトールをかばうベルソン。


「ちっ、やっぱりか!」


舌打ちしながら数歩後に下がって、オハイニと並んだグリウ。

ベルソンの構える手前、一瞬で、うさぎ型は矢に撃ち落とされる。2本の矢を背中に受けて、うさぎ型はドサリと倒れた。


「トール、どうだ傷は」


べルソンが声に出してトールを気遣い、その肩を支えながら穴から離れた。

グリウはまだ動かず矢をつがえて、警戒している。


オハイニが今度こそトールに近寄り、彼の腕を取って見ると、うげ、と悲鳴を上げる。


「薬じゃダメ、魔術だな」


……相当ひどかったようだ。

グランヴィーオの腕に抱えられたままのラクエは、じっと穴の方を見ている。


「……まだいるのか?」

「わからない」


ラクエが感知できるほどの……つまり魔力の強い敵ではないらしく、彼女なりに警戒しているだけのようだった。グランヴィーオは、魔力絶縁の影響で気配や魔力の痕跡はまったく感じ取れない。


オハイニは、どうやらグランヴィーオが与えた魔力封石から魔術の行使を試みるようだった。


バッグに付けた魔力封石から、ふわっと光が漏れ出した。

光はするすると、糸を紡ぐかのように伸びていき、オハイニはそれを指先で操るように動かし、トールの血まみれの腕へと導く。


ぱあっと淡く光るのは、魔力を大量に使うせいで、調整が効かず漏れ出ているからだ。


「ふぅ……どうだ?」


治癒が終わり、オハイニは額を拭う仕草する。

トールは、驚いた顔をした。


「……きれいに治ってやがる」


腕を伸ばし、自分の目の高さまで上げる。それでグランヴィーオにも見えた。

たしかに、腕のグローブや袖は引き裂かれて血まみれだが、見える肌には傷跡も残っていない。


「すっげー」


一度弓をおろしたグリウが、気の抜けた声を出す。

グランヴィーオも、思わず感心した。


「なかなかの腕だな」


ここまで完璧に術を使いこなすのには、かなりの研鑽が必要なはずだ。

並の魔術師なら、今の3倍以上の時間がかかるだろうし、血を止めるだけだったり傷跡が残ったりすることもある。


「どーも」


だが、オハイニは浮かない顔だった。バッグに付けた魔力封石を手でもてあそぶ。


「魔力を予想以上に使っちゃったな。構築が甘かった」

「空にはなっていないだろう」


オハイニに渡したブローチにあしらわれた宝石は、グランヴィーオが1年ほど身につけ、魔力を封入した魔道具と呼べるものだった。


本来なら魔術師の魔力を込めるために何度も魔法をかけなければならないが、グランヴィーオの体質――魔力吸いは常に魔力を周囲から引き寄せている。自然と宝石に貯蓄され、今のように魔術師であれば誰でも補助の魔力として扱えるようになる。


オハイニに渡したものはかなりの量を封入したし、何より彼女自身の技量で、無駄な失敗や大量消費をしていない。


「まあね、今の傷くらいだったらあと5,6回は治せるよ」

「もうヘマはしねぇ」


トールは眉根にぐっと力を入れた。治った腕で拳まで握って、悔しがっているらしい。


「その意気よー」


手を振るオハイニは相変わらず態度が軽い。

その後、トールが穴という穴を暴き、出てきたモンスターをほぼひとりで仕留めた。

有言実行とばかりだ。


「負けず嫌いなんだよなー、トールは」

「るせ」


5階へ行くであろう穴を見つけたのはかなりの穴を攻略したあとだった。

やる気のトールが前衛を買って出て、また一列になって進んでいく。


緩やかに曲がり下がっていく道は、不自然なほど整えられていた。

まるで人が掘ったような穴だった。


そして、魔術師だけが見える魔力がそこら中に巡っている。


(発生源はどこだ?誰が構築した?)


それが分からないのがダンジョンだが。


ダンジョンの入口はグランヴィーオが作った、と言えなくもないが、この内部の魔力は自分のものではない。

解析が必要だが、自然物がもつ魔力と同じではないだろうか。


ただ、魔法として構築されている理由にはならない。これは、魔力の扱い方を知っている、しかも人間かそれ以上の知能の持ち主でなければ作れないだろうという魔法、あるいは魔術だ。


「……そういえばさー」


グランヴィーオのとりとめない思考を中断させたのは、同じ魔術師のオハイニだった。


「グリウってめちゃくちゃ弓が上手いんだね、びっくりした」

「まあなぁ」


褒められているのに、グリウは苦笑した。

喜んでいないのを目ざとくオハイニが気づいた。


「ん?なんかダメだった?」


グリウの、あはは、と笑う声が穴に響いた。


「いやー俺の親父が、剣の名手だったんだよ」

「剣?ってことは、騎士だったの?」


オハイニがびっくりしている。だが、グランヴィーオには話が見えなかった。


何故、剣の使い手が騎士と断定されるのだろうか。


「騎士中の騎士。騎士団長サマだったぜ!」


そこは自慢げに、グリウは声を張った。

なるほど。


「お前も貴族だったのか」


グランヴィーオは、言ってしまってから、自分の声が低くなっていることに気がついた。意識していないつもりだったのだが。

そんなグランヴィーオを気に留めていないのか、グリウはあっさりと答えた。


「あー……ちょっとだけ?」

「うちの……西の村の民は半分はそうだ」


これは、トールが言った。

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