魂の対価
梟にキスしたらイケメンが現れた!夢を見て、その部分だけ書いてみたくて、こうなりました。なぜ?ばかり。
時系列わざとですが、ごちゃ混ぜです。
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おえっ!と思った方は、好き確の作品でお口直ししてください。人生で一度は小説っぽいもの書いてみたかったんです。
「あなたが人間だったらよかったのに…ねぇ、もしもそうなら呪いはこれで解けるかしら、リフ」
そっと窓枠にとまる梟の嘴に口付けた。
瞬きの間に目の前には鋭い眼差しをたたえた男がいた。
本当に呪われていたというの?どうして…
その目を驚愕に染めていると耳に心地よい音が告げた。
「あなたが今、呪いをかけたのですよ」
恐ろしげな言葉と裏腹に微笑みは甘い。
アリアが目の前の現象についていけず混乱し後退ると、当然のように抱き寄せられ、自然と額にキスを受ける。
「ずっとこうして慰めたかった、アリア…」
コルセットがなくとも細いアリアの腰を左手で抱え取られ、右手は綺麗に伸ばされた髪を後頭部で撫で取る。黄色に縁取られた瞳がこちらを離さないと告げていた。その全てが愛に染まっているにも関わらず、リフはそこにいる。
アリアはゆっくりと現実を飲み込むように、微かに以前の面差しをたたえた睫毛に触れる。
リフは目を閉じ微笑むと、目元をくすぐるその手を取り頬によせ目を開ける。
「愛しています、アリア。そして私はまだここにいます」
次から次へと流れてくる涙をリフが掬い取ってくれる。
「アリア、一緒にここを出ましょう。あなたの自由な世界で、共にありたい」
アリアはその言葉で、リフに心を預けた。
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アリアがいなくなった。追手をかけたが、どの村や町でも何一つとして形跡が辿れない。
それは霞のように消えてしまった。
アリア……なぜ俺から逃げる……!この愛は…身体は…魂はお前だけのものなのに……苦しい狂おしい痛い…熱い……アリア…すまない……愛している…アリア………アリ………ア……
報告を受けたキリヒトは、一時感情を昂らせたが、すぐにその感情を失うべく身体の機能を停止させた。
とある国が歴史上最も豊かなある時代。
その国では王子を一人失っていた。いや、彼がアリアを一目見た時にはすでに失われていたのだろう。
国王夫妻は息子を失った哀しみよりも、彼がこれ以上苦しむ事がないことに深く安堵した。
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アリアを愛した人間は、その愛が炎となり身を焼き焦がす。物心着く前にアリアの両親はその愛に尽きてしまった。
しかしアリアは国を豊かにする聖女の力を持って生まれてきた。この力を持つが故、国は彼女に死を許さない。保護という名目で、城近くの塔に押し込められた。
最初の頃は、魔道具で衣食住が賄えるとはいえ幼子一人では寂しかろうと食事を運んでくれる女性もいた。しかしその優しい何人かが身を焦がし亡くなると誰も訪れなくなった。
アリアはようやく息をつけた。もう誰も殺さなくて済むと。死にたい。しかし生きて国の豊かさを守ることが愛してくれた人への贖罪と、心を手放さなかった。
隔離された塔には窓があった。そこに訪れる鳥たちは友人となってもその身を焦がさなかった。彼らだけがアリアの壊れてしまった心をかろうじて肉体に留めていた。窓辺から手を伸ばし、友とふれあい、空を見上げる。
気まぐれな鳥たちの中で、一羽の梟だけはひとときも離れないかのようにアリアのそばにいた。悲しみも、沈黙もその羽の中に受け止めた。
ある日、空を見ているところに一人の男が通りかかった。すぐに窓を閉めたが、遅かった。この国の王子であるキリヒトにとってアリアの美貌は、魅了魔法そのものであった。瞬間に外から苦しげに呻く声が聞こえてきて、アリアの壊れた心は凍りついた。
キリヒトは翌日も、その翌日も、痛みに耐え、苦しみに耐えアリアの塔を訪れた。命を縮めると分かりながらアリアに愛を告げずにはいられなかった。どんなに身を焦がしても、アリアへの愛と思えばこの痛みさえ喜びなのだと語った。
アリアは一言も話さなかった。表情ひとつ変えなかった。ただここから去ってほしいと願い、彼の愛が消えることを祈った。
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「ほう、お前は珍しいね。人の心を持ち、人間になりたいというのか」
森の中で一人佇む老婆は言った。
「だが残念だね、お前は人間になれない」
黄色に縁取られた瞳が不機嫌にひそめられる。
「はいはい、わかったよ。対価をいただくのだからちゃんと考えてやるさ。まずは心を覗かせておくれ。」
そう言ながら老婆は、その身に纏う黒いローブを引き摺って数歩歩くと手を伸ばした。
ややあってため息をこぼした老婆が出来ることはないとでも言うように首を振ると、鋭い視線にさらされた。
「いやね、あまりに救いのない運命だ。お前は彼女を救えるのかい?死なせてやるのが幸せだと思うけどね。そもそも人間になっちまったらお前も焼けてしまうだろうに…」
ぴくりとも動かず、ただなんとかしろと訴える瞳にまたため息をつく。
「仕方がないね、お前の魂じゃ出来ることも限られるのだが……」
言いかけると2つの光が梟の周りを飛んだ。
「ああそうかい、あんたらも一緒かい…。なら足りるかね。
……彼女にお前が人間になる夢を見せてやろう。目が覚めたら願うだろうさ、夢の続きを。夢の続きでお前は人間として彼女に触れられるし、思いも告げられる。まずはここへ連れてくるといい。なに難しいことはない、ただ2人で自由を願えばいいだけさ。
あんたらも彼女には元の、自分を愛した両親の姿に映るさね」
それを聞いて一羽の梟は森から飛び去った。何もなかったそこには一軒の家が建っており、二つの光が周りをゆっくり飛ぶように幸せを灯していた。
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男が気がつくと目の前にひとりの女が立っていた。誰何しようとしたが声が出ない。相手をよく見ようとして、自分に視覚がない事に気づく。
「あなたは死んだのですよ」
なるほど、そう言われて自身の状況に納得する。しかし身を焼く痛みがないことに寂しさを覚えた。死してなお愛した証が欲しかった。
「会いたいですか?…アリアに」
男は歓喜した。アリアに会いたい…!そうすれば証を取り戻せると思った。
女に連れられ、森を抜けると一軒家に幸せそうに微笑むアリアがいた。傍には一羽の梟と、二つの光。
「ああ、あなたにも見えるようにしましょうね」
そう言って女が手を振ると、そこには幸せな家族がいた。
「この姿を見ても会いたいですか?」
雷に打たれたような思いだった。だが不思議なことに、目の前の家族の静かな幸せが自分にもじわりと広がっていくのを感じた。アリアの幸せを守りたい、ただそう思った。
その想いを感じ取ったのか、女は暗い微笑みを浮かべ話し始めた。
「あの梟と両親の魂は、アリアの幸せの対価として私のものになる予定です。しかしアリアは彼らとの来世を望んでいます。このままでは叶わぬ夢ですが、彼らとあなたの魂とを交換してもいい。どうします?」
キリヒトが願うのはアリアの願いただひとつだった。心が再び燃えるのを感じた。目の前には女に似た老婆の姿があった。
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アリアが亡くなった。天寿を全うしたので、聖女の力は緩やかに減衰するに留まるだろう。アリアの贖罪は果たされた。頭を撫で、頬にキスを落とすと役目を終えたようにリフもその命をアリアの胸の上に預けた。1人の女と一羽の梟の亡骸だけが森に残った。
アリアの魂は消えかかっていた。アリアの両親とリフの魂は、死後もアリアを守るように寄り添い、導かれるまま老婆の元へ向かった。
「おや、わざわざ挨拶に来たのかい?だがね、契約の魂はいただいたよ。彼の国の王子様にね。強く輝かしい魂だったよ。お前たちは来世もともに暮らせるようにさっさとお逝き。アリアの魂が消えないうちにね」
さっさっと手振りで追い出すと、森へ飛んだ。
「はぁ、私の権能の範囲外なんだがねぇ…」
指を振ると2つの亡骸が消える。
「あんたの最初の願いだからね、叶えてやるさ。来世は人間だよ」
そう言うと、老婆はキリヒトの魂を呼び寄せた。
「アリアはあのままなら消える。守りたいならあんたの魂を修復に使ってやるがどうする?あんたの魂が強くともさすがに負荷は大きいが、まぁいけるだろ。愛があるならさ」
光を一層強くしたのを見て頷くと指を振る。キリヒトの魂が消えた。
「来世の差配なんて、何をもらっても割に合いやしないよ。まぁ、天界に連れ戻されないためならするけどさ」
もう一度指を振り、魔女は消えた。
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パタパタと廊下を駆ける音がする。バンッと強く開かれたドアの先に可愛い妹がいた。
「リフ兄様!」
「アリア、走ると危ないよ」
「あ、すみません。でもすぐにお伝えしたくて!」
「どうしたの?」
「はい、あの、キリヒト様をご紹介くださってありがとうございます!とても素敵な方ですわ!」
大声で言った後に、その言葉で顔を真っ赤にする妹が愛おしくてたまらなかった。
・愛に燃やされた人たちは全員、アリア周りに転生。アリアが可愛くて可愛くて、それだけでみんな幸せ。
・リフくんは恋人だったけど、その後の暮らしで家族になったので、転生したら兄。
・キリヒトくんは一目惚れのくせに重めの片想いで怖かったけど、魂が馴染んでるから、転生後のアリアは運命感じちゃってると思う。強すぎる魂削られてるから愛も適切な重みで、リフくんの親友。
・王室や国としては聖女殺せない、たとえ王子を殺されても。でも野放しにはできなくて、塔。でも衣食住とともに、本や必要なものも一応提供していた説。提供するための魔道具ある説は理屈じゃない。
・一番の責任者は、アリアに変な力持たせたカミサマ的なのだけど、優秀な天使さん的な魔女氏を手元に戻す術を失ったあたりが罰。存在が大きすぎて、劇的にはダメージ与えられず。
・魔女氏が老婆だったら女だったりは気分。裏や奥はない。