修行?
前略
元気にしてる? あれから赤ん坊の子守は上手くなったかしら? ま、あんたにはしばらく縁遠そうだけどね。
それはそうと、たまにはあたしの店を見学に来なさい。ハンスが指導役らしい事をしろって最近また五月蠅くなってきたのよ。別に畏まらなくて良いから、たまにはこっちに来なさい。
ただし、来る時は自分で考えた薬のレシピをいくつか持ってくること。患者に処方できるか見てあげるわ。それじゃあ、楽しみに待ってるわ。
リリア・ゲーベル
「リリアさん。こんな感じでどうですか?」
「ん? レシピは?」
「これです」
「えっと……なるほどね。基本レシピをちょっと弄った感じってとこかしら?」
レシピを記したメモを見ながら頷くリリアさんは私が調薬した“新薬”を一つまみ掌に載せ、迷うことなくそれを口に含みました。毎回のこととは言え、迷わず味見するリリアさんには驚いてしまいます。
「どう……ですか?」
「このレシピって1単位当たりの量よね? なら“クロガネソウ”を半量にして“ミナミヒイログサ”を薬さじ一杯入れなさい」
「え? “ミナミヒイログサ”を入れるんですか」
「あんたが作ろうとしているのは『解熱作用もある胃薬』でしょ。確かに発熱を伴う下痢や嘔吐はあるから発想は良いわ」
「あ、ありがとうございます」
「けど、いくら“クロガネソウ”に解熱作用があると言っても基本は胃薬に使うもの。解熱作用を付与したいなら“ミナミヒイログサ”か“ブラッドマリー”を入れた方が良いわ」
出来れば解熱薬の基材である“ミナミヒイログサ”が好ましいと助言してくれるリリアさんは「70点」とこのレシピの点数を告げました。リリアさんが今回私に課して合格ラインは「85点」。なにを基準にしているのか分からないけど、このラインを超えたレシピだけを新薬としてお店で使って良いと言われています。
リリアさんの薬局に修行に来て2日目。なかなか合格点をくれないリリアさんですが必ず改善点を教えてくれるのは師匠と同じです。
「どう? たまにはこっちに来て勉強するのも良いでしょ」
「はい。ありがとうございます。それに村からセント・ジョーズ・ワートまでの馬車代まで出して貰って……」
「そのくらい先輩に甘えなさい。店を持ってると言ってもまだジリ貧経営なんでしょ」
「そ、それは……」
「うちも軌道に乗るまで時間掛かったし悩むことないわ。それにしてもあんたの師匠はよくもまぁ、こんなひよっこを田舎に放り出したわね」
「師匠はきっと、私に早く自立して欲しかったんですよ」
師匠が亡くなったいまだからそう感じるのかもしれないけど、その思いはたぶんあったと思います。だからエルダーに店を開く決意をして、その店を私に任せてくれたんだと。全部、私の為を思ってしてくれていたんだと改めて感じるようになりました。




