嵐の日に
これはずっと前。私がまだロベッジ村にいた頃のお話。
私が暮らすロベッジ村はリンデンバウム王国の最北部、ジギタリス山脈の麓。冬になれば吹雪、夏は残雪で外界から閉ざされる村は貧しく、その日食べることで精一杯の日々を送ってました。
「――おかあさん、だいじょうぶ?」
私は簡素なベッドの上で苦しむ母親に声を掛けました。部屋の隅では父が時折咳き込みながら母と同じように苦しんでいます。
「ソフィア。お母さんもお父さんも大丈夫だから、隣の部屋にいなさい」
母は苦しいのを堪えて笑顔を作りますが、小さな私でもそれが無理に作ったものだと言うのは容易に理解できました。それでも私は母を困らせないように言うことを聞き、隣の部屋へと行きました。
「みんなくるしそう。コホンコホンいってる」
季節は晩冬。建付けの悪い窓の隙間から凍てつく風が入り込む部屋で私は小さく丸まります。
今年は冬に入るのが早く、冬支度もろくに出来なかったせいか暖を取る為の薪も十分ではありません。私の家も日中は暖炉に火を入れることはなく、そのせいなのか両親が相次いで体調を崩しました。元気なのは私だけ。いえ、この時の私は少し喉が痛く、熱ぽかったと思います。
「……おそと、くらくなってきた」
ガタガタとなる窓の外に広がる鉛色の雲は厚みを増し、それに比例するかのように風雪も強くなってきました。幼い私はその音に恐怖を感じましたがそれでも両親に心配を掛けたくない。その一心で元気な娘を演じ、嵐が過ぎ去るのを待ちました。




