冬のごちそう
「ソフィー、なにをそんなに祈ったんだ」
「秘密。アリサさん、ウサギの解体お願いできますか」
「秘密ってなんだよ。つか、その言い方なんか怖いぞ」
「他に言い方ないでしょ。あ、私うしろ脚が良いです」
ナイフとフォークを巧みに扱い、ローストされたウサギを切り分けるアリサさんに部位のリクエストを出す私。ウサギの捕獲から下処理、調理まですべて私がしたので一番美味しい部分を食べる権利があって当然です。
「ソフィーがうしろ脚なら俺は背中だな。ウサギ肉も背中は“ロース”って言うのか?」
「言うんじゃない? って、次はアリサさんの番だよ」
「え、俺最後なの⁉」
「だって解体してるのアリサさんでしょ?」
「別にアタシは最後で良いぞ。それにアタシはココを貰う」
私のお皿にカットされたうしろ脚を載せながらアリサさんが指定した部位はまさかの頭。肉付きは他と比べると悪いし、部位が部位なだけに食べるのには勇気がいるはずだけど……
「ウサギの頭を食べると幸運が舞い込むと言われているんだ。知らないのか」
「知らないです。けど、アリサさんってそういうのを信じるタイプだったんだすね」
言われてみれば去年も私たちが食べようともしなかった頭を喜んで食べていたっけ。言葉を聞くだけだとアリサさんが猟奇的な人に見えるけど幸せが舞い込むと言うのなら私もちょっと興味が湧くかな。
「さて、ウサギも取り分けたしソフィー殿?」
「はい。それではみなさんっ」
「「「乾杯!」」」
グラスを鳴らしあう私たち。師匠同様、お酒は控えることにしているのでアルコールを口にするのは去年の大樹祭以来。それはエドも同じらしく、一口飲んだだけで酔いが回って来てるみたいです。
「エドはもう止めとけ。ソフィー殿、あとで水を頼む」
「分かりました。エドってほんと弱いよね」
「うるせぇー」
「はいはい。料理は残しておくから、寝たいなら寝て良いよ」
きっとお酒のせいだけじゃなく疲れもあったんだね。エドは「そうする」と席を立ち、私たちから少し離れたまで歩くとそのまま横になり、ほんの数秒で寝息を立て始めました。
「酒の力とは恐ろしいものだな。ほんの一口飲んだだけで易々と眠りにつくとはな」
「昼間は雪搔きしてくれたし、さっきまでお店の掃除をしてくれていましたからね」
「ソフィー殿はまだ酔っていないようだな」
「リリアさんから嗜み方を教わったので。今年はお付き合いするつもりですよ」
去年は私もエドも寝てしまった後もアリサさんは一人でお酒を愉しんでいました。だからという訳ではないけど、今年はアリサさんとゆっくり”大人の時間“を過ごそうとリリアさんに手紙でお酒の楽しみ方を聞いていたのです。
「今年も無事に年を越せそうですね」
「ああ。色々あったが無事に過ごせたのはソフィー殿のお陰だ。感謝してるぞ」
「お礼を言うのは私の方ですよ。まだまだ未熟な私に付き合ってもらって本当に感謝してます」
「ソフィー殿は少し謙遜し過ぎじゃないか。確かに修行中の身かもしれないがその腕はそこら辺の薬師よりあると思うぞ」
「ありがとうございます」
「ただし、無理はするなよ。ソフィー殿が無茶をすればエドが心配する。もちろんアタシもな」
もしかして最近また夜更かしして医術書を読み漁っているのがバレてるのかな。わざとらしく微笑むアリサさんは空になった自分のグラスにお酒を注ぎ、それを私の前に差し出しました。
「せっかくだからもう一度乾杯しないか?」
「エド寝てますよ」
「寝てる方が悪い」
「それもそうですね。それでは――」
「「乾杯」」
エドは寝ちゃってるけど、今年も3人で大樹祭を迎えられたのは本当に嬉しく、二人には感謝しかありません。来年も、その先もずっとみんなで過ごせることを願った私たちがグラスを合わせました。




