尊敬できる先輩
「え、ジャムとかは塗らないんですか」
「ええ。ほとんど塗らないわね」
「そ、そうですか」
どうやら私の予想は外れたみたいです。
「もしかしてパン以外に原因があると思ったの?」
「その可能性はあるかなって」
翌日、カレンさんの家まで足を運んだ私は彼女にパンを食べる際にジャムなどを塗るのか尋ねました。しかし私の見立ては見当違いに終わり、やはりアレルギーの原因はパンにあるのだと認識させられるのでした。
「お役に立てなくてごめんなさい。その様子だとやっぱり原因が分からない感じなの?」
「すみません。このまま『パンアレルギー』と診断しても良いのですが、やはり原因が分からないと言うのは薬師としても嫌なので」
ただの自己満足でしかないかもしれないけど、原因がはっきりしない中で確定診断を出したくはありません。私は薬師として出来ることを尽くし切って初めてさじを投げる権利を得られると思っています。だからこそ考えうる原因はすべて排除しなければならないのです。
「ソフィアちゃん?」
「なんでしょう」
「確かにパンが食べれないのは困るわ。でも、食べなきゃ死ぬ訳じゃないから無理に原因を突き止めなくても良いのよ」
「で、でも……」
「少し間を置いたら、ふとした瞬間に思い付くかもしれない。その時は教えてちょうだい」
私を困らせたくないのかカレンさんは笑顔を見せてくれます。その優しい笑みに心が痛む思いがしますが、いまはその優しさに甘えるべきかもしれません。
「わかりました。ひとまず『パンアレルギー』ということで診断を出しますね」
「なんだかごめんなさいね。でもありがとう」
「気にしないでください。パン以外は問題なさそうですが、なにか異変を感じたらすぐに来てくださいね」
前回処方した発作止めは残っていたので新たな処方はせず、パンを食べないように念押しをしてカレンさんの家を後にする私。納得できる診断が出せずいる自分になんだかモヤモヤするけど、彼女の言う通り少し頭を切り替えた方が良さそうです。
「……なんでいるんですか」
薬局に戻った私は待合室で不機嫌そうに私の帰りを待っていたお客さんの姿に驚きました。
「リリアさん。どうしてここに」
「手紙に書いてたでしょ。顔を見に行くって。っていうか、往診に時間掛け過ぎ」
「す、すみません」
「村に薬師はあんたしかいないんでしょ。薬師が薬局を留守がちでどうするの」
アリサさんが出したであろう紅茶を飲みながら苦言を呈するリリアさんだけど、往診に時間が割けることは良いことだとフォローも忘れません。相変わらず言い方はキツイこともあるけど尊敬できる先輩薬師です。
「それで、どこに行ってたのよ」
「ちょっと『パンアレルギー』の患者さんのところへ」
「え、なにそれ」
「パンを食べたら発作、というか痒みが出るそうです。師匠から譲り受けたカルテ集にもありませんでした」
どうやらリリアさんもこの類のアレルギーは診たことないみたいです。詳しく聞かせてほしいと言うリリアさんを診察室へ通し、カレンさんのカルテを見せながら彼女が悩まされている症状を話しました。




