表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(なろう版)新米薬師の診療録  作者: 織姫みかん
Karte15:この村で、3人で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/118

誇りと重圧

 その日の夜。この日は珍しくエドが泊って良いかと尋ねてきたので快く泊める事にしました。

 リリアさんはあの後すぐ自分の店があるから長居は出来ないと村を発ちました。嵐のような人と言えば大げさだけど、この店を続けられるようになったのは素直に喜ぶしかありません。

 「なんだかんだ言って、良かったじゃねぇか。俺はあの人苦手だけど」

 「自分で口が悪いって言ってたでしょ。それにしても珍しいよね。泊めろなんて。どうかした?」

 「別に。つか、おまえもよく泊めたよな」

 「たまには『泊っても良い』って言ったでしょ」

 「同じ部屋で寝るとは言ってない」

 なんでそこに不満を持つかな。一応、私はベッドでエドは床ってしっかり別けたつもりなんだけどな。

 「この前は一緒にいてくれたでしょ」

 「あれは仕方なくだろ。2階に空き部屋があるよな。そっちで寝る」

 「使ってないから埃だらけだよ」

 「俺、男なんだけど?」

 「なにかするつもり?」

 「コウノトリがどうとか言ってたやつに言われたくない」

 「忘れてって言ったよね⁉」

 なんで今更それを持ち出すのよ。あれはいわば私の黒歴史なんだから、絶対タブーなんだからね。

 「で、良かったのか」

 「なにがよ」

 「リリアさんだよ。あの人の弟子になって良かったのかよ」

 もしかしてそれが聞きたくて泊まるとか言い出したの? ナイトテーブルのオイルランプの仄かな明かりに照らされるエドの表情は硬く、その顔に私も真剣に答えようと言葉を選びました。

 「……正直に言って分からないよ。でも、いまはこれが最善だと思うの」

 「村の為、か?」

 「薬局を続けるためには最低でも師匠となってくれる薬師が必要。リリアさんは私が条件にしていた全てを受け入れてくれた。ならお願いするほかないよ」

 弟子にしてもらう身で条件を出すなんておかしいけど、ウチが出来て村の人たちは病気の心配をしなくて済むようになりました。その事実は私の誇りであると同時に重く圧し掛かっていました。私の都合だけで店を閉じるなんてとても出来ません。

 「私は3人でこの店を守りたい。師匠が残してくれた最後のプレゼントってのもあるけど、この村で薬局を続けることに意味があるの」

 「そっか」

 「ごめんね。本当はみんなで話って決めなきゃいけないのに」

 「この店の店主はおまえだ。俺たちは口出し出来ねぇよ」

 「ありがとね」

 お店のことになるとエドって本当に私を信じてくれるよね。でもね、今回ばかりはエドにもちゃんと意見を言って欲しかったんだよ? 薬局の運命を左右するくらい重要な話だから私の意見を尊重するだけじゃなくて、ちゃんとエドの考えを教えてほしかったな。

 「なんだよ」

 「ううん。なんでもない。寝よっか」

 「……マジで一緒の部屋なのか」

 エドがまだなにか言ってるけど、私は無視して布団の中に潜り込み、わざとらしくエドに背を向けます。この状態だと仮にエドがなにかしてきてもすぐには対処できないけど、彼を信じているからできるから背を向けることができるんです。それでも本当のことを言えば体が強張り、その証拠に私は布団を頭まで被り蛹のようになっています。

 (信じてるからね?)

 別にエドがなにかしてくると思ってるわけじゃないけど、心の中でそうつぶやく私はすぐには寝付けませんでした。それでもいつの間にか眠りについた私は翌朝、部屋の隅で丸くなっているエドにクスッと笑うのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ