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(なろう版)新米薬師の診療録  作者: 織姫みかん
序章

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5/118

始まり

 その日の午後、薬師協会の人がやつれた顔をしてお店にやって来た。見るからに偉い人に怒られたんだろうなって感じだったけど同情は出来ないな。

 協会の人は私の顔を見るや否やミスを謝罪し、救済措置として追加合格とする旨を伝えました。そして免状を手渡し、再度謝罪の言葉を述べた。筆記試験の結果がどうとか言ってたけど、いまさら耳を傾ける気にもならないので聞き流していたのは師匠には内緒だ。

 「それにしても、本当に良かったのかい?」

 「なにがですか?」

 「せっかくの合格祝いなのに夕食が僕の特製シチューなんかで」

 「だから良いんです。私、師匠の特製シチューが一番好きですから」

 「まぁ、キミが良いならそれで良いんだけどね。ところでソフィー?」

 「なんですか?」

 「ここから西へ馬車で10日ほどのところにエルダーと言う村があるんだ」

 「はい?」

 「そこは良質な薬草が取れる上に王都へ続く街道からも近い。おまけに薬局もない」

 「はぁ……」

 初めてだ。師匠がこんな話をするなんて。これまでこんな話は一度もなかったのに急にどうしたんだろう。

 「もしかして薬局でも出すつもりですか?」

 「そのつもりだよ。その店をキミに任せようと思ってるんだ」

 「良いですよ……え?いまなんて?」

 「エルダーに出す店をソフィー、キミに任せようと思ってるんだ」

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。私、免状貰ったばかりですよ⁉ それに“5年ルール”はどうするんですか」

 「それなら問題ないよ」

 「どういうことです?」

 「登記上はうちの支店なんだ。キミはうちに雇われた薬師としてエルダーに行く。だから“5年ルール”の例外が適応されるんだ」

 「それ、チートっていうんじゃ……え、買ったんですか⁉」

 「元は雑貨店らしいよ。薬局として使うには少々難ありだけど、住居付きだし良い物件だと思うよ」

 「そういう問題じゃなくて! 私が本当に落ちてたらどうしたんですか」

 「その時はここを売り払って移ってたよ。まぁ、先行投資ってやつだよ」

 師匠の事は好きだし、尊敬している。けど、たまにこういう事をされるとなんでこの人を師匠と崇めているのだろうと自問してしまう。

 「驚いたかい?」

 「呆れてるだけです」

 「手厳しいなぁ」

 「師匠の行動力には尊敬します。でももう少し慎重に動くべきです」

「善処するよ。それでどうするんだい? 新しい店、キミに任せても構わないのかな?」

「そ、それは――」

師匠は私に決めさせようとしている。私が断れば本当にこの店を売ってエルダーとか言う村へ移る気だ。そうなれば師匠の事だから私も連れて行くだろうし、いまと変わらない生活が待っているはず。けれどもそれじゃ私が薬師を目指した理由に答えが出せない。

 「やります。やらせてください!」

 「うん。そう言ってくれると思ったよ。いやぁ、よかった」

 「ただし、店を持つからには師匠を超えて見せます! 覚悟しておいてくださいねっ」

 新米薬師が偉そうにと師匠でなければそう思うかもしれない。でもうちの師匠はその言葉にいつもの優しい笑顔を返してくれる。それが私の師匠。

 「ああ。期待しているよ。それじゃ、ソフィー。改めて、ね?」

 「はいっ」

 「キミの合格を祝して――」


 「「乾杯っ」」


  そして、私が王都を立つ日――


 「それじゃ、師匠。行ってきます」

 「うん。荷物は別の馬車で先に送ってるから。着いたらすぐに生活できると思うよ」

 「ありがとうございます」

 「エルダー村の村長さんには予め連絡はしているけど、着いたらちゃんと挨拶するんだよ」

 「わかってますよ」

 「それから免状は絶対失くさないようにね」

 「わかってますって」

 「それから――」

 「師匠!」

 もう。そんなに心配しなくて大丈夫ですよ。師匠のお陰でちゃんと大人になれたんですから、もう大丈夫ですよ。

 「ルーク師匠! 10年間、本当にお世話になりましたっ」

 「うん。なんていうか、娘を送り出す父親ってこんな感じなのかな?」

 「師匠、私にとって師匠は父親も同然です。私は貴方の娘ですよ」

 「ソフィー……そうだね。キミは僕の娘だ」

「はいっ。それじゃ行ってきます!」

 涙ぐむ師匠に満面の笑みで答え、待たせていた馬車に乗り込む私。湿っぽいのは無しだ。だってこれは、


 「始まりなんだから!」


 ソフィア・ローレン。16歳。新米薬師としての第一歩を踏み出します!


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