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(なろう版)新米薬師の診療録  作者: 織姫みかん
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エドと二人

 私がエドを連れてセント・ジョーズ・ワートに向け村を発ったのはそれから一週間後。馬に乗れない私はエドが操る馬に相乗りしたけど、なんとなくエドの体が強張っているのは気のせいかな。

 「エド、緊張してる?」

 「するに決まってるだろ。つか、くっつき過ぎだ」

 「だってこうしないと落馬するでしょ」

 「少しは俺の身にもなれ」

 ふーん。女の子にギュッとされて戸惑ってるんだ。オイスターモドキの時は私の水着姿なんて興味がないみたいなこと言ってたのに。

 「ねぇ、エド?」

 「なんだよ」

 「やっぱり男の子だね」

 「コウノトリがどうとか言ってたやつに言われたくねぇよ」

 「それは忘れてって言ったでしょ!」

 「耳元で叫ぶなっ。馬が暴れるだろ」

 「ご、ごめん。どのくらいで着く?」

 「この調子なら明日の昼には着くんじゃねぇか?」

 「そっか」

 「なんだよ」

 「たまにはこういうのも良いよね」

 風は少し冷たいけど空はよく晴れた秋の日下がり。セント・ジョーズ・ワートへ続く一本道はどこまでも見通しが良く、たまに行商の馬車とすれ違う以外は畑仕事をする農夫を時折見かけるだけ。

 「あの時は気付かなかったけど長閑だね」

 「ん? あの事故のことか」

 「うん。あの時は幌付き馬車だったし、けが人の容体ばかりに気を掛けていたから気付かなかったよ」

 「王都から来る時もこの道を通ったんじゃないか?」

 「通ってないよ。確か村の南側の街道を通ったと思うよ」

 「それ、かなり遠回りだぞ」

 「そうなの⁉」

 もしかして遠回りしたから2週間も掛ったの? そういえば師匠も以前来た時より時間が掛かったって言ってたっけ。

 「セント・ジョーズ・ワート経由なら10日位で王都まで行けるけど、村の南側を通るルートだと倍近く掛かるんだよ」

 「そうだったんだ。今度、師匠に教えてあげよ」

 「そういや、里帰りとかはしないのか」

 「里帰り?」

 「この間はルークさんが来たんだし、今度はソフィーが行く番だろ」

里帰りかぁ。たまには師匠のお店に顔を出さなきゃとは思うけど、距離的にも時間的にも難しいのが実情。なによりいまの私は薬局を営み、2人も従業員を抱える経営者だからお店を優先しないとね。

 「いつかは里帰りしたいけど、いまは厳しいかな」

 「別に気にしなくて良いんだぜ」

 「え?」

 「ソフィーが来るまで村に薬局はなかったんだし。気にせずルークさんに会いに行けよ」

 「ありがとね。でも、いまは村の薬師だから。村の人を優先するよ」

 「そっか」

 エドはほんと優しいよね。薬局では言い争うこともあるけどいつも私のことを気に掛けてくれてる。それはアリサさんも同じだけど、エドの方がちょっとだけ付き合い長いから余計にそう感じるのかもしれないな。

 「ほんと、長閑だよねぇ」

 秋も深まる10月の終わり。セント・ジョーズ・ワートまではまだ距離があるけど、エドと二人の旅路もたまには良いものだと思いました。


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