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(なろう版)新米薬師の診療録  作者: 織姫みかん
Karte25:また会える日まで

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またいつか会える日まで

「それじゃ、ソフィー殿。世話になったな。ありがとう」

「お礼を言うのは私の方ですよ。アリサさんに出会えてよかったです。身体には気を付けてくださいね」

「わかってる。エドも、ソフィー殿をしっかり守るんだぞ」

「わかってますよ」

「ハンス殿とリリア殿にもよろしく伝えてくれ。それからリズにも」

「もちろんです」

 アリサさんが村を離れる当日。別れを惜しむように言伝を託すアリサさんに頷く私は彼女にだけ、エドにだけは絶対聞かれないように小声である決意を表明しました。

「私、決めました。彼にこの気持ち伝えます」

「そうか。やっとか」

「やっぱり気付いてました?」

「二人を見ていれば誰だって分かるさ」

「アリサさんに取られなくて良かったです」

「フフ。誰も取ったりしないさ。ソフィー殿」

「はい」

「いままでありがとう」

「絶対帰って来て下さいね」

「ソフィー殿もその気持ち、ちゃんと伝えるんだぞ」

「わかってますよ」

 ほんとはもっと話したいけど、これ以上はアリサさんを困らせるだけ。そう思い、最後にこれだけ伝えることにしました。

「アリサさん、いってらっしゃい」

 絶対泣き顔を見せないと決めていた私は無理やり笑顔を作り、そんな私を思ってなのか力強く頷くアリサさんはなにも言わずに回れ右をします。

 そしてそのまま、こちらを振り返ることなく村の外へ続く街道を歩いて行きます。アリサさんがまず目指すのはセント・ジョーズ・ワート。そこから北上して私の生まれ故郷であるジギタリスに向かうそうです。

「せめてセント・ジョーズ・ワートまでは馬車を使えば良いのに」

「アリサさんなりの気遣いなんだろうな」

「……うん」

「ソフィー?」

「また、二人になっちゃったね」

 遠ざかるアリサさんの姿を見送りながらボソッと口にする私は自然とエドの顔を見ました。エドの横顔にはなにか決意じみたものを感じ、そんな彼の手を握るとギュッと握り返してくれました。

「やっぱり寂しいのか」

「寂しいよ。だってずっと一緒に店をしてきたんだから」

「そっか」

 いつかはこんな日が来ると思っていたけど、いざ現実になるとやっぱり悲しいです。

「ねぇ、エド?」

「なんだよ」

「エドは何処にも行かないよね」

「安心しろ。ずっとおまえの傍にいる」

「約束だよ?」

「――ソフィー」

 力強い口調で私の声を遮ったエドは一度大きく深呼吸すると握っていた私の手を放しました。そして私と向き合うように立ち位置を変え、これまで見たことのないようなすごく真剣な表情を見せました。

「ソフィー。話がある」

「私も話があるの」

「俺から言わせろ」

「ダメ。私が先に言う」

「こういうのは男が言うもんだろ」

「エド?」

 いつもなら私に順番を譲ってくれるはずなのに、今日は絶対譲らないって顔してるね。でも良かった。

「わかったよ。エド。先に言って良いよ」

「良いのか」

「うん。その代わり――」

「なんだよ」

「後悔させないでね?」

 これが私の答えだよ、ってエドにこの意味が分かるのかな。

「おまえ、いま俺をバカにしただろ」

「そんな訳ないでしょ。それで、話ってなに?」

「ソフィー。これから先も――」

 エドの言葉に嬉しくて涙が出てしまう私。村に来た時はこんな風になるとは思ってなかったけど、これで師匠も少しは安心してくれるのかな。


 ――師匠。この村に来て良かったです。一人前の薬師にはまだほど遠いけど、いまの私はすごく幸せです。


  * * *


 前略


 師匠。お久しぶりです。

 あなたに手紙を書くのはいつ以来でしょうか。

 あれからずいぶんと月日が経ち、私たち夫婦にも子供が生まれました。元気な男の子です。名前はルーク。そうです。師匠、あなたの名前を頂きました。この子があなたの様に優しく、誰かを導ける大人になって欲しいとの願いを込めて。

 村の人からはルークの為にも街へ移った方が良いと言われますが、私はこの村を離れるつもりはありません。エドもいまでは村長として店番の合間を縫って村の為に働いてくれています。そんな素敵な旦那様の姿を見ていると村を出るという考えは生まれません。

 アリサさんはたまにですがお店まで遊びに来てくれます。お店に来るとエドと一緒に店番をしてくれる素敵な女性になっています。

 師匠。私はあなたに巡り合えて本当に幸せでした。どんなに感謝してもしきれないほどたくさんの幸せを貰いました。簡単に里帰りが出来る距離ではないけど、次に会える時は、今度こそ親孝行させてください。

 本当はもっとたくさん書きたいことはあるけど、それはまた今度。次に会える時まで取っておきます。


 最後に一つだけ。お墓に供える手紙はこれを最後にしたいと思います。寂しいけど、いつまでもあなたの背中を追ってばかりはいられませんからね。だから、師匠。これからは私たち家族のことを優しく見守ってください。


 師匠。これまで本当にありがとうございました。またいつか会える日まで。


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