また今度
半ば強引に診察室から出された私は待合室で処置が終わるのを待っていたエドと一緒に2階へ上がりました。相部屋で良いと言ったのは私だし、いまさら意識するような事でもないはず。それなのになぜか一緒に階段を上がるエドを意識しちゃうのは普段と違う環境だからかな。
「ん? どうした」
「え? あ、ううん。なんでもない」
「あのおっさん、大丈夫なのか」
「うん。朝にはケロってしてると思う」
「そっか」
ぶっきらぼう言い方だけど運び込んだ男性の心配をするエドは難しい顔をしています。やっぱり怒ってるのかな。
「その、ごめんね。せっかく誘ってくれたのに」
「薬師なんだから仕方ないだろ」
「……うん」
「あーもう。そんな顔するなよ」
「エド?」
「また今度で良いだろ。部屋、奥で良いんだよな」
「え? うん」
ちょっと気まずい空気になったのかな。廊下の奥を指さすエドは少し歩調を早め私と距離と取ろうとします。この感じだと今日はなにも言わない方が良いかな。
(私って臆病だったんだね)
腕を失くした怪我人も盗賊相手でも臆することなく薬師の役目を全うしてきた私。けれど自分に対しては一歩を踏み出せない臆病者だったのだと気付かされる、そんな1日となりました。




