デート?
大聖堂がある街の中心部にある広場には多くに露店が出ていました。露店だけではありません。馬車屋台と呼ばれる行商人が出す店も出ています。それに舞台も数か所設けれ、各所で歌や踊りが披露されている賑やかな空間。村ではまず見ない光景に目が奪われてしまいます。
「へぇー、結構賑やかなんだな」
「エドはこういうお祭り初めてなの?」
「村じゃこんなの無いからな。ソフィーはどうなんだ。王都でもこういうのあるんだろ?」
「うん。王様の誕生祭が一番派手だったかな」
年に一度、夏に行われる王様の誕生祭は王都中が文字通りお祭り騒ぎとなります。昼間は歌と踊り、夜は花火が街を彩りました。小さい頃は人混みが苦手だったから師匠と一緒にお店の中から花火を見てたよね。
「私ってジギタリスの生まれでしょ? だから初めて花火を見た時はすごく感動したよ」
「そっか。そういや、今夜も上がるんだろ?」
「もしかして誘ってる?」
「おまえ以外にいないだろ」
「え?」
私が嗾けたとはいえ、いつもとは違う真剣さを感じるエドの言葉に驚きました。いえ、驚いたと言う言葉では表現しきれないほど心臓が激しく鼓動しています。本当なら「そんな訳ねぇだろ」と言うエドに「なんでよ」と突っ込む、そんないつものパターンを想像していました。まさかこんな展開になるなんて予定外と言うか卑怯です。
「なんだよ」
「私で良いの?」
「おまえと一緒に見たいから誘ってんだ」
「――っ⁉」
今日のエドはほんとに卑怯です。周りに顔見知りがいないからってそんなにハッキリ言う事ないじゃない。私は恥ずかしさから思わず顔を俯かせてしまいます。
「で、どうなんだよ」
「ちゃんと――」
「ん?」
「ちゃんとエスコートしてよ?」
鼓動が止まらない私が出せる精一杯の答えに任せろと応えるエド。本当に心臓が止まったら困るけど、それくらい激しく脈打ち、それに合わせるかのように体温が上がっていくのが分かります。
「ん? 熱あるのか。顔赤いぞ」
「ううん。なんでもない。大丈夫だよ」
「なら良いけどさ。まだ時間あるし、宿に一度戻るか?」
「うん。汗掻いちゃったから着替えたい」
汗なんか掻いていないし、着替えたいと言うのも嘘。部屋に籠ってまだ止まらないこのドキドキを抑えたかったのです。リリアさんが気を利かせて部屋を二つ取ってくれていて良かった。これで相部屋だったら薬を飲んででも興奮状態の心臓を落ち着かせるところでした。
「エド?」
「え? あ、ああ。なんでもない」
「そ、そう?」
一世一代の大仕事を終えた後のように黙り込むエドはこちらを見ようとしません。それどころか私を置いてそそくさと宿がある方へ歩いて行きます。
(そっか。エドも緊張してるんだね)
いつも一緒にいるから気付かなかったけど、こんな風に私を誘う事なんて無かったもんね。エドにとってはまさに一世一代の大仕事だったんだよね。
(私も頑張らなきゃね)
きっとエドは成り行きで言った訳じゃない。だったら私も少しだけ勇気を出さないと。自分を奮い立たせるように強く頷き、私は少し先を歩くエドの背中を追い掛けました。




