エド!!
エドが屋根に上がったのはお昼ご飯を食べてから少し経ってからのことです。建物の裏側に立て掛けていた梯子を使い屋根に上がる姿を見届け、お店の中に戻る私はカルテの整理を始めました。
「今日は患者さんも来ないみたいだし、このままのんびり出来るかな」
患者さんは来る時は立て続けに来るけど、来ない時は丸一日来ません。今日は薬用品を買いに来る人もいないので本当に暇です。
「アリサさんは裏庭だっけ。いい加減、薬草畑を作るかな」
ウチには広い裏庭があり、薬草を育てることも出来ます。けれどウチには優秀な採集者さんがいるので畑と言えるほど本格的な栽培はしていません。頻繁に使う薬草をアリサさんが少量育ててくれているだけです。
「畑を作るとしたら種が必要だけどこの時期なら――」
季節的に育てるなら夏から秋にかけて収穫する薬草がメインになるけど、種は取り扱いのある薬草問屋でないと買えません。セント・ジョーズ・ワ―トにも問屋はあるけど扱ってるかな?
「手紙でリリアさんに聞こうかな」
最近、連絡取っていなかったから手紙書いたら「遅い! たまには連絡しなさい」って返信が来るんだろうな。口は相変わらず悪いけど良い人に出会えたな。そんな事を思いながらカルテの束を棚に戻そうとした時です。
――ドサッ
「ん? なんか外で音がしたような?」
なにかが空から降ってきたような聞き慣れない音。まさかと思い、窓の外を見ますが特に異変はないようです。
(気のせいかな?)
きっと倉庫の棚に置いていた薬草入りの麻袋が落ちたんだね。あとで様子を見に行こう。そのくらいの気持ちでカルテ整理を続けますが自体が予期せぬ方向へ向かったのはそれからすぐのこと。アリサさんが血相を変えて診察室に入ってきたことで事態は一変しました。
「ソフィー殿!」
「どうしたんですか。そんなに慌てて」
「エドが落ちた! 意識がない!」
――え?
「裏で薬草の世話をしてたら音がしたから見に行ったらエドが――ソフィー殿⁉」
「棚から気付け薬を出して!」
「ちょっ、ソフィー殿!」
アリサさんが呼び止めようとしてるけどそんな暇なんてありません!
診察室を飛び出して外に出た私は建物の西側に廻りました。やっぱりエドが落ちた音だったんだ!
「エド!」
お店の西側に廻るとすぐにエドの姿が目に入りました。梯子の下敷きになっているエドは私の声に反応しません。状況から梯子を上ってるところでバランスを崩したようです。
(状況把握なんてどうでも良いでしょ! なにやってるのよ私は!)
薬師の悪い癖です。どんな状況でも冷静になろうとする悪い癖が私を邪魔します。駆け寄る私は真っ先に梯子をどかします。
「エド!!」
梯子の下敷きになったエドを助け出し、意識の有無を確認するため声を掛けますが反応がありません。それどころかこれってもしかして――




