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(なろう版)新米薬師の診療録  作者: 織姫みかん
序章
1/118

不合格

 机だけが置かれた空間。

 師匠のお店にある調薬机より一回り大きいその上には薬草箱が並んでいるが中身が分からないように蓋は閉められ、薬草名の代わりに番号が書かれたラベルが貼られている。師匠から聞いていた通りだね。

 「これより実技試験を開始します」

 試験官の一人が試験の開始を告げました。薬師試験二日目――実技試験の始まりです。

 「試験課題は『総合感冒薬』です。己の知識だけを信じ調薬しなさい。必要な器具は机の引き出しに、薬草類は目の前の薬草箱に入っています」

 「わかりました」

 「試験結果はこの場で伝えます。なにか質問は?」

 「いえ。ありません」

 「この先、一切の質問を受けません。それでは調薬を始めてください」

 私は試験官の合図で机の前に向かい、天板の上に並んだ薬草箱の中見を一つずつ確認していきます。

 「総合感冒薬、師匠と何度も調薬したことがあるけど――」

 普通はシロップ剤を処方するけど、それには水と蜂蜜が必要。けれどここには両方とも無い。

 「つまり『シロップ剤』以外の薬を作れってことだよね。それには“ヤジリソウ”と“スペアソルト”それから……え?」

 おかしい。どっちも無い。

(噓でしょ。これじゃ咳止めも作れない)

 10個ある薬草箱のどれにも必要な薬草が入っていない。あり得ない。だって試験官は『総合感冒薬を作れ』って言った。それなのに必要な材料が何一つ用意されていない。

 「どういうこと? 課題は風邪薬なのに」

 なにかの引っ掛けなの? 私はつい試験官の顔を見てしまうが助言などある訳もなく、むしろ一向に調薬を始めない私に全員が首を傾げています。

 机上にある薬草箱10個のうち3つは毒草、すなわちダミー。残りは間違いなく薬草だけど下痢止めや傷薬、どれも風邪薬とは無縁の薬に使うやつばかり。いや“シマナツミカン”の皮や“シュガーシート”は使えるけど、どれも薬の苦みを抑えるための添加物で薬効があるわけじゃない。

 「せめて“ミナミヒイログサ”でもあれば……」

 薬草箱の一つには乾燥させた“ヒイログサ”の花弁が入っているけどこれは禁忌肢だ。同じヒイログサ科だけどこっちは毒草。

 「どうかしましたか」

 試験開始から10分ほど。未だ調薬を始めない私に試験官がついに声を掛けてきました。

 「体調が優れないのですか?」

 「いえ。大丈夫です」

 おそらく試験官は試験課題に必要な薬草がないことに気付いていません。そうだよね。正解のない試験なんて普通あり得ないからね。

 (どうする? 別の薬を作る?)

 用意された薬草じゃ風邪薬は作れないけど、別の薬なら十分調合できる。もし、本当に引っ掛けで風邪薬を作れって言ったのなら――

 「違う。いくら難関の薬師試験でもそれはない。だってこんなの」

 フェアじゃない。それとも養成学校を出ていない私の知識が足りないだけなの?

 時間だけが無情にも過ぎていきます。流石になにか作業を始めないといけないけど、師匠の話じゃ課題薬と違う薬の調合は仮にそのレシピが正しくても不合格になるそうです。

 師匠の弟子になって10年。時間は掛かったけどようやく掴んだ薬師になるチャンス。昨日の筆記試験は絶対の自信がある。だからこそ、このまま諦めるのは嫌。けれど課題と違う薬を作って不合格になるのはもっと嫌だ。だってそれは師匠の名前に傷を付けてしまうのだから。そんなことになるくらいなら私は……

 「……出来ません」

 悩んだ末に発した諦めの言葉。

 「ここにある薬草では課題薬を作ることは出来ません」

 「まだなにも調薬していませんが、良いのですか」

 「ご配慮ありがとうございます。でも用意された材料では咳止めすら作れません」

 さすがになにも調薬せずに試験を投げ出す人間などいないのだろう。公平であるべき試験官が再考するよう再度助言をしてくれました。

 「本当に良いのですね」

 「……はい」

 「わかりました。それではこれにて実技試験を終了します」

 「……ありがとうございました」

 試験官に一礼して私は結果を聞かずに試験室を後にします。背後から試験官から結果を聞かなくて良いのかと問い掛けられたが聞く気になれません。だってそんなの聞かなくても分かるのだから。

 ソフィア・ローレン。16歳。人生最初で最後の薬師試験は“実技試験を放棄”という前例のない結果で不合格となりました。

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