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『Epilogue』

 新緑の深い森の中、隠されているかのように、館が並び立ち、その最奥には太い木々で出来上がった宮殿があった。


 その宮殿の中に、ひと際広い部屋があった。


 その中心にある壮麗なる玉座に、一人の女性が座っていた。


 燃えるような緋色の長髪が、煌めくティアラに沿ってツインテールになっている。


 身に着けたマントは肩の辺りで白と赤で区切られ、金色の刺繍が編み込まれ、胸の中心には、赤、緑、青、紫の四つの宝石が嵌め込まれたひし形の黄金のネックレス。


 そして尖った両耳がぴくんと動く。


 黄金色の瞳が意志の強さを思わせ、美少女然とした顔立ちだが、どこかその表情は物憂げだった。


 彼女は、慣れないのか玉座の上で居心地悪そうに座っている。


「姫様! 」


 扉が大きく開き、ローブを羽織った初老の男が入ってくる。

 

「煩い。聞こえてるわ。それにもう姫様じゃないって言ったでしょ」


 男は息を切らせながら、女王と呼ばれた彼女の玉座の前で屈む。


「申し訳ありません。女王陛下」


「そんなに息を切らすなんて、あなたらしくないわね。一体どうしたのよ」


「実は……」


 男が顔を上げ話しかけた直後、鳥の鳴き声が響く。


 男が上を見上げると、天窓から羽音と共に、大きな翼を広げた鷲が降りてくる。


 それは玉座に座る女王と呼ばれた女性に向かって飛ぶ。


「いらっしゃい」


 彼女は立ち上がり手を伸ばす。


 その腕を止まり木とし、鷲は止まると、彼女に向かって一声鳴く。


「それで? 」


 男は右手に持った巻紙を取り出し、彼女に向かって恭しく手渡す。


 彼女はそれを手に取ると、玉座に座り目を通す。


 玉座の肘掛けに肘をつき、険しい顔で読んでいた彼女の姿勢が、真っすぐになっていき、その目がだんだんと鋭くなる。


 男は黙って、彼女が読み終わるのを待っていた。


 彼女は読み終わり顔を上げる。


「これは……本当なの? 」


 彼女の問いかけに、男は頷く。


「神々の長、直々の文ですから」


 それを聞くと、彼女はさっと玉座から立ち上がる。


 マントをはためかせ、速足で男の横を通り過ぎ、扉へ向かう。


「女王陛下、どちらへ! 」


 尚も扉に向かって一直線に向かう彼女に向かって騎士は呼びかけると。


 彼女は振り向き言い放つ。


 さっきまでの眉間にしわを寄せた険しい顔は、大きな期待と興奮で輝くような表情になっていた。


「決まってるじゃない! 」


 黄金の瞳が輝きを放ち、彼女は叫ぶ。


「邪神を討った勇者とやらに、会いに行くのよ! 」


 男が驚いている間に、彼女は再び前を向き羽ばたく鷲と一緒に、扉を開き、出ていった。







 淡い夕日が、古びた神社の境内を照らす。


 黄昏時、神社の鳥居の下に、一人の少女がやってくる。


 襟付きの白いシャツの胸元には赤いリボン、水色のスカートの制服を着た少女は、そのおとなしそうな表情の顔と相まって、昔ながらの女子高校の学生といった風貌だった。


 背中まで伸ばした胡桃色の長い髪が風に揺れ、夕日に照らされ、映える。


 両手で学生鞄を持った彼女は、鳥居を見上げると、そのまま鳥居をゆっくりとくぐり抜け、境内に入る。


 境内の中央までやってきた少女は立ち止まる。


 手にした鞄のチャックを開けると、その中から何かを取り出す。


 黒色のカバーのついた小さなそれを取り出し広げる。


 それは学生証だった。


 開いた学生証を、少女はまばたきすることなく、じっと見つめる。


 少女が顔を上げる。


「八剣、太陽……さん」


 少女は学生証を胸に強く抱きしめ、夕焼け空に向かって呟く。


 少女の若葉色の瞳が揺れる。


 少女は祈るように、夕日をいつまでも見上げていた。






 真夜中の午前零時。


 雲一つない澄み切った夜空の中心に座する満月の光が、砂浜に巨大なクレーターを遺した、黒い巨大な塊を妖しく照らし出す。


 若者数名を飲み込んだ後、活動停止したかのように、そのまま微動だにしなかったその塊に、突如として亀裂が入る。


 微かな音を立て、塊の頂点から徐々に亀裂が広がっていく。


 一瞬の静寂の後、閃光が走る。塊は天頂部から、まるで花開く蕾のように、割れ広がっていく。


 その花弁の中心にいたのは、絶世の美女だった。


 時を凍らす程の顔貌が、月光に照らされる。


 その背中まで伸びた銀灰色の長髪は、銀河に瞬く美しい星々のように輝く。


 その体は艶めかしく、突き出た胸と丸みを帯びた腰が艶めかしい。


 一糸まとわぬその姿を覆う薄絹のドレスのように、髪が体を覆う。


 美女の胸元には、禍々しい、稲妻のような模様が、刻まれていた。

 鮮血のように赤い瞳が、夜空を映す。

 

 それはまるで、神話に謳われた美の女神の生誕そのものだった。

 

 夜空を仰ぎ見る美女が口を微かに開く。


「ああ……その時が来たのね」


 虚空を映すその紅の瞳の端から、滴が零れ落ちる。


「お父様」


 微かな呟きが、夜闇の風に乗って、行く先もなく流れていった。









 宇宙の果ての果て。人跡未踏の領域にある万魔殿。


 そこに浮かぶ崩れかかった神殿にて、1人の男が喋っていた。


「ええ、計画は順調ですよ。宇宙卵は覚醒しました。いずれ収穫の時が来るでしょう。そして彼も。いずれ、我々と同じ領域にやってくるでしょう。あなたの目論見通り」

 

 男はふと黙る。何かに耳をそばだてている。そして、大声をあげて笑い出す。


「申し訳ありません。つい笑ってしまいまして。彼が私たちを滅ぼしうる存在になる可能性ですか? 今はまだ、と言っておきましょう。」


 男はひとしきり笑うと、顔を別の方へ向けて苦笑する。


「君が言うことは面白いが……彼がそれに耐えきれるかどうか……。いや、壊れてしまうのもそれはそれで一興、かな? 」


 その男、ニャルラトテップはひとしきり愉快そうに話すと、咳ばらいをする。


「陛下の目覚めは、まだ我々にとっては望ましくありません。しかし、その時が来れば……」


 そういうと、ニャルラトテップは崩れた神殿の柱から立ち上がり、虚無の彼方へ視線を向け、歯をむき出しにして笑う。


「さあ。八剣太陽。君に我らの遊び相手が務まるかな。もしも君が、あの方のお眼鏡に適わなければ……」


 ニャルラトテップの瞳が、深淵の黒に染まる。


「地球は滅びるよ」


 ニャルラトテップの高笑いが、虚無の彼方まで、どこまでも、どこまでも、響き渡っていくのだった。









 つづく

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