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『背後から迫るのは……』

 リビングの壁に掛けられている時計の針が12時を指すと同時に、町中に正午を知らせるアラームが鳴り響く。


 鳴り響くアラームを気にせず、俺はリビングのソファに座って叫ぶ。


「ここだ、行け!」

 

 俺はコントローラーを両手で握り、ひたすらボタンを連打する。


「兄ちゃん、頑張れ!」

 

 俺の膝の上で転がりながら、妹の陽芽が観戦している。


「よしよしよしよし!」


 テレビの画面には、俺が操作する騎士が、剣を振りかぶり、敵である巨大なドラゴンを切りまくる。追い詰められたドラゴンは叫び、画面の上に表示されているドラゴンの体力ゲージがどんどん減っていく。


 ゲージがほんの僅かとなり、俺が勝利を確信した瞬間、ぶつっという音と共に、テレビの画面が真っ黒になる。


「んなっ!」

 

 一体何が起こったのかわからず戸惑う俺は、ケーブルでも外れたのかとゲーム機本体を見るも、どのケーブルも外れていない。

 

 他の原因を探そうとしたとたん、背後から無言の圧力を感じる。寒気と共に振り向くと、そこには仁王立ちしてこめかみをひくつかせながら見下ろす鬼の形相をした女がいた。


「げえっ、母ちゃん!」

「太陽……あんた、朝っぱらから昼までずっとゲームしまくって……いい加減にしなさいよ」

 

 振り向いた俺の目の前にいるのは、母親である八剣恵美だった。44歳。身長150cmあるかないかくらい小柄で、一見、雰囲気的には大人しい感じだ。ご近所づきあいもよくこなし、近所のおばさん連中とも井戸端会議をしているのをよく見る。


 これだけ聞くと、どこにでもいる普通のお母さん、と言われるだろうが、俺に対してはそんなことは一切ない。


「あんた、今失礼なこと考えてるでしょ?」

「いやああ、そんなことねえよ。麗しきお母上にそんな……ははは」

 

 俺は頭をかきつつ、この場をのがれる方策を考える。俺は内心は全く焦っていなかった。なぜなら俺にはとっておきの理由があった。


「まあ、そりゃあよお。普通の高校三年生は、夏休み中は死に物狂いで勉強は当たり前だけど」

 

 俺は腕組みをしながら、ちらっと目線をテレビの横に飾られている額縁に移しつつ、母ちゃんに訴える。額縁には写真が飾られており、ユニフォームを着た男子が旗を持ち、並んで写っていた


「何てったって、俺は」


 と今からとっておきの言い訳を言おうとした直後、邪魔される。


「はいはい。言いたいことはわかってるわよ。あんたは、部活でインターハイに出て活躍して好成績を残したから、大学もスポーツ推薦で余裕で行けるってことでしょ」


「何だよ、母ちゃんわかってるじゃねえか」

「さんざんあんたから聞かされてんだからね」

 

 俺の残念そうな声に、母ちゃんはふんと唸る。

 

 俺は高校3年間、ハンドボールという世間ではあまり知られてないマイナー競技の部活に所属していた。


 野球やサッカーと比べるとマイナー競技であるため、県内にはその部活がある学校自体が少なく、はるかにインターハイ、つまり全国大会に出場しやすかった。


「まあ、確かに認めるわよ。あんたが部活を頑張ってきたことは」

 

 母ちゃんは渋々頷く。


 インターハイに出場した俺たちの学校は、流石に全国優勝とまではいかなかったが、好成績を残すことができた。


 俺の学業の成績は、下から数えたほうが早いレベルだったが、インターハイで結果を残せたことから、大学進学に関しては全く心配していなかった。


「とまあ、そんなわけで。俺はこの夏休みを遊びまくる権利を手にしたってわけだ」

 

 どや顔で言うと、陽芽が「兄ちゃん、すごーい!」と言いつつ真正面から飛びついてきて、俺のみぞおちにぶつかり、一瞬息が止まる。


「……」


 渾身の言い訳を披露したにもかかわらず、母ちゃんの雰囲気は変わらない。というより徐々に笑顔と裏腹にその表情にすごみが増していく。


「……。あんた、この私に隠してることがあるでしょう?」

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