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『最先の夢』

 気が付けば、俺は暗闇の中にいた。


 何も見えず、何も聞こえない。無明、無音の中、感覚というものが消失したのかもしれない。


 声を出そうと口を開くも、意味ある音は出てこない。俺はそんな状態でも、何故だかわからないが、何も不安を感じることはなかった。そして訪れるであろう何かを待っていた。

 

 時間の感覚があやふやなまま暗闇の中を漂っていると、どこからか音が聞こえてくる。最初は朧気にしか聞こえなかったが、徐々に大きくなってくる。

 

 それは歌だった。美しく、けれど儚い歌。日本語でも、英語でもなく、まるで聞いたことのない言葉だった。そしてその歌の旋律は、今まで聞いて来たどんな音楽よりも、俺を揺さぶる。

 

 その歌を聴いていると、心の中にふと情景が浮かんでくる。まぶしい夏のとある日。まだ子供の俺が、母親の自転車の後ろに乗っている時のことを。母親は俺を見て、微笑みかける。


 気づけば、俺は涙を流していた。

 

 歌が止むと、目の前の暗闇から不意に光が射し始める。目を細めて見ると、その輝きは増していきやがて一つの形と成る。揺れる長髪を足元まで伸ばした女性の影だった。


 その女性は背後から光を背負い、その顔や表情を読むことはできない。女性が自分に向かって語り掛けてくる。


『ずっと、あなたを待っていました』

 

 語りかけてきたその声に、俺は答えようとするも、言葉が出てこない。


『あの子を見つけて……、そしてどうか……あの子を救ってください……』

 

 その美しい声に籠められた哀切の祈りと、その女性から落ちてくる光の涙が俺に触れた瞬間、自分の中に僅かに残っていた意識が途切れ、光は消えていった。

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