『最後の希望』
天蓋を破り、暗闇に閉ざされた世界に光が差し込む。
「それは一人の少女であった。天から降りてきたその少女によって、全てが変わった」
少女が手にした石から放たれた光が、世界を照らしていく。
その輝ける光を浴びた強大な邪神達が悶え、苦しみ、次々と倒れてゆく。
「その少女が手にした石から放つ光に、邪神共は耐えられなかった。神々を滅ぼす程の力をもったその邪神共が、その少女と石によって、次々と弱っていった」
俺は声を出すこともできず、ただその光景を食い入るように眺める。
「それはまさしく、我々にとっての福音であった。千載一遇の機会を手にいれた我々は、残された神々の総力をもって邪神を封印した」
どこまでも続く底の見えない穴に、邪神が放り込まれていく。それを閉じるように巨大な扉で塞ぎ、何重もの鎖でもって、封印が施される。
「我らは多大な犠牲を払いつつも、邪神の侵攻を食い止めることができた。では戻るとしよう。眼を閉じるがよい」
俺は眼を閉じると、一瞬の浮遊感を感じる。眼を開けるとそこは元いた黄金樹の根元であった。
ノーデンスと俺は、丸い樹の机に座って向き合っていた。
ノーデンスの視線が、傍らで子ライオンと戯れるエルピスの方を向く。それで俺は気づく。
「そういうことか、その少女ってのが……」
「そうだ。そこにいる少女こそ、先の邪神との戦いで舞い降りた我らの最後の希望。故に我らは彼女をこう名付けた。エルピス、と」
「エルピス……か」
天より降りてきて、邪神を抑えるほどの力を持った少女。今のエルピスの姿からはまったく想像がつかない。
「正直、信じれられねえぜ」
「信じられぬのも無理からぬことだ。だが、この娘のおかげで邪神の神話世界の侵略を食い止め、多くの邪神を封印することに成功した」
「なら、一件落着……ってわけじゃなさそうだな」
「そうだ。全ての邪神を封印できたわけではなかった。封印を逃れた邪神は、エルピスの存在を認識した。彼奴らはこの娘を狙うに違いなかった、故に我らは一つの決断を下した。現実世界に彼女を逃がすことにしたのだ」
それを聞いた瞬間、俺の頭に血が上り、立ち上がる。
「見捨てたって、ことかよ! 」
俺が憤るも、ノーデンスは冷静に言う。
「そうではない。そうする必要があったのだ。予言を成就させるためには」
頭に血が上っていた俺だが、予言という言葉に耳を引かれる。
「予言って……なんのことだよ」
「邪神の侵攻する直前。今は滅びてしまったとある神によって、ある予言が成された。」
ノーデンスが厳かな声で、その内容を話す。
「予言は二つある。一つ目の予言は、『混沌より訪れしものが、神話世界を破滅に導く』。二つ目の予言は、『最も新しき女神とその守護者が出会いし時、二つの世界に光が齎される』」
「それは……一体どういう意味なんだ?」
「一つ目の予言は、お主も見たように、あの邪神のことを指している。そして二つ目の最も新しき女神とは、エルピスのことだろう。その意味は不明ではあるが。そして守護者は……今、儂の目の前におる」
「……、俺がその守護者だって、そう言いたいのか」
ノーデンスは頷く。俺が反論しようと口を開きかけるのをノーデンスは遮るように手を前に出す。
「お主の言いたいことはわかる。まだお主にとって受け入れがたいことも。だが、ことは急を要するのだ。我らにとっては、予言の成就こそ邪神に対抗するために必要不可欠。そして先ほど、神話世界と現実世界は繋がりがあったと言ったであろう。それがどういう意味か、お主でもわかるはずだ」
俺は、ノーデンスの言葉から最悪のケースを想定する。
「つまりそれは……現実世界が、狙われるってことなのか」
「そうだ。仮にエルピスを連れてこなくとも、我らが滅びれば、邪神の次の狙いは必ずやこの現実世界になったであろう。そうなれば、お主の知己、友人、家族、そして世界が怪物、邪神の餌食になる」
俺は妹の陽芽の笑顔を思い浮かべる。もしも陽芽が怪物に殺されたら、俺は自分が許せなくなる。
「そんなこと、ぜってーさせるわけにはいかねえ。だけど、ただの人間の俺に、あんたは一体どうしろってんだ!」
ノーデンスは告げる。
「太陽。お主にしてもらいたいことはただ一つ。エルピスを狙い、怪物が異界から現実世界に侵入をしようとしてくる。お主は女神の守護者として、怪物を倒し、侵入を阻止せよ。彼奴らの魔の手から、エルピスを護るのだ」




