表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/80

『名前』

「はっ? 」


 俺は一瞬、聞こえてきた言葉の意味が理解できず、間抜けな声が出る。


「……。いや、そんなの、俺が知るわけねえだろ」 


『……』


 返事がなく、不穏な沈黙が漂い、嫌な予感がした次の瞬間だった。


『ぬわぁああああああ』

 

 鼓膜を金槌で殴られたかのように頭蓋が揺れる。


『思いだせぬ! 我は一体誰なんじゃぁあああああああああ』


 と声の主は、俺の脳内で赤子のようにぎゃんぎゃんに騒ぎ始める。


 頭の中に響いてくるやかましい声に俺は耳を塞ぐ。


「ぎゃあぎゃあうるっせえ! 」


 と言うも、声の主は目覚まし時計のアラームをなおひどくした音で煩くわめき続ける。


「自分の名前も思い出せねえのかよ! 」


 と耐えかねた俺が言うと


『名前……』


 と声の主はぶつぶつ言いだす。


「そうだよ。あんたも名前くらいは覚えてんだろ?」


 いや頼む。流石に覚えていてくれ。

 俺の祈りが届いたのかはわからないが、声の主はぶつぶつ言いだす。


『名前、名前、名前……』


「そうだよ。あんたが何者かわかんねえが、」


『……ひる』


「ひる?」

 俺が聞き返すと


『駄目じゃ、こっから先が思いだせぬのじゃ』


「ひる、ねえ……」

 ひるっつったら、お昼のことか。それともあの虫の蛭か……。

 

 名前にしては奇妙過ぎる。


『こんなところに閉じ込められた挙句、名前すら思いだせぬとは……』


 と意気消沈な声を出す。


「こんなところって……、あんたがいるこの中はどうなってんだよ? 」

 

 興味が湧いてきた俺はつい質問をすると、


『……とても暗い洞穴の中にいるのじゃ。しかも出入口が見つからぬ。唯一あるのは顔が映るくらいの浅い水溜まりだけでの。そこを覗き込んだら、お主が見えるのじゃ』


「そうなってんのか、この中は」

 

 俺は声の主の正体についても気になるが、ノーデンスが言っていたこの腕輪、イマジナイトのことが気になりだす。

 

 変身アイテムとずっと思い込んでいたが、それだけじゃねえってことか。

 俺が考えていると


『そうじゃそういえば! お主、昨夜はすごかったのう! 』

 

 唐突に声の主がはしゃぐように話し出す。


「すごかったって、何がだよ? 」


『あの怪物相手に戦っとったではないか! 』


 驚いた俺は聞き返す。


「見てたのか? 」


『そうじゃよ。気づいたらさっき言った洞穴におって、せめて何かないかと手探りで探しておったら水溜まりがあっての。それを見ておったら不意に見えたのじゃ! いやー、とんでもない怪物じゃったのう! あんなもの見たことないわ! 何度もお主がやられそうになって見ててはらはらしておったが、最後はかっこよく決めて、見事あの娘を助け出すとは……誠にあっぱれ、なのじゃ! 」


 先ほどまでの落ち込んだ様子とは一転して、テンション高く話し出す。

 

 名前も正体もわからない怪しい声の持ち主ではあるが、ここまで褒めちぎられると、俺は何だか気恥ずかしくて堪らなくなる。


 話を逸らそうと、名前のことに触れてみる。


「名前のことなんだけどよ……」


『なんじゃ。我は思いだせぬといったはずじゃが』

と不機嫌そうになる。


「ちげえよ、そうじゃなくて」


 俺は女の子っぽい、咄嗟に思い付いた名前を言ってみる。


「ひる子ってのは、どうだ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ