表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/80

『声』

 気づくと俺は、夢の中にいた。

 

 空に浮かんでいた俺の眼下に見えるのは、天を衝く尖塔に四方を囲まれ、巨大な城と神殿を中心に広がる古代都市。


 目に映るその壮麗な都市の姿に、美しさを感じる。


 もっとよく見ようと、俺は地面に向かって降りてゆく。


 街の中心の十字路に立ち並ぶ市場では、多くの人々の喧騒がざわめき、活気づいている。


 まるで古の時代にタイムスリップしたかのようだ。


 感動を覚えたその次の瞬間だった。



 目の前の街が、炎に包まれていた。


 目に映るその光景に、理解が追いつかない。


 脳が、軋み始める。


 先ほどまでの美しい都市が、目の前で崩れていく。


 逆巻く炎の竜巻が、逃げまどう人々を飲み込んでいく。


 人ならざる異形の怪物たちが街を闊歩し、人々を食らう。


 中心に聳え立つ城は、それを取り囲むように脚を伸ばした蜘蛛の怪物に破壊されてゆく。


 上空には万華鏡のように無際限にその姿を変える球状の物体が、全身から無数の光線を都市に向けて放ち、建物が次々と崩れ落ちる。

 

 都市全体を覆いつくす巨大な暗雲の中に見え隠れする、植物の根のような触腕が、都市の四方にある尖塔を砕く。


 語るのも悍ましい怪物達が、都市を蹂躙していた。


 今にも都市が滅ぼされようとしている間際、朗々たる角笛が都市全体に響き渡る。


 暗雲を貫き、天から地に向かって光が射す。


 林立する巨大な黄金の柱が、暗闇に閉ざされた街を煌煌と照らす。


 黄金の柱が割れ現れたのは、輝きを放つ甲冑と武具を身に着けた勇壮にして美麗なる男女の姿。


 彼らは雄たけびを上げながら、異形の軍団に向かっていく。

 

 そして両者が激突した瞬間、世界は光に包まれ、俺はあまりの眩しさに目を閉じる。

 

 


 

 

 飛び起きた俺は目を開けると、そこは自分のいつもの部屋だった。


 窓の外からは、さんざめく蝉の鳴き声が聞こえてくる。


 俺は息を荒げ、全身に汗をかいている。


 頭を抑え、俺はさっき見た光景を思いだす。


「また夢か……」


 目覚めた俺はそのまま立ち上がろうとするも、身体に上手く力が入らない。


 枕元の時計を見ると、朝の九時を過ぎていた。


 いつもなら飛び込んでくる妹の陽芽も、今日は来なかったみたいだった。


 俺は目を閉じ二度寝をしようと試みるも、完全に目が冴えてしまっていた。


 気晴らしに俺は、散らかった部屋のマンガの隅におかれてあった携帯ゲーム機を手に取ると、寝転がりながら、ゲームを始める。


 二時間程ゲームをしていると、空腹を感じる。


 ようやく立ち上がった俺は二階の自室から出て、階段を下りてリビングに向かう。


 リビングに入ると、その中央にある四人掛けのテーブルの上に、メモ帳があり何かが書かれている。


「陽芽を連れてプールに行くから、ご飯は適当に食べなさい、か」


 冷蔵庫の中を見ると、ラップにくるまれた皿の中にチャーハンがあった。爆睡してた俺のために母ちゃんが作ってくれたんだろう。


 その横には、切り分けられた誕生日ケーキが一人分。


 母ちゃんに心の中で感謝をしつつチャーハンが乗った皿を取り出し、レンジにかけて温める。


 テーブルに着いた俺は椅子に座り、リモコンでテレビを付けると、録画していたアニメを流しながら、チャーハン、その後ケーキを食べる。


 ショートケーキの生クリームが脳内を駆け巡り、ようやく元気が湧いてくる。


 食べた皿を流しにおいて、自分の部屋に戻り、勉強机の前に座り棚に並べてあるマンガを手に取る。


 マンガを読もうとするも、全く集中できず、マンガを放り投げる。


 何も考えないようにしていたが、昨夜の出来事が脳裏にこびりついて離れない。


 今朝見た夢と同じように、昨夜の出来事も、もしかしたら夢なんじゃないか、と淡い期待を持って左手首を見る。


 だがそこには昨日と変わらず、ノーデンスが言っていた神宝、イマジナイトと呼んでいた腕輪がついたままだ。


「夢じゃねえって……ことかよ」


 俺はイマジナイトを眺めながら、独り言を呟く。


『夢なわけなかろう。このバカもんが』


「おわっ!」

 

 突如として聞こえてきた声にびっくりして、動揺のあまり俺はバランスを崩し椅子から転げ落ちる。


「痛ってえ……」


『何を驚いておるか。まったく落ち着きのない奴じゃのう』

 

 声の主は呆れたようにため息をつく。


 その声は、少女の可憐さと女王の如き威厳が混ざりあったような、不思議な声だった。


 俺は焦って部屋の周りを見るも、勿論この部屋には、俺以外には誰もいない。


『どこを見ておるか。我はここじゃ。貴様の目の前にいるではないか』


 もしやと思い、俺は左手につけてあったイマジナイトを見る。すると、色あせていた星とその中央の炎の紋様が、赤く点滅している。


「もしかして……この中にいるのか? 」


『そうじゃ! 気づくのが遅いわ! 』


 俺は呆気にとられる。


「そりゃ、悪かった。こんなこと経験すんのは初めてだからよ」


 俺は右手で頭をかきながら混乱していたが、仕方なく左手の腕輪の中にいる声の主に向かって話しかける。


「で、この腕輪の中にいる、あんたは一体誰なんだ? 」


『我か! 我は……』


 と声の主は沈黙する。


 十秒、二十秒と気まずい沈黙が続き、しびれを切らした俺がもう一度聞こうと口を開いたその時、声の主が答える。


『我は……誰なんじゃ? 』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ