『声』
気づくと俺は、夢の中にいた。
空に浮かんでいた俺の眼下に見えるのは、天を衝く尖塔に四方を囲まれ、巨大な城と神殿を中心に広がる古代都市。
目に映るその壮麗な都市の姿に、美しさを感じる。
もっとよく見ようと、俺は地面に向かって降りてゆく。
街の中心の十字路に立ち並ぶ市場では、多くの人々の喧騒がざわめき、活気づいている。
まるで古の時代にタイムスリップしたかのようだ。
感動を覚えたその次の瞬間だった。
目の前の街が、炎に包まれていた。
目に映るその光景に、理解が追いつかない。
脳が、軋み始める。
先ほどまでの美しい都市が、目の前で崩れていく。
逆巻く炎の竜巻が、逃げまどう人々を飲み込んでいく。
人ならざる異形の怪物たちが街を闊歩し、人々を食らう。
中心に聳え立つ城は、それを取り囲むように脚を伸ばした蜘蛛の怪物に破壊されてゆく。
上空には万華鏡のように無際限にその姿を変える球状の物体が、全身から無数の光線を都市に向けて放ち、建物が次々と崩れ落ちる。
都市全体を覆いつくす巨大な暗雲の中に見え隠れする、植物の根のような触腕が、都市の四方にある尖塔を砕く。
語るのも悍ましい怪物達が、都市を蹂躙していた。
今にも都市が滅ぼされようとしている間際、朗々たる角笛が都市全体に響き渡る。
暗雲を貫き、天から地に向かって光が射す。
林立する巨大な黄金の柱が、暗闇に閉ざされた街を煌煌と照らす。
黄金の柱が割れ現れたのは、輝きを放つ甲冑と武具を身に着けた勇壮にして美麗なる男女の姿。
彼らは雄たけびを上げながら、異形の軍団に向かっていく。
そして両者が激突した瞬間、世界は光に包まれ、俺はあまりの眩しさに目を閉じる。
飛び起きた俺は目を開けると、そこは自分のいつもの部屋だった。
窓の外からは、さんざめく蝉の鳴き声が聞こえてくる。
俺は息を荒げ、全身に汗をかいている。
頭を抑え、俺はさっき見た光景を思いだす。
「また夢か……」
目覚めた俺はそのまま立ち上がろうとするも、身体に上手く力が入らない。
枕元の時計を見ると、朝の九時を過ぎていた。
いつもなら飛び込んでくる妹の陽芽も、今日は来なかったみたいだった。
俺は目を閉じ二度寝をしようと試みるも、完全に目が冴えてしまっていた。
気晴らしに俺は、散らかった部屋のマンガの隅におかれてあった携帯ゲーム機を手に取ると、寝転がりながら、ゲームを始める。
二時間程ゲームをしていると、空腹を感じる。
ようやく立ち上がった俺は二階の自室から出て、階段を下りてリビングに向かう。
リビングに入ると、その中央にある四人掛けのテーブルの上に、メモ帳があり何かが書かれている。
「陽芽を連れてプールに行くから、ご飯は適当に食べなさい、か」
冷蔵庫の中を見ると、ラップにくるまれた皿の中にチャーハンがあった。爆睡してた俺のために母ちゃんが作ってくれたんだろう。
その横には、切り分けられた誕生日ケーキが一人分。
母ちゃんに心の中で感謝をしつつチャーハンが乗った皿を取り出し、レンジにかけて温める。
テーブルに着いた俺は椅子に座り、リモコンでテレビを付けると、録画していたアニメを流しながら、チャーハン、その後ケーキを食べる。
ショートケーキの生クリームが脳内を駆け巡り、ようやく元気が湧いてくる。
食べた皿を流しにおいて、自分の部屋に戻り、勉強机の前に座り棚に並べてあるマンガを手に取る。
マンガを読もうとするも、全く集中できず、マンガを放り投げる。
何も考えないようにしていたが、昨夜の出来事が脳裏にこびりついて離れない。
今朝見た夢と同じように、昨夜の出来事も、もしかしたら夢なんじゃないか、と淡い期待を持って左手首を見る。
だがそこには昨日と変わらず、ノーデンスが言っていた神宝、イマジナイトと呼んでいた腕輪がついたままだ。
「夢じゃねえって……ことかよ」
俺はイマジナイトを眺めながら、独り言を呟く。
『夢なわけなかろう。このバカもんが』
「おわっ!」
突如として聞こえてきた声にびっくりして、動揺のあまり俺はバランスを崩し椅子から転げ落ちる。
「痛ってえ……」
『何を驚いておるか。まったく落ち着きのない奴じゃのう』
声の主は呆れたようにため息をつく。
その声は、少女の可憐さと女王の如き威厳が混ざりあったような、不思議な声だった。
俺は焦って部屋の周りを見るも、勿論この部屋には、俺以外には誰もいない。
『どこを見ておるか。我はここじゃ。貴様の目の前にいるではないか』
もしやと思い、俺は左手につけてあったイマジナイトを見る。すると、色あせていた星とその中央の炎の紋様が、赤く点滅している。
「もしかして……この中にいるのか? 」
『そうじゃ! 気づくのが遅いわ! 』
俺は呆気にとられる。
「そりゃ、悪かった。こんなこと経験すんのは初めてだからよ」
俺は右手で頭をかきながら混乱していたが、仕方なく左手の腕輪の中にいる声の主に向かって話しかける。
「で、この腕輪の中にいる、あんたは一体誰なんだ? 」
『我か! 我は……』
と声の主は沈黙する。
十秒、二十秒と気まずい沈黙が続き、しびれを切らした俺がもう一度聞こうと口を開いたその時、声の主が答える。
『我は……誰なんじゃ? 』




