『飛来』
漆黒の夜空を、一条の流星が駆ける。
それは仰ぎ見る人々の目には、何の変哲もないただの流れ星に見えた。
流れ星は夜闇を切り裂き、何処かに向かって飛んでいく。
そして、とある海岸の砂浜にそれは落下する。
衝撃と共に砂が吹き飛び、砂浜に大穴を開ける。
「おい、何か落ちてきたぜ! 」
砂浜を見下ろすガードレール沿いに、軽自動車が一台停まっていた。
乗っていた4人、20代前半の遊びに来た大学生らしき若者たちが、落下してきた物体を指さして騒いでいる。
酒も入っていて陽気になっていた彼らは、車から降りると砂浜へと通じる階段を降りていき、落ちてきた塊を興味本位で確かめることにした。
その好奇心が、自ら災厄を招くことになるとは、誰一人思わなかった。
「ははは……何だこれ……」
塊の前までやってきた4人の若者の笑い声が、徐々に萎んでいく。
落ちてきたものは、真っ黒な塊だった。
蠢く塊の表面はどす黒い血管のようなもので覆われ、まるで心臓が脈を打つように鼓動を立てる。
彼らの身長のゆうに倍はあるその蠢く黒い物体を見て、彼らは言葉を失う。
若者たちは陽気な気分で見物に来てみたものの、あまりにもグロテスクなそれを見ると、一気に酔いが醒め、彼らの顔が青ざめる。
静寂の中、黒い塊が蠢き、微かな鼓動が砂浜に響く。
「おい……、お前、何してんだよ」
髪を短く刈り上げ、ボディビルダー並みに体格のいい一人の若者は、隣にいる細身の友人が黒い塊に触ろうと手を伸ばす様子をぎょっとして見る。
その男の眼は、不気味な光を放っていた。
「やめとけって……それやべえって! 」
彼は塊に触れようとする友人を止めようと腕や肩を抑える。だが、手を伸ばした友人は全く止まらない。
細身の体のどこにそんな力があるのか、抑えようとした自分が引きずられそうになる。
「お前らも手伝え! 」
後ろで棒立ちしている二人に声をかけ、三人で両腕、両脚や腰を掴むも、その動きは止まらない。
異常な程の力強さで、塊に向かって近づいてゆく。
手を伸ばす男の表情が崩れ、口の端からは涎が垂れ、瞳が満月の光に照らされ、狂気の光を帯びだす。
そして伸ばした手が黒い山に触れた時、空気が凍り付く。
一瞬の静寂。
塊は激しく鼓動し始めた次の瞬間、塊が裂け、穴の中から這い出た触手によって若者は引きずり込まれていく。
砂浜一帯に狂ったように喚く若者たちの声が響き渡る。
引きずり込まれる男を皆で懸命に引きずり出そうとする。
しかしあまりにも強い触手の力に耐えきれず、若者は黒い塊に飲み込まれていった。
目の前で起きた一瞬の出来事に、彼らは茫然とする。
「おいお前ら、早く……早く、逃げねえと……」
残った彼らが逃げようと塊に背を向けた途端、塊から再び開いた穴から何十本もの触手が飛び出し、彼らを捕らえる。
「やめ、やめろっ、放せえ! 」
抗うことすらできず、一人、また一人と触手に引きずられ黒い塊に飲み込まれてゆく。
最後の一人が飲み込まれると、砂浜に静寂が戻ってくる。
満月に照らされ、怪しく蠢く黒い塊。
新たな生命の誕生を祝福するかのように、その鼓動を無人の砂浜で響かせ続けていた。




