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『はじまり』

「女神の守護者って……一体何のことだよ!?」

 

 俺は傍らで眠るエルピスの顔を見て、顎鬚をかくノーデンスに向かって叫ぶ。


「俺がこの子を、エルピスを護るってことか?」

「まさしく、その通りじゃ」

 

 ノーデンスは頷く。


「おいおい、冗談きついぜ!」


 慌てて俺は言い返すも


「儂は冗談など言わぬ。現にお主は、既に守護者として戦ったではないか」

 

 俺は先ほどの怪物との戦いを思いだすと、恐ろしさが蘇り、口が勝手に突っ走る。


「さっきは何か、よくわかんねえけど、変身してまぐれで倒せただけだ!わけわかんねえこと言ってんじゃねえ」


 俺はノーデンスと名乗った老人に言うも、


「これはお主が自ら選び取った運命じゃ。お主の左手に装着された神宝、その名もイマジナイトこそ、l守護者の証明」


 俺は自身の左手に装着された腕輪を見る。


「イマジナイト……」


「そうじゃ。そして、もはや引き返すことはできぬ」


 目の前に君臨する老人の姿が、ぼやけていくと同時に空間全体に罅が入り崩れていく。


「おい、てめえ!」

「今宵はここまでのようじゃ。明日、再び森へと来るのだ。さすれば……」


 そういうと、俺の横にいたエルピスの体と子ライオンが光となって浮かぶ。


「待ちやがれ!その子に何をするつもりだ!」


「もう一度言う。明日の夜、森に来るのだ。その時、説明をしよう。お主の左手のイマジナイトが、道しるべとなるじゃろう」


 ノーデンスの言葉がぶつ切りになっていき、遂にその巨体の老人の体は消え去り、視界が歪む。


「ちょっ、待て!まだ俺は引き受けたわけじゃ」


 視界が眩い光に覆われ一瞬目を閉じる。


 目を開けると、いつの間にか公園に戻っていた。


「おいおい!肝心なところで消えるんじゃねえ!」

 

 俺はキレるも、既にノーデンスはいなくなっていた。周りを見渡すも、引きちぎられ壊れたブランコ、崩れたジャングルジム、抉れた石畳といった戦いの跡しか残っていない。


 子ライオン、そしてエルピスと名乗ったあの不思議な少女も消えてしまった。


 白昼夢でも見ていたかのような、現実離れした出来事。


「本当に、現実だったのかよ……」


 俺は公園の出口に向かって歩いたが、現実感は全くなかった。


 上を見上げると、星々が煌めく夜空の中心で、満月が嗤うかのように俺を見下ろす。


 俺はただそれをぼんやりと眺める。


「一体、どうすりゃいいんだよ……」


 夜空に向かって虚しく独りごとを呟くも、返事はない。


 夢見て、憧れた状況。そして飛び込んだ。


 だけど……。


「くそっ!」

 

 俺は地面に転がる石を蹴とばす。




 携帯で時間を見ると、零時を回ろうとしていた。


「やっべえ。母ちゃんになんて言い訳すりゃええか」

 

 俺は、一旦今夜のことは頭の片隅に追いやる。そして母ちゃんの機嫌を想像するとげんなりする。


 


 案の定、家に辿り着き玄関を開けた途端、仁王立ちした母からの説教を正座で聞く羽目になった俺は、自分の部屋に戻ると夜中の二時になっていた。


 俺は床にリュックを放り投げると、敷かれた布団の上に飛び込む。


 俺は左手首に、装着されているイマジナイトと呼ばれたものを見る。


「俺が、変身して、倒した……」

 

 怪物に対峙した時の恐怖、絶望。そして謎の声に導かれ、ずっと夢見ていたヒーローの姿になって怪物を倒すことができた。


 胸が高鳴ると同時に、少女、エルピスのことを思いだす。

 

 どうにも気にかかる。彼女の顔を見た瞬間、遠い記憶の片隅に、何かを感じた。


 あんな少女、今までの人生で見たことがないし、出会うはずもない。


「一体どうして、俺なんだ?」


 考えようとするも、疲労困憊だった俺は、すぐに微睡み、夢の中へと落ちていった。

 




 少年が眠り、鼾をかき始めたころ。


 彼の左手に装着された腕輪に、赤い光が灯る。


 それはかすかな光を灯しながら、爆睡する少年を見守り、新たな守護者の目覚めを祝福するかのように、不規則な明滅を繰り返す。


 

 




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