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『限界況位』

 刹那、俺の胸の奥底で、火花が散る。


「ふ、ざ……ける……な」

 

 沸沸と、それは胸の奥から湧き上がる。そして、俺の臓腑から炎となって迸る。


「ふざけるなぁああああああああ!」


 目覚めた意識が、幻想を引き剥がし、現実の光景を映しだす。


 俺は吐血しながら、立ち上がる。


 全身が痛み、数百キロのダンベルを背中に背負わされているように、身体が重荷を感じる。


 頭から流れた血が目に入り、視界を真っ赤に染める。


 先ほどの一撃で肋骨は折れ、触手の棘による全身の傷跡からは、とめどなく血が流れる。 

 

 俺はここで、死ぬ。避けようがない、終わりの時。


 そして俺は、目の前の死に向かって歩き出す。


 心の奥底で見えた光景が、俺を突き動かす。

 

 幼いころ、夢見て憧れたヒーローのように、怪物を倒し、少女を救うことは、俺には出来なかった。


 俺は無残に、あの怪物に殺される。

 

 それでも理性を越えた何かが、言葉にできない感情が、燃え盛る怒りとなって、俺を駆り立てる。


「逃げて……たまるかよ……」


 怪物が俺の方に体を向ける。彼我の距離は、もう10メートルもない。


 俺もあの少女のように、いつ喰われてもおかしくない。


「……おい」

 

 俺は目の前で蠢く怪物に向かって叫ぶ。


「あの子を返せっ。てめえが喰ったあの子を返しやがれええええええっ!」

 

 全身の痛みに意識が飛びそうになる。

 

 怪物が俺を飲み込もうと、胴体が裂け、大きな口となり、牙が光る。


 満身創痍の俺に何もできることはない。こんな悪夢のような怪物を前に、たかが人間である俺にできることは何もない。


「それでも……」


 あの時、約束した。


 幼い頃からあこがれ続けた勇者なら、決して諦めない。


 どんな窮地に陥ろうと、絶望に呑まれようと、何度でも立ち上がる。


 例え、どんな敵が現れようとも。


 例え、死が目の前にあろうとも。


『もし今日の君と同じように、怖い目にあった誰かを、君が見つけた時には』


 俺は、戦う。最後の最後まで。


『今度は君が、その子を助けてあげるんだ』


「決して諦めて、たまるかよぉおおお!」

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