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『絶望の刻』

 夜の公園に、静寂が訪れる。


 俺はいま目にした光景が、現実なのか幻なのか、それすらわからなくなる。


 俺は何度も自分に言い聞かせる。俺は、夢の中にいるのだと、これは現実ではないのだと。


 だが、苦痛が俺の頭を否応なく現実に呼び戻す。


「何でなんだよ……」


 乾ききった絶望が言葉となって、むなしく地面に落ちる。


 一体、俺は何を勘違いしていたんだ。


 もし物語の世界に入ることができたら、自分はヒーローになれると、そう思い込んでいた。


 そういう状況が来たとき、幼い頃に見た、テレビの中で輝いていたヒーローのように、怪物を倒し、お姫様を助けることができると。


 目の前にあるこの状況が、全てだった。

  

 俺は絶望し、地面に両手をついて倒れ込む。


 無力感、後悔、情けなさ、ありとあらゆる己を責め立てる負の言葉が、考えが呪いのように頭を渦巻く。


 倒れ伏した俺は顔を上げ、怪物を見る。怪物の無数の目は俺の視線と交差し、そしてこちらに向かって近づいてくる。

 

 これが、終わりなのか。


 絶体絶命、万事休す。


 苦痛で体は動かず、絶望で逃げる気力すら湧かない。


 このまま俺はなす術もなくあの少女のように、怪物に喰われる。


 それが俺の人生の終着点。もはや助かる望みは、無い。


『どうか、あの子を救ってください』

 

 不意に夢の中で、俺に向けられた言葉を思いだし、血を吐きながら自嘲する。


 一体どうして、あの人は俺にあんなこと言ったんだ。あんな怪物に、たかが人間の俺が何ができるっていうんだ。

 

 そして怪物に飲み込まれた少女の顔を思い出す。


 その翠に輝く、透き通った海のような瞳は、何の憂いも恐れもなく俺を見ていた。


 飲み込まれる直前、最後の瞬間も、俺を責めるでもなく、恨むのでもなく。ただ静かに見ていた。

 

 刹那、俺の意識が何処かへ飛んでいく。


 

 夕焼けの下で、一人の子供が震えていた。


 怯える子供を囲むように、大きな影が聳え立つ。


「やめろ」

 

 影が、抵抗し怖がる子供を覆いつくさんとする。


「やめ、ろ……」

 

 影がどんどん大きくなり、耐えられなくなった子供は涙を流しうずくまる。


 俺がその子供の顔を見た時、それは少女の顔となる。


「やめろおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

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