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『召命』

 目を疑うような光景に、俺は目を奪われ、固まる。


 黒雲を切り裂いて屹立するは光の柱。その表面には、煌めく光の雪のようなものが舞っている。


 常識とはかけ離れたその光景を前に呆然としていた。魅入られたようにそれを眺め続ける。


 俺のズボンのポケットが振動する。俺は我に返ると、ポケットから携帯を取り出し開く。そこには母との文字が映っている。


 振動し続けている携帯の通話ボタンを押した途端、怒鳴り声が響く。


「太陽!あんた何の連絡もせずにどこほっつき歩いてんの!ご飯が冷めるでしょうが!あんたの誕生日だからみんな待ってんのよ!さっさと帰ってきなさい!」


「あ、ああ」

と答えると、電話は切れる。


 光の柱の降りた先は、町の端にある閑静な住宅街、その横にある公園、通称象さん公園だった。


 眺めていると光の柱は、徐々にその形が崩れてゆく。ついには霞んであっけなく消えてしまった。俺はその柱が消えたあとも、眺め続けていた。


 脳裏に刻み込まれた現実の光景は、俺の心の中の奥底に眠っていた憧れを呼び覚ます。

 

 18才の誕生日の今日。俺の目の前で起きた人知を超えた出来事。


 俺は確信する。何かが俺を呼んでいる。


「ならよお、行くっきゃねえ!」


 公園に向けて自転車をかっとばす。


 5分もしない内に俺は象さん公園に辿り着く。


 公園は軽く野球もできるくらいの広さを持つ土のグラウンド。そしてグラウンドの端にあるフェンスを隔てて、幾つかの遊具がある二つのエリアで分かれていた。


 俺は公園の入り口の脇に自転車を立てかけると、まずはグラウンドに入る。


 日中だと子供達がサッカーや野球をしてたりもするが、夜になると誰もいない。聞こえてくるのは蝉の鳴き声のみだ。見たところ特におかしなものは見当たらない。


「確かこの辺りだったはず……」


 俺は何かないかと見渡すも、そこは人気の絶えた、ただのグラウンドでしかなかった。


 俺はグラウンドの中央を突っ切り、端にある壊れかけたフェンスの扉を開けて、公園の遊具があるエリアに入る。


 俺は一通り歩きつつ見渡すも、やはりグラウンドと同様、光の柱に関係しそうな、それらしき何かは見当たらなかった。

 

 何も見つけられないまま、俺は公園の中心にある噴水まで歩く。さきほど見た超常現象は、俺の錯覚だったのか。


「いや。そんなことねえ。絶対に何かあるはずだ」

 

 俺はもう一度公園を一通り見て回ろうと噴水に背を向けた。すると、火花が弾けたような音が鳴ると同時だった。


 公園を照らしていた電灯の明かりが次々と消える。


「なっ!」

 

 俺は焦って周囲を見渡す。電灯は消えていき、遂に噴水を上から照らしていた、最後の電灯が消える。


「おいおいおいおい、どうなってんだよ!」


 心臓の音が痛いぐらい響く。好奇心につられて俺はとんでもないことに巻き込まれたのか。不安と後悔がよぎった瞬間だった。


 気持ち悪い楽器の不協和音の音が鳴ると、俺の前方に黒い渦が現れる。


 俺の背丈ほどもあるその渦は、まるで扉のようにその中心を俺に向け、漆黒と黄金色に渦巻いている。


 暗闇の中、唯一不気味に輝くその渦を見て俺は、魅入られたかのように固まる。いつの間にか蝉の鳴き声は聞こえなくなっている。


 俺は口にたまった唾を飲み込むと、その音が虚ろに響く。その渦は俺に問いかけているようだった。


 『お前はこの先に、飛び込む勇気はあるのか?』と。


「どう見たって、素敵な場所に連れてってくれはしなさそうだな」


 俺は皮肉気に呟く。だんだん喉が渇いてくる。背負っていたリュックの中からペットボトルの水を取り出し、勢いよく飲む。一息付いた俺は、回り続ける螺旋を巻く不気味な渦を見つめる。

 

 この渦、いや、門か。それは、明らかに俺を招いている。どこだかわからない場所に。


 そして、この渦をくぐり抜けたら、もう帰ってこれなくなるかもしれない。


『どうか、あの子を救ってください』


 不意に、俺の頭の中で声が響く。今朝見た夢を、思いだす。


 この渦の先に、夢の中の女がいっていた人がいるのか。それとも、俺を誘う何かの罠か。疑念、不安の声が頭に響く中、俺の口が自然に開く。


「けどよお。もしも助けを求めてる子がいて、その子が俺を待ってるっていうなら……」

 

 自分でもおかしくなるくらい、胸の内から熱が広がり、不安と恐れを吹き飛ばす。


 幼き頃から想像し、憧れ夢見た冒険が、俺を待ってる。怪物を倒し、囚われの姫を助ける勇者になれ、と。


「待ってろよぉ、お姫様!」


 俺は雄たけびを上げると、全力で渦の中に飛び込んだ。

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