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他人の評価を気にしないアホ

作者: 恒河沙

 力量は評価に比例しないのか?


 おそらく、今の私はこの質問にしないと言い切ることができる。


 なぜなら、かなり考え抜いた作品ほど評価されずに、即席で考えた作品の方が評価されているからだ。


 私は小説のコンテストのために、オムニバス形式の作品を書いた。このオムニバス形式の中で一番考え抜いて書いた話がある。この作品は、本当に私が書いたのかと思ってしまう程、良い出来になったと感じた。


 それを示すように、作品の文字数が膨大になった。私は書いている話がつまらないと、早めに話を畳む癖がある。なので、文字数が多くなるほど、私が面白いと思っているということになる。つまり、作品の文字数ランキング一位で、二位の二倍の文字数を誇るこの作品がどれだけの思い入れと自信をもって書いたのかが分かると思う。


 しかし、この作品は、現在たった一人しか見られていない。


 詳しく話すと、文字数が多くなったので、前後編に分けて投稿したのだが、前編は十人以上に読まれたのだが、後編は一人にしか読まれなかった。前編は結構面白くなりそうで、気になる部分で終わらせたと思っていたが、読者はそんなことはなかったようだ。


 考え抜いた作品の話をしたので、即席作品について書いていく。


 この即席作品は、ある小説コンテストに応募するために作られた。このコンテストは、指定のキーワードを使って、千文字以下の超短編作品を書けと言うものだった。私はとりあえず応募したいと思い、なんとなく書けそうなキーワードを選んだ。


 このキーワードから話の構成も考えず、書き始めて、ぎりぎり八百文字を超えるくらいの小説になったので、投稿した。すると、すぐに満点評価が二つ付いた。


 これは一部の例ではあるが、他の作品でもこのような現象が起こっている。このエッセイだってそうだ。毎日適当に思ったことを書き綴っているだけなのに、自信作の「ぼっちはぼっち」より全部見ている人が多い。


 さて、この力量と反比例する評価をどのように扱うべきかが私の作家としての資質が試されている。私は正直他人の評価など気にしない無頓着な人間だと思っていたが、小説を投稿してみると、滅茶苦茶気にしてしまうことに気づいた。


 これは不思議なもので、目に見える相手にどう思われようとどうでもよいのだが、目に見えない相手には良く思われたいという不思議な承認欲求が生まれている。これは幽霊を怖がるのと一緒で、見えないものは恐怖し、目に見えるものは安心することと同じようなものだろうか。


 これは人間の愚かな支配欲による産物で、人間が認知するものは支配していると勘違いして、安心するのだ。


 ただ、ここまで分かると、私の今後の指針が立てやすくなる。つまり、目に見えない人間を見ればいいのだ。そうすれば、現実と同じように小説でもふるまうことができる。


 では、目に見えない人間をどう見るか?


 これは簡単だ。頭の中でイマジナリー読者を作るのだ。私はこれまでにたくさんのイマジナリー人間を生み出してきた。イマジナリー界のビッグダディと言われている(もちろんイマジナリーの人間にだ)。


 だから、読者をイマジナリーの世界に引き込めば、評価を気にせず安心して小説を書くことができる。


 よし、イマジナリー開始!


 やあ、私の小説だけを読んでくれる狂信者の小説読太郎。今回の作品はどうだったかな?


 「マジ最高っす。あなた天才っす。」


 はっはっはっ、そんなに褒めたって何にも出ないぜ、読太郎。


 「出なくてもいいっす。あなた天才っす。」


 やっぱり薄々気付いていたが、天才だったか、読太郎。


 「あなた天才っす。あなた天才っす。」


 読太郎、具体的にどこが良かったんだ?


 「あなた天才っす。あなた天才っす。」


 ……読太郎。


 「あなた天才っす。あなた天才っす。」


 お前、読太郎じゃないな。誰だお前!


 「……お前だよ。


 所詮、イマジナリーの人間は、お前なんだよ。お前はお前に甘えるな!」


 ……読太郎。読太郎~~~~~。


 私は読太郎を抱きしめた。読太郎の体はとても大きくて、しっかりしていた。


 「あなたは僕。僕はあなただ。そして、あなたはあなただ。」


 私は読太郎の肩に涙をこぼしていた。


 「僕の役目はこれでおしまい。あなたはあなただけで生きていくんだよ。」


 その声を聞くと、読太郎の体はなくなっていた。私は彼の最後の言葉を胸に生きていくことを決めた。


               

                     ~fin~


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