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幸せな結末  作者: 灰色 シオ
第Ⅴ章 塁と桃子
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エピローグ

 不幸な事故で父親を亡くした少年 るいが転校してきたことから物語は動き出す。

 幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。

 互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?

「それは、あれだよ。あの頃の高梨ってこんなもんだったじゃん」

 安西りさ子がアイスティーのストローをかざして言い放つ。

「はしたないよ。りさ子」

 隣で笑いながら笹山博樹がたしなめる。


 5月、四十九日も終わり、納骨を済ませてきたわたしたちは笹山君とりさ子の二人と会っていた。

 ゴールデンウィークが明けたころ、りさ子から電話があった。りさ子とはお葬式以来、会っていなかった。りさ子は地元から東京の大学に通っている。笹山君は国立大の法学部に進学していた。都内で一人暮らしをしているそうだ。掃除しに行ったりさ子から地元の話としてわたしたちのことを聞きつけたらしい。


「そっちも落ち着いたそうだね。今度どこかで会えないかな。博樹が会いたがっている」

 笹山君とは小学校卒業以来一度も会っていない。けど、いろいろお世話になっていた。わたしたちのことを助けてくれた。わたしのことを悪い噂から守ってくれた。山中先輩に生徒会で守るように頼んでくれたのも笹山君だ。塁はりさ子に新聞部で助けてもらった。二人には感謝してもしきれない。


 ホテルのティールームで会った笹山君は背が伸びて大人っぽくなっていた。ブランドもののカジュアルジャケットを嫌味なく着こなして格好良くなっている。それに比べて塁は……ジャージはないでしょ、ジャージは……。わたし、ホテルのラウンジで会うって言ったよね。


 久しぶりに会う笹山君がいたので、中学以降のことを洗いざらいしゃべらされた。りさ子が時折、まぜっかえしたり、笹山君のサポートについて教えてくれたりして話の腰を折ってくれた。笹山君は口を挟まず笑いながら聞いてくれた。塁を押し倒したときの話は恥ずかしかったけれど、りさ子が許してくれなかった。そりゃ確かに笹山君には報告の義務があるとは思うけれど。ほとんどりさ子が楽しんでるでしょ。


「結局、子供のままごとみたいなもんだったんだよ。穴も開かないようなものは」

「はしたないよ」

 りさ子の暴言を笹山君がたしなめる。

「ストローってそこまで小っちゃくはなかったろう。見たんか?」

「見たんだよ」

 塁の反論をりさ子が一蹴する。そうだった。

 それにしても男の人ってどうして大きさを気にするんだろう?


「それでどうなんだい。二人はやり直せそうかい?」

 わたしたちのやり取りを笑顔で見守りながら笹山君が尋ねた。

「「うん/ああ、もう大丈夫!」」

「それならよかった」

 安心したような笹山君に塁が恐るおそる尋ねる。

「笹山……」

「博樹でいいよ」

「いいのか?」

「まだ、気にしていたんだね。塁、昔も今も君は僕の友達だよ」

「ありがとう」

 塁は恥ずかしそうで、けど、嬉しそうだった。


「博樹はなんでオレたちのことをそんなに気に掛けてくれたんだ」

 塁の疑問はわたしにとっても不思議だった。笹山君……博樹君はクラスのリーダーだったけど、わたしたちのことに責任などないはずだった。

「ああ、それか……それはね。塁は覚えていないだろうけれど。僕は塁と対戦したことがあったんだよ」


「いつだ?」

 塁も驚いていた。

「やっぱり覚えてなかったね」

 博樹君はちょっと残念そうな顔をしたけどそのまま話を続けた。

「小学校の5年生の夏だよ。リトルリーグで合同合宿があったろう。そのとき塁のチームとうちの地区選抜が練習試合をしたんだ。覚えているかい。5回コールドだったけど君はノーヒットノーランをやったんだ」


「ああ、確かにそんなことがあった」

「君にとっては特別なことじゃなかったろうけど。そのときの最後のバッターは僕だよ」

「そうか。そのバッターのことなら覚えている。きれいなスイングをするやつだった」

「光栄だね。僕はチームではエースで4番だったけど、選抜では控えにしか入れなかった。うちのチームから一人も出場させないのはまずいということで、最後に代打で出してもらったんだ。三球三振だった。それも全部ど真ん中のストレート。かすりもしなかった」

「それは体力の問題だ。身体ができてくれば振り負けなくなる」

「ありがとう。けど、その当時はそれが実力差だったんだ。そして、それ以来、僕は君のファンだったんだよ」

「……」

 塁は気恥ずかしそうに黙っていた。


「君が転校してきたとき、すぐにわかった。君と野球ができると思ってそれはうれしかったんだよ。残念ながらそれはかなわなかったけど、君をあのままつぶしてはいけないと思った。そんなことを許したら君に憧れた僕自身までけがすことになる。だから僕がやったことは僕の自己満足なんだよ。君たちが気にすることはない」

「……それでもオレは、オレたちは博樹に助けられた」

 塁がわたしを見た。わたしも大きく頷いた。

「友達なんだから当たり前だろ。塁がドッヂボールで勝負を仕掛けてくれたときはうれしかったなあ。あれは僕の中でも最高の思い出だ。あそこまで勝負に必死に食らいついたことはないよ」

 そういう博樹君は本当に嬉しそうだった。

「オレは博樹に応えられていない」

「何言ってるんだ。僕たちはこれからじゃないか」


「博樹はああ言ってるけど、それは本当のことだと思うけど、博樹は私をかばってくれたんだ」

「りさ子を? わたしじゃなくって?」

 りさ子の告白もわたしにとっては聞かなければならないことだった。

「もちろん桃子のことも庇っていたけど……。ああいういじめは被害者だけでなく加害者も傷を負うんだ。塁はわかるよな」

 そう言うとりさ子を塁を見た。

 塁は真剣な顔で頷いた。

「博樹は私に贖罪しょくざいのチャンスをくれたんだ。桃子たちが立ち直る手助けをする、そのことが私の救いになっていた。中学のときの優里菜を覚えているだろ。あの娘も罪悪感に潰されそうになっていた。あの娘も普通の娘だから。もちろん世の中には良心なんてどっかに置き忘れてきたような奴もいる。そんな奴は庇うに値しない。けど立ち直ろうとする相手なら助けてあげる。博樹は優しいから」

「りさ子を救ったのはりさ子自身だよ。上っ面の贖罪じゃなく本心からだったから桃子ちゃんは受け入れてくれたんだろう?」

 博樹君の最後の言葉はわたしに向けられたものだ。もちろん力強く頷いた。

「わたしはりさ子がいてくれてよかった。中学に上がって、また小学校のときの延長だなと思ったとき、りさ子が助けてくれた。友達になってくれた。それは本当にうれしかったんだよ」

「ありがとう。私は桃子が桃子で本当によかった……」

 りさ子は涙ぐんでいた。世渡り上手に見えるりさ子にとっても心の重荷だったのだろう。

「だから、桃子が幸せになってくれて本当にうれしい」

 祝福の言葉がこんなにうれしく感じられたことはない。だからこそ、はっきりさせたい。

「それじゃあ、今度はりさ子が幸せになる番だね」

「ありがとう。でも、私にはやりたいことがあるから」

「博樹君のお手伝い? 博樹君はりさ子のことどう思っているの?」


「桃子、やめて。博樹はこれからが大事なんだから」

 りさ子は止めたけど、恩人であっても親友のことをおろそかにはできない。りさ子はこんなにも博樹君のことを思っているのに。

 突然の矛先にも博樹君は真剣に答えてくれた。

「僕には野望がある。いずれ父の後を継いで、いずれはもっと大きな仕事をしたい。そのためには私生活においてもきちんとしておかなければならない。りさ子は幼馴染で戦友で大事な人だけど、僕は結婚するまでは彼女を作らないつもりだ」

「ありがとう。博樹。私も怖くて聞けなかったけど、初めてちゃんと言ってくれたね。私、それで十分だから……私、博樹の役に立つ相手と結婚すると思う。私の一生は博樹のものだから」

「りさ子……それでいいの?」


「どこに食い違いがあるんだ?」

 黙って聞いていた塁が口を開いた。

「……?」

「だってそうだろう。博樹はこんなモテそうなのに彼女は作らないって言ってる。りさ子は結婚までも博樹に役立てたいと思ってるんだろ。政治家ってのはよく知らないが、地元の根回しをする奥さんが必要だろ。だったら、りさ子はうってつけだし、博樹も拒んではいない」

「塁の言う通りだね。そして僕は政略結婚で力を得ようとは考えていない。ただ、将来のことは何も約束はできない」

「うん。ありがとう」

 りさ子が顔を泣きはらした目をして笑ってくれた。よかった。

「心配するな。今から童貞拗らせ宣言してるやつの嫁さんなんかなれるやつ、そうはいないぞ」

「君がそれを言うかい」

 三人が笑った。


     *


 別れたときには既に日が暮れていた。久しぶりだったとはいえ4時間もしゃべっていた。しかし、6年の穴埋めとしては短いくらいだ。

「あの二人、大丈夫だよね」

「とか、あいつらも言ってると思うぞ」

 二人を心配する桃子に塁が言葉を返す。

「大丈夫だ。あの二人はもともと思い合っていたんだ。思いやるあまりボタンの掛け違いもあったけど、ちゃんと気持ちを通わすことができた。あの二人は強いよ」

「塁だって強いよ」

「俺は強くなんかないよ。だから間違うわけにはいかないんだ」

「間違えたっていいんだよ。私が守ってあげるから」

「それは桃子の前だけだよ」

「知ってる」

 塁の顔が桃子に近づいてくる。あのときから随分と甘えん坊になったみたい。


 夕闇に紛れて塁の唇を受け入れる。

「間違うわけにはいかないんじゃないの?」

「間違いじゃないだろ」

「そうなの?」

「桃子だけだよ」

「それも知ってる」



     終

読んでくれてありがとうございました。

初めての投稿なので不安でいっぱいでしたが、なんとか物語を最後まで紡ぐことができました。最後までお付き合い頂けた皆様には感謝の言葉もありません。

最後に感想・レビューなど頂けたら嬉しいです。

10/28より第2作目の投稿を始めました。今度は少し軽いコメディーです。下記URLから閲覧できます。お付き合い頂けたら幸いです。

https://ncode.syosetu.com/n9804hw/

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