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幸せな結末  作者: 灰色 シオ
第Ⅳ章 高梨塁2
20/24

高校1年 8月 夏の終わり

 不幸な事故で父親を亡くした少年 るいが転校してきたことから物語は動き出す。

 幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。

 互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?

 8月下旬、夏休み最後の登校日、桃子は山中武光からメールを受け取った。

『放課後、中庭に来てくれませんか。待っています。追伸:りさ子には内密に願います。』


 らしくない。桃子は首を傾げた。普段の山中会長なら生徒会室に呼びだしただろう。生徒会の人たちにも聞かせたくないらしい。プライベートなことなのかもしれない。そう察して桃子はりさ子に(要件は告げずに)断って中庭を目指した。


 会長は中庭のベンチに腰掛け待っていた。姿を認め立ち上がって桃子を迎えた。

「来てくれてありがとう。うれしいよ」

「そんな。お世話になっている会長からのお願いなら断りませんよ」

「はは、それはうれしいけど、会長じゃなくても聞いて欲しいものだね」

 ベンチを勧め並んで座りながら本題をにおわせる武光だが、桃子は気づかない。

「来月の文化祭が終わったら選挙ですもんね。お疲れさまでした」

「(-_-;) いや、退任後の話じゃなくてね……私個人の話だよ」

「?」

「生徒会長としてではなく山中武光として頼みを聞いて欲しい」

「はい」

「いいのかい?」

「会長の権限は使ってましたけどわたしたちを助けてくれたのは山中先輩個人です。尊敬する山中先輩の頼みならわたしは聞いて差し上げたいと思います。わたしにできることならですけど」

「それを聞いてむしろホッとしたよ。もちろん君にできることだよ。いや、君にしかできないことだ」

 人のいい桃子に付け込んでいるようで躊躇っていた武光は現実を忘れていない桃子の言葉にむしろ勇気が出たようだった。


「なんでしょう。伺います」

「次の生徒会選挙で会長に立候補して欲しい」

「えーっ! わたしまだ1年生ですよ。会長職は2年生がやるものでは?」

「今の2年生には人材がいない。立候補しそうな生徒はいるのだが、私としては不満だ。桃子君、君は私と同じくらい物事を俯瞰してみることができる。決して出しゃばらずに人を動かすこともできる。その上、人を許し包み込んでやることができる。それらは人の上に立つ者の重要な資質だよ。生徒会長などという職は自ら行うことなどほとんどない。いかにチームを動かし、スタッフを活躍させてやるかが仕事だ。それがわかっていないものに、ただの目立ちたがりやハーレムを目指そうなどという色ぼけになど、この職を譲りたくはない。どうか考えてみてくれないだろうか」

「ハーレムを目指していたわけではなかったんですね」

「心外だな。それは結果論だよ。適材適所を目指したらこうなった。むしろ本命は別にいる」

「そうだったんですね。応援してます」

 反論とともに何かをにおわせる武光だが、またしても空振りに終わる。


「わたしになんか務まるのでしょうか?」

「むろん私が全面的にバックアップする。選挙だけでなく仕事についてもね。2年の新谷君と佐藤君も君ならスタッフとして残って協力したいと言ってくれた」

「……光栄です。でもこれは山中先輩個人としてじゃなくって会長としての依頼じゃないんですか?」

「ここまではね。そしてこれからが本題なのだが、桃子ちゃん、俺と付き合ってくれないか?」

「えっ?」

 がらりと雰囲気を変え、背もたれに掛けていた腕を伸ばし肩を抱き寄せてくる武光にようやく桃子も理解した。いつだって山中武光は本気なのだと。


「なんでわたしを……」

「理由が必要かい? 可愛いとかおっぱい大きいとかいろいろあるが……」

「会長、それ本気で口説いてます?」

 からかわれたのではないかと勘繰る桃子だったが、武光の本気は疑いようもなかった。

「でも……福沢先輩や川又先輩もいるのに。あんなきれいな人たちに比べたらわたしなんて全然です」

「君たちの事情はおおむね把握しているつもりだ。勘違いして欲しくないが、これは同情じゃない。君が魅力的だからだ。人と違ったことをすればなかなか受け入れられないものだ。逆風は想像するに余りあるものだったろう。つらいことも多かったはずだ。普通だったら潰れてもおかしくないほどのことだ。だが、君は腐らず、かといって悲観もせず、冷静に己を磨き続けた。全体を見通す目を養い、最適に友人たちを守り、必要があれば戦うことも(いと)わない。桃子ちゃん、君はとても素敵な女性だ。俺はそう思う。好きになる理由としてはそれで十分じゃないか?」


 山中武光はうわべではなく桃子の本質を見てくれているのだ。いつまでたっても守られるべき被害者としか見てくれない彼のことを桃子は思った。本当の自分を見てくれる存在がいるのはうれしいことだ。だが、桃子は流されることに躊躇(ためら)いがあった。

「山中先輩には好いてくれる人がいるじゃないですか。その人たちはどうするんですか?」

 だが、武光は揺るがない。桃子が思うよりその気持ちは強いものだった。

「彼女たちは確かに優秀だ。能力だけでなく容姿、人格も兼ね備えた魅力的な娘たちだ。生徒会長としての私には欠かせないスタッフだ」

「なら……」

「でも、彼女たちはあくまでも私の部下だ。私に使いこなされることを望んでいる。私に自分の新たな魅力を引き出して欲しいと思って集まっているんだ。優秀な彼女たちを使いこなすのは私にとってもメリットは大きい。でも、それじゃあ、俺はどうなる? 彼女たちの気持ちは上司としての山中武光に対してだよ。俺は俺と同じ景色を見られる人に側にいて欲しい」


     $


 何千回、何万回と繰り返すうちにようやっと確認が持てた。

 私はあの人に愛されていた。

 塁の言った通りだった。それを理解するために何年費やしたのだろう。時間の感覚はとうに失せていた。だが、費やした時間は数日の単位ではありえない。それだけはわかった。

 あの人に会いたい。

 心からそう思う。でも、今更、どんな顔をして? 

 それに最初にあの人に会いたいと思ったとき、誓ったはずだ。あの子を一人にはしないと。

 言い訳だったけど、本心でもあった。私は息子を愛している。

 あなた、疑ってごめんなさい。もう少しだけ待っていてね


     *


 夏休み最後の日もオレたちは図書館に行った。

 課題など7月中に終わらせており、その後は問題集を解いたり、本を読んだりして過ごした。休館日はどちらかの部屋で過ごすこともあった。やることに変わりはないが。

 それでも少しずつ変わっている。りさ子と三人で遊びに行くこともあった。買い物に行ったり、プールに行ったり。りさ子がどこかから招待券をもらってきた遊園地のプールは桃子も楽しんだ。オレは海の二の舞になるのではないかとひやひやしていたが、ああいうところはでき上がったグループで遊ぶところらしい。目立つようなことはなかった。ウォータースライダーで桃子のトップスが外れたことくらいだ。

 何回か、桃子はオレでもりさ子でもない友達と遊びに行った。クラスの娘らしい。昔とは違う。喜んで送りだしたが、カラオケに連れていかれたらしい。遊びなれていない桃子は帰りがけにオレの部屋にきて、へこんでいた。それも経験だ。


 その日は桃子がなにか言いたげにしていたことにオレは気づいていた。だが、帰るまで桃子は何も言わなかった。

 別れ際、オレのTシャツの裾を掴んで離さない桃子を部屋にあげた。話したいことがあるのだろう。いつもは少し開けておく部屋のドアを桃子は閉めた。祖母が気にするだろうが、今日のところはしょうがない。桃子の気持ちが大切だ。


 8月も終わりだというのに今日は一段と暑かったので図書館の冷房が寒く感じた。キャミソールにキュロットスカートの格好では冷えたのかもしれない。ベッドに腰掛けた桃子に熱いコーヒーを差し出す。桃子はマグカップを受け取ったものの両手で持ったままなかなか切り出さない。オレから話を振ってやろうかと思ったとき、消えそうな声で桃子が語りだした。

「この前ね。わたし、山中先輩に告白されたの。明日返事することになってる」

「そうか……」

 福沢先輩から匂わされていたオレにとっては意外ではなかった。だが、いざそのときがくると動揺が隠せない。

 当たり前だ。あっちは万人が認める秀才で、人当たりがよく信頼も厚い。将来も嘱望しょくぼうされている。対してオレはどうだ。友人もおらず、クラスでも浮いている。ただ金魚の糞のように桃子に付きまとっているストーカーみたいなものだ。ストーカーどころではない。オレは強姦魔の犯罪者だ。彼女にとってどちらがお似合いかは火を見るより明らかだ。


「塁君。また、馬鹿なこと考えているでしょ」

「馬鹿なこととはなんだよ。オレは真剣に桃子のことを……」

「それが馬鹿だって言ってるの!」

 いつもそうだ。お父さんが言う通りオレは肝心なときにヘタレで大事なことを言えないでいる。逃げている。気持ちはわかっているはずなのに。自分の気持ちだってわかっているはずなのに……

「そんなこと言ったって、山中会長は立派な人で格好よくって、恋人のことを幸せにしてあげられる人だろう……」

「……止めてくれないんだ」

 わかっている。本当はわかっている。けど、この口が、身体が動かない。いつまで逃げるんだ。いつまで……

「塁君の馬鹿―っ! もう知らない。顔も見たくない。さよなら!」

 オレはいつまで逃げているのだろう。追わなければならない。わかっているのに身体が動かなかった。


 どれくらい時間がたっただろう。階下に降りていくと最近めっきり丸くなった祖父が小遣いをくれた。お()びのプレゼントを買って来いと言う。

 そのときのオレはきっと泣きそうな顔をしていたのだろう。


読んでくれてありがとうございました。

本話で第Ⅳ章 高校1年生編はおしまいです。すこしづつ改善していた二人の関係ですが、会長の割り込みで怪しくなってしまいました。続きは次話からの第Ⅴ章 高校3年生編で描きます。

投稿は毎週火曜日と金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。感想・レビューなど頂けたらうれしいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 塁、桃子から逃げようとするんじゃない! 桃子の事が好きならば、好きだとハッキリ想いを告げろ! 境遇が何だ!? そんなものを言い訳にして逃げるなんざ、お前は桃子を襲ったあの悪党共と同じ臆病者…
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