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幸せな結末  作者: 灰色 シオ
第Ⅳ章 高梨塁2
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高校1年 7月 夏休み④

 不幸な事故で父親を亡くした少年 るいが転校してきたことから物語は動き出す。

 幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。

 互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?

「らしくないじゃない。後悔しているの?」

 護衛(虫除け)の役目も果たさず座り込んでいるオレに福沢先輩が声をかけてきた。

「いえ……」

「慣れないことして手首痛めたんでしょう。見せてみなさい」

 うつむいて右手のこぶしを見つめていたオレを福沢先輩は気遣ってくれる。だけど、そうじゃない。


「いえ、そうじゃなくて。すいません」

「なんのことかしら?」

「あんなまねさせて」

「ああ、あれね。気にしなくてもいいわ。私は自分の価値をわかっている。教えてもらったから。この外見も十分武器になるのだから。使うことに躊躇はないわ。それに悪い子達じゃないのよ、あの子たちも。あれが普通の子。普通じゃない子(あなた)に絡まれちゃったから慰めてあげただけ。過剰だったかもしれないけど」

 本当にこの先輩は自分のことがよくわかっている。普段と違って髪をアップに結っていて大人っぽく見える。白のワンピースの水着が艶めかしい。胸元に大きく入ったスリットが内側から大きく押し広げられていて目のやり場に困る。布地の面積が大きい方がエロいということを初めて知った。


「オレは初めて右手で人を殴りました」

「野球をやっていたのでしたわね」

「野球は死んだ父から教わりました。投手は投げること以外に利き手を使ってはいけないと躾けられていました。日常生活のうかつなことで怪我をして才能を潰した投手はたくさんいます。オレはもう野球は止めましたけど、その教えは守っていました。鞄を持つのも吊革につかまるのも左しか使いません。ケンカをしたときだって右だけは使わなかった。教えを破ったらまた父が遠くなるような気がして」

「でも使ってしまった」

「はい……」


 福沢先輩は優しくはなかった。

「それはあなたが無意識にお父様より大切なことだと思ったからじゃなくて?」

「オレは父が大好きでした」

「それは過去形なの?」

 優しくはない先輩は畳みかけてくる。

「でも、結果としてオレは父を捨てました」

「捨ててはいないでしょう。お父様と話してみれば? あなたの中にまだいらっしゃるのでしょう、お父様は。きっと喜んでくれると思うわ」

 そうなのだろうか? お父さんは喜んでくれるのか。自分の教えを破った息子を……


 目を閉じる。まぶたの中で変わらないお父さんが笑っていた。

『俺よりも大切なものを見つけたんだな』

『いいの? 教えを守らなかったのに』

『構わないさ。息子は父親を越えていくもんだ。大切なものなんだろ?』

『うん』

 オレは疑問をぶつけてみた。

『お父さんはオレの心の中のお父さんだろ。本当にそう思ってる? 福沢先輩に言わされてない?』

『おいおい、親を疑うのか? 俺はお母さん一筋だぜ。まあ、確かにぐっとくる娘だけど』

『うん、まあ、いろいろ大変なんだよ』

『お前はヘタレのわりにもてるからな』

『ヘタレ言うな』

『まあ、頑張れ。大切なものを見失うなよ』

『お父さん……』

『なんだ』

『お父さんは、人生やり直しの利かないことなんかそんなに多くはないって言ってたよね』

『ああ、そうだ。俺だって何度もお母さんを怒らせちまったことがある。その度に必死に頑張って取り返してきた』

『オレも失敗しちゃった。頑張ろうとしてるけどどうしても克服できなくて、そして今でも逃げ続けている。どうしたらいい?』

『それはなかなか厄介だな。頑張ってはいるんだな』

『うん。でもなかなかうまくいかないんだ』

『だったら、周りを頼ればいい。野球じゃなくてもお前の周りにはたくさんの人がいるだろう。お相手だっているんだろ。一人で背負いこむことが正しいとは限らないぞ』

『そうかな?』

『そうさ。三振を狙わずに打たせて取るピッチャーに価値はないと思うか?』

『それは……そんなことないけど』

『そうだろ? それじゃあ、父さんのとっておきの秘技を教えてやろう。お母さんも大抵はこれで許してくれた』

『なにそれ』

『それはな。土下z……』

 最後まで聞かずに目を開けた。


 顔を上げたオレを見て、お父さんとの会話が終わったことを察したのだろう。

「そんなに大切なのだったらモノにしちゃえばいいのに」

 先輩はまるでお父さんとの会話を聞いていたかのようなことを言う。

「これはオレの個人的な問題ですけど。オレは桃子には勃たないんです」

「乙女に向かってなんてこと言うのかしら」

「先輩が言わせたんですよ」

「EDってわけじゃなさそうね。まったく先輩に対して敬意が足りないわ」

 オレの股間を見て先輩はため息をつく。

 それこそ完全に先輩のせいだ。


「怖いのね。あの娘はそんなこと気にしないし、あなたのその面倒くさいところもほぐしてくれると思うのだけれど」

「きっとそうでしょうね。でも、これは……これだけはオレが自分で何とかしなければ。そうじゃなければオレはオレ自身を信じられない。何かが起こったとき、今のままのオレじゃきっと彼女を傷つけてしまう」

「本当にめんどくさいわね。わかったわ。それは自分で何とかしなさい」

「こんな真昼間に人前でですか?」

「その股間の粗末なものの話じゃないわ」

「冗談です」

「セクハラで訴えられるわよ。……それにあまり時間はないと思いなさい。うちにはワガママ大王がいるから」

 お嬢様で自分にも厳しい福沢先輩だが、オレと話すときはときどき雑駁ざっぱくになる。オレも福沢先輩と話すときだけは口が軽くなる。それを許してくれる厳しい先輩はやっぱり優しい。


「ありがとうございます。オレ、先輩のこと好きですよ」

「あら、ありがとう。てっきり嫌われているかと思っていたわ」

「福沢先輩のこと嫌う人間なんていないですよ」

「当たり前でしょ。でも、心にもないことを口にする男どもには痛い目にあってもらわなきゃ。4人もの美女に取り囲まれているくせにまた新たにちょっかいだそうだなんて」

「?」


 お昼の後で遊んだビーチバレーで何故か組まされた会長とオレは美女6人に袋叩きにされた。

読んでくれてありがとうございました。

塁も何とかしようと必死にあがいています。それを福沢先輩が優しくサポートしてくれています。塁は自分から一歩を踏み出せるのでしょうか。

投稿は毎週火曜日と金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。

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