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幸せな結末  作者: 灰色 シオ
第Ⅳ章 高梨塁2
18/24

高校1年 7月 夏休み③

 不幸な事故で父親を亡くした少年 るいが転校してきたことから物語は動き出す。

 幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。

 互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?

「なんか百合っぽい雰囲気だな」

 少し離れたところから男子高生たちが二人の様子を窺っていた。


「なにしてるんだよ。人が少なくてチャンスだったのに。」

 メッシュ髪がイライラしたように金髪をつつく。

「そんなこと言ったってあの雰囲気は入れねえだろ」

「あの二人できてんのかな? チャンスなくね?」

「そんときはそんときだ。当たって砕けろだ」

 怖気づく金髪を坊主頭が励ます。

「おい。戻ってくるみたいだぞ。浜で声かけるべ」


「ねえ君たちどこから来たの?」

 手を繋いで浜に戻る二人に金髪が声をかける。度胸だけではダメダメである。

「電車で来てたよね。来るとき一緒の電車だったんだけど」

「君たち可愛いからよく覚えてるよ」

 サポートするようにメッシュと坊主が両サイドを固める。

 二人のJKは驚く様子もなく見つめてくる。

 もしかしてナンパ慣れしてるのか? 童貞まるだしの男子高生たちが気圧される。

「褒めてくれてありがと。でも、連れがいるから」

 黒ビキニの娘があしらおうとするが、通り抜けようとした隙間を残る二人が詰める。連敗続きのおかげで度胸とフォーメーションの練度は上がっていた。

「ずっと二人でいたじゃん」

「二人で来てたでしょ。見てたから」

「ごまかさないでよ」

 二人は顔を見合わせ、ため息をついた。

「影薄いからね」

「むしろ気配消しているまである」

 二人の様子を脈ありと勘違いした三人は距離を詰める。

「いいじゃん。オレたちと遊ぼうよ」

 メッシュ髪がピンクの娘の腕をつかんだ。


     *


 いつの間にか二人はずいぶん沖まで出ていた。そこまで行くと人も少ない。100m近く離れているが見失うことはない。桃子のピンクの水着はよく目立つ。もっとも全員同じ服を着ていようが桃子を見誤ることなどありえない。

 オレは凍らせたペットボトルで頬を冷やしながら彼女たちを見ていた。

 楽しそうでよかった。りさ子のおかげだ。あいつはオレの側にいたはずだが、自ら動き闇を抜け出した。それはりさ子の強さだし、正しさだ。だからこそ桃子も受け入れた。今となっては桃子の救いでもあるだろう。

 りさ子に感謝するとともに羨ましく思った。


 ずいぶん長いこと二人は沖にいた。はしゃいでいるようでもない。話し込んでいるみたいだ。波は穏やかだが少し心配になる。

 突然、桃子がりさ子を海に沈めた。ケンカでもしてるのか?

 りさ子が反撃して二人が沈む。

 思わず腰を上げた。が、心配はいらなかったようだ。二人は手を繋いで戻ってくる。そこで気が付いた。二人を窺っている三人組がいることに。

 電車で見たあの連中だ。


 戻ってくる二人に浜で声をかけている。りさ子がいるし大丈夫だろう。と思ったが、なかなかしつこい。二人を逃がさないよう取り囲んで詰めよっている。

 オレは立ち上がった。距離50mを走り抜ける。砂地とはいえ7秒で追いつく。人込みも障害にはならなかった。

 二人はしつこい男達に手を焼いているようだ。メッシュ髪が桃子に手を伸ばすのが見えた。中学のときの事件を思い出した。一気に血が頭に上った。怒りに周りが見えなくなる。

 桃子に触れるな!


「その手を離せ!」

 駆け寄りざまに桃子の腕をつかんでいたメッシュ髪の男の肩を掴む。振り向かせると右のこぶしで横っ面を殴った。桃子を背に庇う。

「おーい、私は?」

 坊主に肩を抱かれたりさ子がのほほんとした声で救援を求めてくる。二人に余裕があることを感じて激情が冷めた。……やってしまった。努めて冷静に声をかける。

「すまない。その娘も放してくれないか」

 しかし、その落ち着きが精一杯の勝負(ナンパ)をかけていた連中には気に障ったらしい。

「痛ってえな。なにすんだよ」

「なんだ、てめえは?」

「二人も連れちゃって余裕かよ!」

「ごめん」

「ゴメンで済めば警察いらねえんだよ!」

 いきなり殴られた男たちは聞く耳を持たない。まずいことになった。


「はいはい、そこまで」

 一触即発の空気を男の声が破った。

「私の連れが失礼をしたようだね」

「会長!」

 りさ子の肩に回された手を引き離しながら仲裁に入ったその人は山中武光生徒会長だった。

「痛かったでしょう。ごめんなさいね。これで冷やして」

「副会長も!」

 オレが殴ったメッシュ髪の男の頬をペットボトルで冷やしてあげているのは福沢桜子副会長だった。他にも会計の川又美紀先輩、書記の新谷香織にいやかおり先輩、庶務の佐藤実里さとうみのり先輩も、生徒会オールキャストがそろっていた。会長を除く役員は美女ぞろいで皆セクシーな水着を着こんでいた。

 美女たちに懐柔された男たちは怒りを忘れて赤くなっていた。


 後ろから桃子につつかれた。

「塁君、助けてくれたのはうれしいけど暴力はダメだからね」

「うん……」

「じゃあ、謝って」


 オレは美女たちに囲まれて鼻の下を伸ばしている三人の前に立ち、頭を下げた。

「いきなり殴ってすいませんでした。ごめんなさい!」

「ああ……いいよ。こっちも悪かった」

「彼女にしつこくされたら怒るよな」

「気にするな」

 すっかり毒気を抜かれていた三人は呆気なく謝罪を受け入れ、美女たちに手を振られながら去って行った。


「会長、ありがとうございました」

 仲裁してくれた会長にも礼を言う。このシチュエーションは素直に感謝しにくいものがあるのだが。

「これも会長の仕事だよ。わが校の生徒が問題を起こしたのならうまく収めるのもね」

「武ちゃん、どうしてここに?」

 従妹のりさ子が絶好のタイミングでの会長の登場に疑問を持った。

「どうしてって、生徒会の皆を慰安しに海に来たんだよ」

「慰安って、武ちゃんが言うとやらしく聞こえるんだけど」

 美女四人に囲まれたハーレムの主は余裕だった。

「そんなこと言ったら彼女たちに失礼だよ。私の優秀なスタッフは才色兼備なことは確かだけれど」

「でもどうしてここに?」

「たまたまだよ」

「こんな3万人も人がいる中でたまたまなんてあるもんですか。まさか、なにか仕掛けた?」

「なんのことかな?」

 政治家秘書の家柄の2人は様々な便利道具の知識がある。


「信じらんない! まったく、もう。私荷物見てくる」

「待って、りさ子。わたしも行く」

 桃子が後を追う。山中会長もそれについていく。

「私も行こう。荷物持ってこっちに合流すればいい」

「武ちゃんは来るな!」

「まあまあ」

「会長、荷物持ちならオレが……」

 会長に荷物持ちなどさせられない。腰を上げようとしたオレを会長が押しとどめた。

「りさ子を怒らせちゃったからね。君はここで福沢君たちと待っていてくれ。私がいない間にナンパされたら困るからね」

 確かに彼女たちならその危険は高いだろう。オレは動けなくなった。


     *


「もう、ついてこないでって言ってるでしょ!」

 激怒していたりさ子であったが、会長の企みには気づいていた。

「……それに桃子をあいつから引き離したでしょう?」

 りさ子の怒りなど気にもしない山中武光であったが、後半の言葉に真顔になった。

「りさ子はいい友達してるんだな」

「当たり前でしょ。桃子は大事な友達なんだから」

「うん。だから彼も彼女には見られたくないだろうなって」

「?」

 ついていけないりさ子に武光は優しく説明する。

「さっき彼は右で殴った」

「だから?」

「彼は野球をやっていたのだろう。しかもピッチャーだ」

「あっ!?」

「投手にとって利き腕は大事だ。間違ってもケンカで使うことなどありえない。私が見てきた限り彼はそれを守っていた。彼にとっては大事なことだったはずだ。それだけ慌てていたんだろうけど。それだけ大事だったからなのだろうけど。別のものを捨てたことには変わりない。無意識だっただけにショックだろう。彼としても落ち込んでいるところを彼女には見られたくないんじゃないかな」


「ふーん。いい先輩してるじゃない。武ちゃんも」

 りさ子が感心したように混ぜ返す。だが、武光は意外な風な顔をした。

「何を言う。これは全て自分のためだよ。できる男の演出だよ。大逆転を狙うんだ。余計なアドバンテージを与える余裕なんてないよ。言ったろ。私は気が短いんだ。時が解決する結末なんかクソだ!」

「地が出てるよ、武ちゃん」

 にやりと笑う武光にりさ子が釘を刺したとき、桃子の声がした。

「何のお話?」

「何でもないよ。それよりせっかく荷物持ちに来てるんだ。私が持つよ」

「でも、会長にそんなこと……」

「構わないさ。点数稼ぎさせて欲しいね」

 武光の意図を察したりさ子がこっそり足を蹴るが、武光は気が付かないふりをする。

読んでくれてありがとうございました。

開放的な海だからこそ起こりがちなトラブルです。颯爽と現れた会長が解決してくれましたが、塁もいつまでも甘えてばかりはいられません。がんばれ!

投稿は毎週火曜日と金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。

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