表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せな結末  作者: 灰色 シオ
第Ⅳ章 高梨塁2
16/24

高校1年 7月 夏休み①

 不幸な事故で父親を亡くした少年 るいが転校してきたことから物語は動き出す。

 幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。

 互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?

 入学してからひと月ほどたったある日、桃子はクラスメイトに呼び止められた。話の輪にはりさ子もいた。


「ねえ、佐々木さん。今度、合コンしない? 私の同中おなちゅうのやつが付属高に行ってて、この前会ったら合コンやろうって話になったんだよね。5対5で。佐々木さんもどうかな?」

「うーん、わたしはそういうのいいかな」

「えー、どうして? 行こうよ。きっと楽しいよ。付属だから育ちはいいし、顔は保証できる」

「うーん、でもやっぱりパス」

「えー、どうして? 高梨君と付き合ってるわけじゃないんでしょ」

「うん、それはそうだけど……」

「高梨君も煮え切らないからね。合コンでも行って焦らせてあげた方がいいって。いい男がいたら乗り換えちゃえばいいんだし」


 既に桃子と塁の微妙な関係はクラス中に知れ渡っていた。桃子は噂好きなクラスメイトから質問攻めにされ閉口していた。答えようもないのだ。塁とは何もない。

「わたしなんか無理だよ~ 他の娘誘ってあげて」

 結局、桃子は誘いには乗らなかった。けれど、輪の中にりさ子がいたことは気になっていた。


 帰りがけ、昇降口に向かう間に桃子は気になっていたことをりさ子に聞いた。

「りさ子は合コンに行くの?」

「ああ、付属ならそれなりの家の子だろうからコネクション作っておいて損はないからね」

 中学のころから男子にも人気があったりさ子だけど誰ともつきあおうとはしなかった。興味がないというより既に気持ちが決まっているように見えた。それなのに合コンに参加するという。その理由は桃子には一つしか思いつかなかった。

「それは笹山君のため?」

「そう。私は博樹のために働くんだ」

「いいの? りさ子、笹山君のことが好きなんでしょ」

「いいんだ。私の好きはそういうのじゃないから。博樹は私の全て。私は博樹の役に立つ相手と結婚する」

「それでいいの?」

「それが私の望みだよ」

 きっぱりと言い切ったりさ子の言葉を聞く桃子の方が泣きそうな顔をしていた。


     *


 相翔高校は自主独立の自由な校風の下、様々な生徒がいる。金髪のチャラいのからスポーツ刈りの汗臭いの、銀縁メガネのガリ勉タイプまでいろいろだ。女子生徒ならお嬢様からギャルまで様々な生徒がいる。どちらかといえば育ちがよさそうな人が多い。その代表が生徒会副会長の福沢先輩だ。福沢総合病院の一人娘で本人も医学部志望だ。厳しく躾けられてきたらしく上品な中にも知性が感じられる。残念なことにそのせいで山中会長のようなインテリジゴロに転がされてしまっている。厳格な父親では男を見る目までは教えきれなかったようだ。それはオレの気にすることではない。だが、オレに余計な世話を焼いてくるとなると別の話だ。


 5月も末のある日の昼休み、中庭のベンチでオレはまた、福沢先輩に絡まれていた。

「福沢先輩は会長のどこがそんなに良かったんですか? 身体?」

 ぺしっ

 後頭部を叩かれた。


「あなたなんかにはわからないでしょうね。会長の輝く知性、溢れ出すオーラ、なにがあってもくじけない意志の強さ。どれをとっても一流よ。あなたとは比べ物にならない」

「まあ、それはそうだと思いますよ。だからと言って副会長が佐々木を気にすることとは結び付かないんですけど。オレを後押しすることとも」

 入学して2か月。オレは福沢先輩とはかなりくだけて話すようになっていた。この女性ひとはそれなりに一流の人物なのだ。軽々しくいなせないし、鋭いところをついてくる。見るところはちゃんと見えている。ただ一人を除いては。


「福沢先輩は頭もいいし、魅力的だと思いますよ」

「何よ。いきなり」

「でも、会長はあなたには惚れないと思います」

 別に追い払おうと口から出まかせを言ったわけじゃない。第三者だからこそ見えることもある。


「……何よ。興味ないふりしてちゃんと見ているじゃない」

 先輩はオレから視線を逸らして背もたれに体を預け、外を見る。空が高い。

「そんなことはわかっているのよ。彼は私達とは違う世界を見ている。立ち位置が違うのよ。彼は今を生きていない。ずっと高いところからきっと何十年も先のことを見ている。今の生徒会長の仕事だって経験を積むためのもの。あるいは実験なのかもね」

「実験ですか?」

 先輩の会長を見る目に興味が湧いた。

「そう、実験。こうすれば人はどう動くか。この人はどこまでできる人間なのか。どう動かせば最大の成果を上げられるか。壮大な社会実験よ」

「先輩はそれでいいんですか?」

「わかってないわね。人は自分のことが一番見えないのよ。客観視できないから。だから私は私のことが一番わかっていない。どうすることが私にとって一番いいことなのか。でも、彼のそばにいればわかる。彼が私を最大限に使いこなしてくれる。私はね。私がどこまでやれるか知りたいの。一度きりの人生なんだもの、自分の限界に挑戦したいわ。そのためには彼が必要なの。他の誰かに取られるわけにはいかないわ」

 それも一種の愛情なのだろうか。それとも信頼? 福沢先輩も伊達や酔狂でオレに肩入れしているわけではないことはわかった。


「でも、それならなおさら佐々木にこだわる意味が分かりません」

 福沢先輩は向き直るとため息をついた。

「見えてると思ったのは気のせいだったのかしら。あの娘は彼とは対極の存在よ。同じくらい高いところから世界を見て、なのに常に今を生きている。生き急いでいるといってもいいのかもしれない。だからこそ思い切ったことができるのでしょうけど。でも、それはリスキーな生き方だし、周りの人を巻き込むことになる。あなたにも思い当たることがあるでしょう。対極だからこそ引かれ合う。磁石のN極とS極みたいなものね。でもね、磁石は離れているから力を発揮する。くっついてしまえば一つの磁石になって物を動かすことはない。あの二人は引き合うけれどくっつけてもいいことはないのよ」

 先輩は哀しそうに微笑んだ。


「だからあなたは私に協力しなさい。それがみんなにとって一番いいことなのだから」

 オレは黙って先輩の話を聞いていた。思い当たることがあったからだ。だからといって福沢先輩の言う通りに動くかどうかは別問題だ。


「あなたたちのことは知っていたわ。私の従妹が光小ひかりしょうにいたの。違うクラスだったし私立に行ったからあなたたちは知らないでしょうけど、あなたたちの噂は知っていたわ。小学生女子には刺激が強い話よ。嫌悪感丸出しで私にも聞かせてくれたわ。行為セックスのことはわからないけど私は違う感想を持ったわ。言葉にはしにくいけど一番近いのは……うらやましい、かな。だから会長からあなたたちのことを聞いたとき、もちろん彼は余計なことなど言わないわ。でも、私はすぐに気づいた。あのときの子たちだと。その子たちがいまだに引きずりながら切れないでいることを知って奇跡だと思ったわ。普通なら別れて忘れてしまうものよ。それなのに子供なあなたの我儘を彼女が身を犠牲にしてつなぎとめているの。わずかにつながっている最後の糸が切れてしまったらきっとあなたは壊れてしまう。彼女もただでは済まないでしょう。それだけあなたたちは危ういの。だからこそ応援したいんだけどね」


     *


 7月、中間試験が終わり、結果も返された。明日から夏休みだ。


 オレは桃子に連れられ駅前のファッションビルに買い物に来ていた。桃子はりさ子と一緒に水着を買いに行っている。明後日、海に行くことになっていた。

「二人でイチャイチャされたら私が落ち着いて選べないだろ。まあ、明後日を楽しみにしていな」

 りさ子の一言でオレの荷物番が決まった。

「ごめんね。選ぶの手伝って欲しいけどちょっと恥ずかしいから」

 まあ、いいよ。

 けど、どうせ見せることになるのに。そこら辺の感覚はわからない。りさ子に踊らされてあまり過激なものは選ばないといいが。見たい反面、他の男たちに見られたくはない。


 ポロン♪

 メッセージが届く。りさ子からだ。

『桃子、これにするって!』

 このくらいのいたずらは予想していた。

『(笑)』

 ほとんどひもの写真に即答する。そんなわけない。


 ポロン♪

 今度は桃子からだ。

『怒! 何そのリアクション! 似合わないと思ってるんだプンプン』

 選手交代してきた。本気のはずはないが、下手に出ておく。

『お願いします。やめてください』

 ポロン♪

『わかった。別のにする』

 からかわれていることはわかっているが、正直楽しい。だが、そんな彼女に甘えていてはいけないのだ。 


 オレはハンバーガーショップでコーラを飲みながら福沢先輩の言葉を思い返していた。

 先輩の言う通りオレは桃子に甘えている。あんなことをしたオレを許し、あまつさえ好意まで寄せてくれている。それを素直に受け入れられないのはオレの我儘だ。

 桃子は優しく聡明で強い。オレだけでなくいじめの加害者も許し、親友にまでしてしまう。誰もが惹きつけられる。だが、その中には善良ではないものも含まれているだろう。オレのように他人に取られるくらいなら傷つけてしまう、そんな奴もいるはずだ。桃子には子供のような独占欲をそそられる。オレはそんな自分自身が嫌いだ。

 これからますます桃子は魅力的になっていくだろう。会長だけでなくいろいろな男に好かれるだろう。桃子にふさわしい男もいるはずだ。桃子のハートを射止める奴だって……。そうなったとき、オレは自分自身を保てるのだろうか。オレはオレ自身が一番信用できない。


     *

 

「ケロちゃん、置いてきてほんとによかったのか?」

 りさ子の言葉にスマートフォンをしまいながら桃子は頬を染めて頷いた。

「……うん。やっぱり恥ずかしいし」

「どうせ、むこうに着いたら見せることになるのに」

「でも、選ぶところ見られるのは恥ずかしいよ……」

「かわいいなぁ、桃子は」


 キャーキャーはしゃぐ二人だったが浮いてはいない。店の中は完全な女の園だ。カップルの片割れらしい男たちが3人、店の外で待っている。連れられてきたものの雰囲気に押し負け入れなかったようだ。

「桃子、これにしなよ」

「えー、ちょっと大胆じゃない? 後ろほとんど紐だよ」

「いいじゃん。色違いにしようよ。私、黒にするから、桃子は白でさ」

「どうしようかなぁ。りさ子は色白だから黒が似合うだろうけど。わたしが白だと太って見えない?」

「とりあえず、試着してから考えようよ。すいませーん」

 りさ子が店員を呼んで試着を申し出る。

「試着いいですか? この娘も」

 試着室に案内しようとした店員が桃子を見て戸惑う。

「あの……失礼ですが、お客様には少々サイズが小さいかと。このタイプ、あいにくDカップまでしかラインナップされておりませんので……」

「何、また育ったの?」

 りさ子がジト目で突っ込んでくる。

「うう……やっぱり塁君連れてこなくてよかった。恥ずかしいよぉ」

 その後、桃子も何とか気に入ったものを見つけ、レジを済ませた。

読んでくれてありがとうございました。

高校生になった二人はそれぞれに交友関係を広げていきます。それが二人の未来につながることを信じて。

投稿は毎週火曜日と金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ