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幸せな結末  作者: 灰色 シオ
第Ⅳ章 高梨塁2
15/24

高校1年 4月

 不幸な事故で父親を亡くした少年 るいが転校してきたことから物語は動き出す。

 幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。

 互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?

「塁君、どうだった?」

 Vサインをかざしながら桃子が聞いてくる。

「ああ、受かった」

「だよねー。心配はしてなかったけど」

 オレと桃子は県立相翔高校に合格した。県北一の進学校だが、勉強以外ほかにすることもないオレ達はそれほど問題なく合格することができた。ずっと合格圏だったし。心配なのはもう一人の方だ。だが、それも杞憂のようだった。桃子の後ろから安西りさ子がサムズアップして見せる。オレも軽く奇跡に応えてやる。

「よかったな」

「本当だよ。落ちてたらスマホ解約するって言われてたんだから」

 安西の家は厳しいとは聞いていたが、確かにそれは女子高生にとっては死刑宣告に近いだろう。りさ子も頑張っていたし、よかったよかった。

「また桃子と一緒だよ。うれしい~!」

「うん! りさ子、また3年間よろしくね」


 佐伯優里菜は私立の女子高に決まっていた。小園千春は中堅の県立高校に合格した。桃子は数少ない友達と離れることになったが問題はないだろう。通学に1時間以上かかるこの学校なら知っている人間はほとんどいない。うちの中学からは毎年5人ほどしか来ない。進学校だしたちの悪いのはいないだろう。それにいくら進学校だとはいえ高校生にもなれば経験者もそれなりにはいるだろう。彼女もようやく普通になれる。それでオレの罪が消えるわけではないが。


     *


 入学式の朝、少し早めに登校した桃子は教室に向かう塁と別れ、生徒会室に向かった。新入生代表として挨拶をすることになったからだ。この学校では毎年、入試で1位の新入生が代表を務めることになっている。手応えはあったが、まさかトップ通過だとは想定外だった。今日は両親揃ってビデオカメラ持って来ることになっている。


 特別棟の4階、他の部屋とは趣の異なる重厚な木の扉が桃子を待ち構えていた。

 コンコン

「入りたまえ。」

 ノックに応える声に従い扉を開ける。


 生徒会室には3人の上級生がいた。そしてその人は窓側の執務机に掛けていた。

「失礼します。新入生代表佐々木桃子です。代表挨拶の打合せに参りました」

「やあ、佐々木君。まずは入学おめでとう。歓迎するよ」

 立ち上がって笑顔で迎えてくれたのは桃子もよく知る人物だった。

「山中先輩!!」

「君ならきっとうちに来てくれると思っていたよ」

 山中先輩は桃子が中学に上がったとき、そこでもやはり生徒会長をしていた。不安定だった桃子と塁を生徒会長として守ってくれた。山中先輩はりさ子の従兄で、笹山博樹の幼馴染だ。笹山君は小学校時代のクラスメイトでずっと桃子たちを気にかけてくれている。


 山中会長が副会長の福沢桜子ふくざわさくらこ先輩と会計の川又美紀かわまたみき先輩を紹介してくれた。福沢副会長は栗色の長い髪を軽くウェーブさせてなんだかお嬢様っぽいきれいな人だった。川又先輩は眼鏡をかけたクールビューティーな感じ。お二人とも山中会長に心酔してるようだった。


 勧められるままに桃子がソファーに掛けたところに、福沢先輩が紅茶を入れてくれた。福沢先輩は桃子をじっと見つめ、そして小さくため息をついた。


 緊張をほぐしてくれるつもりなのか、会長は打合せの前におしゃべりを始めた。

「りさ子がだいぶ世話になったようだね。あの娘までくるとは予想もしていなかった」

「一緒に勉強しただけです。りさ子の実力ですよ」

「それはどうかな? それはよしとして、佐々木君、元気そうだね」

 中学のとき、桃子たちがいろいろ巻き込まれたことを心配してくれているのだろう。以前と変わらず先輩は優しかった。中学のときから落ち着いていたけど、さらに大人っぽくなったみたいに見えた。りさ子は高校に入ってから劣化が著しいと言っていたが。

「ありがとうございます。充実した中学生活を送ることができました。山中先輩のおかげです」

「私は最初を手伝っただけだよ。それからのことは君の力だ。もっとも元気がありすぎたこともあったそうだけど。環さんから話は聞いているよ」

 ぐっ……


 優里菜を助けたときのことを山中先輩も知っているようだった。

「まったく、りさ子がついていながら環さんのお世話になるとは……」

「そ、そんなことより今日は式の打合せで呼ばれたんじゃないんですか?」

 話がやばくなる前に桃子は強引に話題を変えた。

「ん? ああ、そうだったね。まあ、大したことはない。私が歓迎の挨拶をするから、君は呼ばれたら適当にしゃべればいい。原稿は持ってきたね」

「適当って……」

「なに、挨拶など誰もまともに聞いてないんだ。中身なんてどうでもいい。肝心なのは見栄えだよ。それらしく振舞って最後にニコッとしてやればいい。それでだいたいはうまくいく」

 どうやらりさ子の言うことが正しかったようだ。

「ところで私の原稿はどこにあったかな?」

「それでしたらこちらに。」 

「そろそろお時間ですので御髪おぐしをお直しさせて頂いてもよろしいですか?」

 福沢先輩と川又先輩が会長のお世話を始めた。

 桃子は先ほどから感じていた心のモヤモヤが一つの言葉に集約するのを感じた。


 これってハーレムだよね?



『陽光輝く今日の良き日、新入生の皆さん、まずは入学おめでとう。我々はあなた方を歓迎します。在校生を代表して歓迎の辞を述べさせていただきます』


 入学式、副会長の福沢桜子先輩の司会で式は進んでいった。校長先生や来賓の祝辞の後、今は、山中生徒会長が在校生代表として歓迎の挨拶をしている。桃子が生徒会室で見たぐたぐたぶりとは別人のようにちゃんとしていた。

『わが校の校風は生徒の自立を重んじています。生徒手帳を見て驚かれたかと思いますが、わが校には細かい校則はありません。すべては生徒の自主的な判断に委ねられています。自分が何をするべきなのか、学園の一員として取るべき行動とは何か、全てはあなた方が判断して行わなければなりません。私から先輩として一つアドバイスを差し上げましょう。判断に迷ったとき、未来の自分を想像してください。己の行動を未来の自分が恥ずかしいと思わないか、誇れるものなのか。それが考えられるようであれば自立できたということです。決して今の自分だけを判断の基準にしないでください。あなた方個人の問題であってもあなた方は一人ではありません。未来の自分と対話することを忘れないように。そのためには自分が将来どうなりたいかを考えなければなりません。高校の3年間はあっという間に過ぎてしまいます。それを自覚して考えることです。望んだ以上の未来は来ないのですから』


 会長は視線を手元に落とした。新入生達が言葉の意味を理解するタイミングを待つかのように口を閉ざした。2、3年生に囲まれ萎縮していた新入生の一団の空気が次第に湧き上がる。学園の校風を語られ、理解し、いよいよ学園の一員になったとの気分になってきた。頃合いが来たのだろう。会長は顔を上げ、凛々しい顔で新入生を見渡した。

『でも、心配ありません。あなた方ならできると信じています。我々上級生も応援します。あなた方の高校生活は今日始まります。悔いのない高校生活を送ってください。相翔高校へようこそ!』

 最後に見せた会長の笑顔に新入生(主に女子)のハートがかっさらわれる。


 目が合ったと桃子は思った。最後の視線は明らかに自分に向けられたものだった。それは新入生代表に対する期待なのか、中学の後輩に対してのエールなのか、それ以外の感情なのか、桃子にはわからなかった。

 名前を呼ばれて桃子が立ち上がる。いよいよ新入生代表挨拶(出番)だ。


     *


 あの馬鹿……


 新入生代表挨拶以降、桃子は学園中のアイドル状態だった。初々しい抱負を述べた後のきりっとした決意の表明とその後のスマイルは生徒のみならず、教職員、父兄にまで大好評だった。オレは彼女に目立って欲しくはなかった。これもあのジゴロ会長の悪影響だ。まったく油断ならない。オレは以前とは違う感情を山中生徒会長に対して抱いていた。


 桃子人気のおかげでオレは軽いストーカー扱いだ。

「おい、高梨。お前、あの新入生代表の娘と幼馴染なんだってな」

 部活見学で校内をうろついていたとき、名も覚えていない同級生に声を掛けられた。

「お前ら付き合ってんの?」

「いや……」

「彼氏いるのか?」

「さあ……」

「あの巨乳! たまんねえな」

 進学校でも馬鹿はいるものだ。改めて理解した。

「フリーなら、俺が声かけても構わないよな」

「お前はダメだ」

「何だと!?」


 力任せの右拳は難なく躱せた。

「てめえ!」

 立て続けに放たれる左、右も問題ない。オレは動体視力には自信がある。

 涼しい顔で躱すオレを見て、空手経験者らしい同級生は頭に血を昇らせた。それでも格闘家としての心得は残っていたらしい。浅く腰を落とすと正対に構える。それなりに鍛えてはいるらしい。オレも左の拳を上げて構えをとる。


「何しているの!」

 女子生徒の声が二人を遮る。副会長の福沢桜子先輩だ。

「やべっ……何でもないです。ちょっとふざけていただけです」

 空手男が言い訳しながら逃げて行った。オレも副会長に軽く頭を下げ去ろうとしたが、副会長に呼び止められた。

「高梨塁君、あなたには聞きたいことがあります。来てください」

 一介の新入生に過ぎないオレの名前を副会長が知っているはずがない。とすると桃子がらみだろう。オレは副会長に従った。


 特別棟4階の生徒会室に連れてこられたオレは物珍しさにきょろきょろ見回す。会長あのジゴロは不在だ。福沢副会長もそれを知っていて生徒会室に連れてきたようだ。

「掛けて」

 ソファーを勧める福沢副会長の声に従いオレは腰を下ろした。

「何であんな態度をとったの? あなたの幼馴染は今では学園一のアイドルよ。あんなお調子者にいちいち相手にしていたら身が持たないわよ」

 ……

 最初から見ていたらしい。


「そんなに気になるなら、付き合ってしまえばいいじゃない。たとえ嘘でも彼女だと言えば治まるでしょう。そのくらいの嘘は方便でしょう」

 福沢副会長の意図が読めない。うかつに返事はできない。


「あなたたち、会長とどういう関係?」

 話が跳んだ。

「全くあの娘ったら……会長のどストライクじゃない。困るのよ。あなたも気があるのならさっさとものにしてしまいなさい!」

 どうやら副会長は山中会長に思いを寄せているようだ。そんなところに会長好みの桃子は邪魔らしい。そういえば中学のときも山中先輩はそんなようなことを匂わせていた。

「あなたがその気なら私が手伝って差し上げてもよくってよ」


 うわーっ……『よくってよ』なんて現実で言う人、初めて見た。

読んでくれてありがとうございました。

高校生になりました。過去からのしがらみから離れた二人は新たな関係性を築くことができるのでしょうか?

投稿は毎週火曜日と金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。

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