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幸せな結末  作者: 灰色 シオ
第Ⅲ章 佐々木桃子2
13/24

中学3年 4月③

 不幸な事故で父親を亡くした少年 るいが転校してきたことから物語は動き出す。

 幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。

 互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?

 佐伯さんの泣きながら謝る声を聞いてわたしはここに来たときの気持ちを思い出した。

 そうだった。わたしのことは後回しだ。もともと絡まっていた糸はちょっとやそっとじゃ解けない。今は卑劣な脅しに絡めとられた彼女を助けることだ。わたしたちの救いはきっとその先にしかない。


「何されるかわかってここまで来たんだろ。混ぜてやろうぜ、貴大。百合モノもいいじゃん」

「うるせえよ」

「裸の写真が撮りたいんでしょ。わたしが脱ぐから! だから佐伯さんは返してあげて」

「俺は芸術写真が撮りたいんだよ。お前みたいなインランの下品な身体には興味がない。店長にでも遊んでもらってな。どうせ初めてじゃないんだし」

「そういうことなら遠慮なく……さあ、お兄さんといいことしような……」


 侮辱する言葉を無視して脱いだ制服の上着を店長の顔に叩きつけ、上から睨みつけた。にやけた顔が一瞬怯む。

 やっぱりこれでいいんだ。わたしは負けたくない。


 スカートのホックを外し、ジッパーを下ろす。そのまま落とす。ちょっと考えて先に靴下を脱いだ。左、右。

 胸元のリボンのホックを外し、ブラウスのボタンを外す。上から一つづつ。袖口のボタンを外すと覚悟を決めてブラウスを開いて後ろに落とした。

 じっくり見られないうちにスポーツブラを脱ぎ捨てる。締め付けられていた胸が大きく弾む。続けてショーツを足元まで引き下ろした。交互に足を抜いて投げ捨てる。身体を起こすに合わせて胸が再び大きく揺れた。


 佐伯さんを背に男たちの前に立ちはだかった。文字通り今のわたしは一糸まとわぬすっ裸だ。

「さあ、撮りなさいよ。あなたの大好きな裸でしょ。それともオタク童貞には刺激が強かった? あなたの好みは陰からこそこそ覗くことだもんね」

「ふ…ふざけるな。襲われたこと忘れたのか」

「先輩にパシられてただけでしょ。一人じゃ何もできないくせに」

「馬鹿じゃねえの。今回だって俺が一人でやったことだ。店長には手伝わせているだけだし」

「なら、撮ってみなさいよ。どうせ裸の写真を撮って売るつもりだったんでしょ。言い訳してないで撮ればいいでしょ」

「うるせえ! そんなに撮られたいなら撮ってやるよ。ばらまくだけじゃ済まさねえ。ネットに上げて拡散させてやる。顔出しでな」


 ネットで晒すという言葉に心が挫けそうになる。気を取り直す。そんな言葉に負けていては一生こいつら下衆にいいようにされるだけだ。わたし、負けたくない。

 塁君、ごめんね。わたしまた汚されちゃう。


 おなかの底から力一杯叫んだ。

「やればいいじゃない! どうしたの? 手が震えているよ。カメラを向けてシャッター押すだけでしょでしょ。あなたはいつもそう。陰でこそこそするだけ」


 わたしの気迫に言い負けて動けない河原から店長の男が一眼レフのカメラを取り上げた。

「お前がやらないなら、俺が撮ってやる。この娘、色気ねえけど気に入ったぜ」

 ファインダーを覗きフォーカスを合わせる。シャッターを切る直前、遮るものがあった。

「やめて! 佐々木さんは関係ないわ。あたしが悪いんだからあたしを撮って!」

「佐伯さん……」


 カシャカシャ


 フラッシュとともに続けざまにシャッター音が響いた。


 カシャカシャ


 角度を変えてもう一度。


 ああ、撮られちゃった。今度は佐伯さんまで巻き込んじゃった。絶望に打ち震えるわたしたちに声が掛けられた。

「失礼します。この状況を説明願います」


 開けられた個室のドアをの外にスーツを着た大人の女の人がいた。

「な…なんだてめえは?」

「申し遅れました。わたくし県警から委託を受けた補導員の大城環と申します。風俗営業店舗に未成年がいるとの通報を受けて参りました。たった今、事案を確認しました。以降の応答は録音させていただきます。立件された暁には証拠として裁判所に提出されますのでそのつもりで応答願います」

 その女の人、大城環さんは補導員らしい。わたし、補導されちゃうのかな? そのときのわたしは助かったことよりそんなことを考えていた。


「やべぇ……」

店長の男が逃げようとしたが、出口を塞いでいる大城さんに右腕を捩じりあげられ、悲鳴を上げた。

「痛ててて……」

 男を取り押さえたまま大城さんは男からカメラを取り上げると片手で素早くメモリーを開いて画像を確認する。


「店長の沢田太一さんですね。あなたには未成年者略取および監禁と児童ポルノ法違反の容疑があります」

「うちはデイタイムは通常のカラオケ営業してる。届けも出ているはずだ。やましいことはない」

「脱衣の未成年女子が写っているこの画像はどう説明するのですか? この子たちは18歳未満でしょう? 児童ポルノに該当します。このカメラは証拠として預かります」

 大城さんの言葉に男が膝をついた。観念したようだ。


 ぽかんと口を開けて呆然としていた河原が我に返り、大城さんに飛び掛かる。

「オレのカメラだ!」

 しかし、あっさり取り押さえられた。

「そうですか。では、あなたが主犯ということになりますが間違いないですか?」

「……」

 河原は黙り込んだ。


 大城さんはわたしたちを振り返ると優しく微笑んだ。

「もう大丈夫です。心配いりませんよ。まずは身だしなみを整えてください」


     *


 服を着終えたわたしたちはフロアのソファーで待たされた。

 大城さんは個室で男たちから事情聴取している。


「佐伯さん。さっきはわたしを庇ってくれてありがとう。わたし、あのときのこと怒ってないから」

 佐伯さんは隣で泣いている。大城さんが戻ってくるまでにわたしは彼女に伝えなければならない。わたしたちがこじれてしまった原因は彼女ではないことを。


「ぐすっ……でも、あたしが佐々木さんにあんなことしなければ、あなたたちもひどい目には合わなかったし、今回のことだってあたしが……あたしが悪いから……」

「あのときのことは子供のいたずらじゃない。そんなこといつまでも怒っていないよ」

「でも、小学校ではハブられて、中学になっても噂を流されて浮いてるじゃない」

「それは佐伯さんのせいじゃないよ」

「でも、あたしが……」


 この娘にとっては重荷だったのだろう。良心の呵責に苛まされて潰されそうになってしまっていた。もっと早くちゃんと話せばよかった。

「わたしは塁君のことが好きだった。だから自ら望んで抱かれたの。彼もそうだったと信じてる。けど、それは不自然だったし、流されてするものじゃなかった。だから、今、こんなにこじらせて自然にふるまえなくなっている。でも、それはわたしたちのせい。わたしたちがなんとか解していかなければならないことなの。だって自分たちのことだから」

「佐々木さん……」

「許してくるなら、また、昔みたいに桃子って呼んで」

「許すなんて、悪いのはあたしの方なのに、佐々木さんを許すなんて……」

「桃子だよ」

「……桃子」

「うん。優里菜。もっと早くに話しておけばよかったね。ごめんね」

「桃子!」

 優里菜はわたしの胸に抱きついて激しく泣きじゃくった。わたしは彼女の頭を撫でながら優しく抱きしめていた。


「ねえ、優里菜。わたし、そんなに不幸じゃなかったよ。中学では友達もできた。噂なんて信じないわたしのことをちゃんと見てくれる友達が」

「……うん」

 泣き声も落ち着いてきた。わたしの言葉も届いているみたい。

「それからね。塁君も別に優里菜のこと怒っていないと思うよ」

 腕の中で優里菜がびくっとした。そこはまだ誤解があるみたい。

「あの子はね、ちょっと真っ直ぐすぎるから周りのことが見えなくなっちゃってるの。ただそれだけ」

「でも……あれから一度もあたしと口きいてくれないし、睨んでくるし……」

「目つきがきついのは元からだし、最近、視力が落ちてるみたいだからそのせいじゃないかな。それにしゃべらないのは優里菜にだけじゃないでしょ。わたしともほとんどしゃべんないし」

「……?」

「今度、話しかけてみるといいよ。私と一緒のときに」

「うん……」


 まったく塁君の態度の悪さにも困ったものだ。たぶん自覚してないと思うけど。

 話を変える。とりあえずは今のことだ。

「りさ子のこと覚えてる?」

「うん」

「大城さんはりさ子が呼んでくれたんだと思う。一人で考えなしに乗り込んじゃったわたしを心配してくれたんだと思う。こんなこと大人の手を借りなければどうしようもないことだよね。わたしってよく間違えちゃうから」

「ごめん」

「わたしの好意を否定するの?」

「ううん……ありがとう」

「うん。わたしはね。昔っから優里菜が大好きだったんだよ」

 優里菜は今度は返事をしなかった。代わりにギュッと抱きしめてくれた。

 

 そのあと二人は大城さんからたっぷりお説教された。ちょっと泣きそうになった。


     *


 高梨塁はイライラした表情でスマートフォンに目をやった。もう何度目だか数えきれない。図書館に来てからだいぶたった。もう夕刻だ。自習室に西日が差しこんでくる。あれ以来、受信はない。

『友達に会ったので遅れます。先に行っててくださいm(vv)m』

 メールを受け取ってから3時間は経っている。不安そうな目で入口を見る。土曜日の午後の図書館は混んでいた。だが、目当ての人影は見当たらない。


 何かあったのだろうか? 塁は考え込む。だいたい友達というのが怪しい。彼女に友達などいただろうか? 親指人差し指……2本折ったところで止まる。まさか2人ということもあるまいが、彼女の交友関係をすべて知っているわけではない。

 もう一度メールに返信しようとして止めた。もし、彼女が危険な目にあっていたら……着信音が致命的になる可能性を考えたのだ。

 代わりに共通の友人宛にメールを打った。それにはすぐ返信が来た。

 塁は首をかしげて考え込む。さきほどと違って少し落ち着いた表情だった。

読んでくれてありがとうございました。

りさ子や周囲の協力で桃子は無事 優里菜を助けることができました。さて、今度はもう一つの関係の修復です。

投稿は毎週火曜日と金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。

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