中学3年 4月①
不幸な事故で父親を亡くした少年 塁が転校してきたことから物語は動き出す。
幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。
互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?
笑いが止まらない。思っていた以上の効果だ。
薄めた毒はすぐには効果を現わさない。繰り返すことで確実に良心を削っていった。彼女の心の中はもはや真っ黒だ。逃れる術はない。
仕掛けは単純だ。佐々木の噂が立つたびに「お前のせいだ」と囁くだけだ。後は自ら毒を回してくれる。噂を立てているのも俺だと気づかないまま。
「自分のせいで佐々木桃子は苦しんでいる」
それは蒔かれた毒に反応して自ら生み出した猛毒だ。後は待つだけでいい。犠牲は自ら生み出した猛毒に犯され真っ黒に染め上げられる。助かる術はない。
この手を考え付いたのは先輩達のおかげだ。直情径行に脅しをかけて屈服させようとして失敗した。おかげで俺の経歴にまで汚点をつけてくれやがった。頭悪いんだよ。そんなんじゃ人の心は折れない。俺だったらもっとうまくやる。卒業してくれてようやっと縁が切れた。従う振りをして密かに俺だけの伝手を開拓した。誰にも気づかれずに仕込みを行った。果実は既に熟している。後はどうもぎ取るかだ。
自然に笑いが漏れ出た。
「許されるためには彼女以上に汚れないとダメだろう?」
魔法の言葉だった。
そんなわけない。そんなことにすら汚染された心では気がつかない。もう落ちたも同然だ。
あんなビッチではなく、手つかずの肉体が俺の意のままになる。どう汚してやろうか。考えただけで下半身が固くなる。ズボンの上からさすっただけではじけそうだ。
慌てるな。普通に犯しただけではつまらない。まずは写真を撮って、それをネタに何度も犯してやる。ネットで見つけたお気に入りのサイトのように身動きできないように縛り上げてしゃぶらせてやろう。そのまま奇麗な顔を汚してやったら最高だ。縛らずに精神的に拘束してやるのもいい。どうせもう逃げられない。悔し涙を浮かばせながらご奉仕させるのもおもしろい。飽きたら売春でもさせて貢がせてやろう。あの見てくれなら金を払うスケベオヤジなどいくらでもいるはずだ。
教室の最後尾の席から獲物の横顔を眺めながら河原貴大は厭らしく笑う。
*
「……桃子」
4月、体育の授業の前、更衣室で着換えているとき、今年も一緒のクラスだったりさ子に声をかけられた。
「なぁに? りさ子」
「私たちももう3年生なんだし、そろそろ身だしなみにも気を使ったほうがいいと思うんだ」
「何のこと? りさ子ったらまた新しいの買ったの? うわぁ、またセクシーなの選んだわね。お尻はみ出してるじゃない」
スレンダー美女のりさ子はいつもおしゃれだ。特に下着はレースをあしらった濃い色の艶っぽいやつを好んで身に着ける。今日は黒。同性のわたしが見てもドキドキするくらいエロ似合っている。それにしても、りさ子がいくらスリムだといってもちょっと小さくはありませんか? わたしのの半分くらいしか面積ないよ。とりあえず、りさ子の半分むき出しのお尻を両手で撫でまわす。
「桃子の手つきやらしいな。私のことはいいんだよ。それよりあんたの話。あんた自分の恰好鏡で見たことある? 小学生でももうちょっとおしゃれしてるぞ。高梨がその気にならないの、最近は桃子のせいだと思えてきた」
「わたしは見せるより、見る方でいいや。姉ちゃんいいケツしてるじゃないか。すりすり」
「おやじかよ……油断してるといざというとき恥ずかしい思いをするのは桃子なんだぞ」
「ご心配なく。勝負パンツくらい持ってます」
そりゃあ14歳の女の子だもん。いざというときのおしゃれ下着くらいは持っている。
「甘い。甘いよ、桃ちゃん。タイミングなんていつ来るかわかんないんだよ。高梨君といい雰囲気になったとき、『今日の下着ダサいから明日にして』って言える?」
「もう! 千春まで」
1年ぶりに同じクラスになった千春はりさ子以上に容赦がなかった。千春は2年の秋から男子バスケ部の同級生と付き合っている。初体験はまだらしいけど、意識してるのか下着にまでこだわっている。千春の好みはフリルやリボンをあしらったパステルカラーのかわいい系。今日も薄ピンクの上下で合わせている。
今日のわたしの下着は白の木綿のショーツにスポーツブラ。確かに色気はないが、おかしいといわれるほどひどくはないはずだ。
「いや、私そんな格好してるとこカレぴに見られたら死ねる自信ある……」
「買う時点で恥ずか死ぬ……」
親友たちは手加減を知らない。
「そういうところ、桃っちもまだまだだね」
「桃子もいい加減育ってきてるんだから、ちゃんとカップ合わせないと。形崩れるよ。もみもみ」
ひゃあ!?
りさ子……胸をもむのは止めて……
「うるさい。聞き分けのない子はこうしてやる」
先程の仕返しとばかりにりさ子が反撃してくる。
「なるほどなるほど、1年見ぬ間に成長したと思いましたが、秘訣はりさっちのセクハラでしたか」
千春、セクハラだとわかっているなら止めて……
「どれ、わたくしめもひともみ。ほほーっ、これはなかなか……」
だめ……乳首は摘ままないで……
*
昼休み、高梨塁は中庭の隅で河原貴大を見かけた。以前桃子に暴行を仕掛けたことがある奴だ。塁としては河原に興味はないが、油断はできない。目で追ってしまう。
河原が小走りになって前を歩いていた女子生徒の肩をたたく。見覚えのある女子だ。肩をたたかれた女子はビクっと背中を震わせ、おどおどしていた。知っている娘のような気がするが、名前が思い出せない。河原に付きまとわれるとは何か弱みを見せたのだろう。あの男は強いものには逆らわないが弱みを見せたら食いつかれる。ハイエナのような奴だ。そんな他人を食い物にすることを考えるより、自分で頑張ればいいと思うのだが、それは嫌らしい。もっともそういうやつの方が社会で成功するそうだから全く嫌になる。そんなことを考えているうちに二人はどこかに行ってしまった。
5時間目の授業で教室の席に着いたとき、前の席に座る彼女を見てようやく思い出した。佐伯優里菜だ。塁の記憶とはずいぶん印象が違う。それで気が付かなかった。いつから変わったのだろうか。塁はクラスメイトの顔もまともに覚えていないことを思い出した。
*
朝のHR前の時間、りさ子が他のクラスの子と話し込んでいる。相談を受けているようだ。呼び出されて廊下で話している。あれは三井さんと酒井さん。小学校卒業会ってなかったな。りさ子も同じグループだったけど最近は会っていないらしい。わたしにセクハラいじめを仕掛けてきたあの事件以来、りさ子たちのグループはうまくいかなくなった。わたしはもう何とも思っていないけれど、さすがに懐かしいとまでは思わない。彼女らの脇を通って教室に入ろうとした、そのとき、三井さんに袖を掴まれた。
「佐々木さん、お願い。優里菜を許してあげて」
はあ!?
どうやら、佐伯優里菜は小学校時代のわたしにしたいじめを反省しているらしい。仕返しされるかもしれないと思い込んでいて、怯えている。もちろんわたしはそんなこと考えていない。けど、佐伯さんがそう思い詰めるには理由があった。佐伯さんは今年もD組(3‐D)で塁君と3年間同じクラスになった。塁君はこういう話は全くしてくれない。もしかしたらクラスメイトの顔も知らないかもしれない。たぶんクラスメイトに全く興味ないから。浮きまくっているだろうけど、そんなこと気にする子じゃない。
「1、2年のとき、あたしも同じクラスだったけど、高梨、あたしたちとは一言も話さないじゃん。黙り込んで睨みつけるようにして。クラスの中でもあいつの声聞いた奴なんてほとんどいないんだから。もう怖くって……。優里菜なんて高梨の前の席だから怯えちゃってしょうがないんだ。あの高梨に注意できる奴なんかいないんだから。あたしたちが悪かったけど、そこまですることないじゃん。優里菜のこと許してやってよ」
「はぁ……わたしは正直もう何とも思ってないよ。でも、私が言っても効果ないんじゃない?」
「だから、佐々木さんから高梨にとりなしてください。お願いします」
「このままじゃ、優里菜おかしくなっちゃう」
三井さんと酒井さんは友達の佐伯さんのために一生懸命だけど。
「私から言うのもなんだけど、高梨って別に怒っているわけじゃないと思うよ」
りさ子がフォローしてくれる。
「うん。友達はいないし、目つきは悪いし、中二病だし、コミュ障なのも本当だけど。誰ともしゃべらないのは怒っているからじゃないよ。ただ関心がないだけだから」
二人が引いている。何か間違ったかな?
「桃子の方がよほどひどいこと言ってるよね」
「本当のことだから」
「でも、ただ目つき悪いやつが黙っているからって普通、そこまで怯えるかな?」
りさ子の疑問はもっともだ。
「それはあいつのせいだよ」
「優里菜を追い詰めたやつがいるんだよ」
読んでくれてありがとうございました。
第Ⅲ章です。桃子たちも3年生になりました。ここまで耐えてきた桃子ですが、関係の修復を始めます。桃子の頑張りを応援してください。
投稿は毎週火曜日と金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。




