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幸せな結末  作者: 灰色 シオ
第Ⅱ章 佐々木桃子
10/24

中学1年 3月

 不幸な事故で父親を亡くした少年 るいが転校してきたことから物語は動き出す。

 幼馴染の少女桃子と小学校に通うことになった塁。慎重に身を処し、うまくクラスに馴染めたと思ったころ、事件が起こる。

 互いに好意を寄せあっていた二人は事件をきっかけにすれ違い始める。全てを許し未来を掴もうとする桃子。対して塁は良心の呵責から桃子に対して素直になれない。塁の友人たちは何かとサポートするが二人の結末はどうなるのか?

 山中会長から、呼び出しがあったのは、その翌日、体育祭の2日前の昼休みのことだった。


 生徒会室に入った塁と桃子を迎えた会長の隣にはりさ子がいた。

 勧められた椅子に座った塁と桃子に会長は結果だけを説明した。

「写真部は無期限の活動停止。事実上、今年度いっぱいで廃部とする。学校側には罪状は盗撮ということにしておいた。事実、違法に近いこともやってたみたいだしね。部室は没収。差し押さえていた機材は私物を除いて生徒会預かりとした。既に情報処理部に手伝ってもらいメモリーは全て消去した。実行犯の5人は環境委員会の活動に奉仕させる。処分の内容は以上だ。それでいいかね」

「はい、それで構いません」

 桃子としては思い出したくもないことだろう。関心を示さなかった。


「君たちは逆恨みをされるかもしれない。私がいるうちはめったなことはさせないが、内密に下した処分だ。彼等への監視の目は厳しくはない。十分に気をつけてくれ」

「はい」

 桃子より先に塁が応えた。


「残る処分は、君についてだ。高梨君」

 えっ!? 塁が驚いた顔をする。


「会長、高梨君は……」

 塁を庇おうとする桃子を会長は優しく手で止めた。

「君は用具倉庫の扉を壊したからね。もちろん理由はあったのだが、施設の破壊は罪だ。そこで、君にも奉仕活動をしてもらう」

「体育祭の記録写真は写真部が担当していたからね。そこで新聞部が引き受けることにした。もともと、5月号は体育祭特集だから丁度いい。高梨は記録撮影係として奉仕してもらうよ」

 安西りさ子が処分の内容を説明する。なぜ、安西がそれを決めるのだろう。

「事件のことは既に噂が立ち始めている。桃子に触れずに生徒が納得するような記事を書けよ。私が教えてやる。マスコミはこう使うんだよ」

 悪徳議員秘書がそこにいた。


     *


 10月になって、山中生徒会長は引退した。選挙の結果、庶務役員だった2年生の皆川先輩が新しい生徒会長になった。わたしは役員には立候補はせず、ヒラ生徒会委員を続けている。

 そして今は3月。明日、山中先輩は卒業する。わたしは生徒会委員として卒業式の準備に駆けずり回っていた。3年生が引退し、新1年生が入ってくるまでの半年は人手が足りず生徒会が最も忙しい時期だ。

わたしはこれまで通り忙しい日常を送っていた。ただ、変わったこともある。


 その日もそうだった。下足箱を開けると上履きの上に封筒が乗っていた。

「うわぁ、まただ」

「あらあら、もてる娘は言うことが違うねえ。何回目だよ」

「4通目……」

「嫌そうにしたって、王子とはつきあわないって公言した桃子が悪いんだよ」


 りさ子の指摘はもっともだ。あの事件の後、さんざん冷やかされたが、やっぱりわたしたちはつきあわなかった。そこが隙に見られたのかもしれない。

「どれどれ、放課後、部室棟の裏庭で待ってます、だって。卒業記念告白かよ。名前も書いてないし……どうするの、これ」

 私宛のラブレターをりさ子が勝手に読みあげる。


「知らない。断るよ。もちろん」

「放っておけばいいのに、そんなもん」

「だって悪いよ……せっかく書いてくれたのに」

「そんなに、優しくしてやるから、付け込まれるんだと思うけどね」

 わたしだって、本当は嫌だ。塁君には悪いけど、最初はうれしかったのだ。ラブレターなんてもらうの初めてだったし。けど、会ってみて自分が間違っていたことが分かった。


「君のことを守りたいんだ。だから、いいだろ?」


「俺があんなこと忘れさせてやる」


「俺が守ってやる。俺の女になれ」


 はぁ? 何言ってるの、この人たち。わたし、かわいそうな娘じゃない!


 あの事件のことは、生徒会と新聞部が守ってくれた。でも、悪い噂は確実に広まっていた。ゴミカス共に汚されたビッチな娘。優しい言葉をかけてやれば簡単に落ちるだろうし、もしかしたらやれるかもしれない。飽きたら、捨てればいい。どうせ処女じゃないからあとくされがない。顔に書いてあるようだった。


 放課後、わたしは部室棟裏に赴いた。4度目ともなると疑いもしなくなる。言いたいことを言わせて、ごめんなさいして終わり。卒業記念イベントみたいなものだ。ラブレターをくれた努力に免じて告白までは付き合ってあげよう。

 だけど、勘違いしていたのはわたしの方だった。


 裏庭に植えられた、桜の木を制服姿の男子生徒が見上げていた。その後ろ姿に私は声を掛けた。

「先輩?」

「やあ、来てくれると思っていたよ。会いたかったよ、桃子ちゃん」

 振り返ったその人物は、あの日、カメラを向けてきた写真部の部長だった。

 後退り、逃げようとした瞬間、後頭部に衝撃を受けた。くらくらする頭に下郎げろうたちの声が聞こえた。


「下手くそ、気絶してねえじゃねえか」

「いいから早く運び込め」

 仲間がいた。目と口をガムテープでふさがれ、両腕と両足を持たれて運ばれる。扉の開く音がして、屋内に運び込まれた。下ろされると同時に腕を後ろに回され拘束された。足は縛られなかった。その理由は想像がつく。

 参ったなあ、ガムテープとは予想していなかった。スカートのポケットに手を伸ばすのは無理ではないが、見逃してはもらえないだろう。そんなことを考えているうちに両目を塞いでいたガムテープを剥がされた。

 やはり、元写真部の3人だった。名前など憶えていない。


「久しぶりだねえ、桃子ちゃん。元気だったかい? 俺たち、君のことが忘れられなくて、会いに来ちゃったよ」

「君の身体からだがだろ?」

「そうそう、ちゃんと言わないと伝わらないよ」

「そうだね。俺たち君にしてもらいたくて、来てもらったんだよ。何をしてもらうかわかるよねえ。君の大好きなセックスだよ」


 元写真部の部室だ。今は生徒会の倉庫として垂れ幕やゲートの置き場に使われていたが、卒業式の準備で持ち出され、がらんとしていた。


「ずいぶん余裕じゃねえか」

 怯えもせずに状況を確認するわたしを見て苛立った声を上げる。こいつらは女の子を屈服させることに快感を覚える性癖を持っている。つまりはモテないことの裏返しなのだ。ならば、喜ばせることなどしたくない。


「別にいいんじゃね。用があるのは、この子じゃなくて、身体だけなんだから」

 別の男が、スカートの中に手を差し入れ、太股をなでてくる。

 気持ち悪い。

 けど、スカートが捲れ上がったたおかげで手が届きそうだ。直すふりをして、後ろ手でスカートを回す。あと少しでポケットに手が届く。

「それもそうだな。遠慮なく楽しませてもらおうか」

 そんなわたしに気付かずもう一人が身体をまさぐってくる。

「おっ、桃子ちゃん、胸でかくなった? 俺が揉んでやったおかげかな?」

「mmmm―!」

 ガムテープでふさがれて、声にならない。だけど、何とか時間をかせがないと。

「なんか言いたそうだな。泣き言なら聞いてやるぜ」

「まあ、やることはやるんだけどな」

「悲鳴の一つぐらい上げてくれないと盛り上がらねえよ」

 勝手なことを言いながら男の一人が口を塞いでいたガムテープを乱暴に引きはがした。

 わたしは、勢いで倒れこむふりをしてポケットに指を伸ばす。よし、ストラップに掛かった。

「先輩……お口でしますから、腕をほどいてくれませんか」

 わざとらしく時間稼ぎの台詞を口にした。だけど、それほど待つ必要はないだろう。

「……ぎゃはは! 本当に桃子ちゃん、フェラ好きなんだね」

「でも残念。ぐずぐずしてないでさっさとやることやっちゃうよ」


 馬鹿が気を取られている間に手が届いた。

 興味本位とあわよくばと下心見え見えの下衆げすになめられてはいられない。安い女ではないのだ。既に切り札は手の中にある。

「先輩、わたし、あんまりうまくないから、歯が当たっちゃったらごめんなさい。あんまり無理させられると、噛み切っちゃうかもしれないですよ」


 急に強気に出たわたしに気圧されるも絶対的な有利を確信しているのだろう。倒れているわたしの髪を掴んで引き起こす。勢いで髪が抜ける。

 痛みに顔をしかめながらも笑って挑発する。

「先輩たちって頭悪いんじゃないですか。あんなことあったのにわたしが何の備えもしていないと思ってたんですか?」

 後ろ手に縛られた手の中のプルタブを思い切り引き抜いた。


 GRRRRRRRRRRRR


 つんざくような警報が鳴り響く。

「何だ?」

「防犯ブザーだ。早く取り上げろ」

「大丈夫、ここ(部室)ならそう遠くまでは聞こえない」


 わたしを俯せに組み伏せると手の中の防犯ブザーを取り上げる。だけど、止め方がわからないらしい。警報が鳴り響き続ける。


 GRRRRRRRRRRRR


「プルタブを差し込むんだ」

「プルタブってなんだ?」

「その紐の先についてるやつだ。早く!」

 手が震えてなかなか差し込めない。何度か目でようやっと警報が止まった。


「舐めたまねしてくれるじゃねえか」

「舐めてるのはあなたたちでしょ! 何度同じことを繰り返せば気が済むの?」

「ちっくしょう、泣いたって許さねえからな」

「許さないのはわたしの方よ。泣いて謝ったって、今度は許さないから!」

「縛られて監禁されてるってのにいい度胸……」


 コンコン


 チンピラの戯言を遮るようにノックの音が響いた。

「入ってます」

「そいつは、失礼しましたっと……」

 わたしの返事に応えるように、掛け金を引きちぎって扉が開けられた。塁君がそこにいた。後ろにはりさ子と山中先輩も。


 防犯ブザーは塁君から渡されていた。GPS付きで携帯に通報がいく。りさ子がどこからか手に入れた秘密道具なのだそうだ。

「万一のため持っていてくれ」

 恥ずかしそうに目を合わせずに言ってくれた。

 うれしい。まさか役立つ日がくるとは思ってなかったけど。


     *


 取り押さえられた犯人たち3人は卒業式への参加を禁止された。再犯なので今度は学校に処分はゆだねられた。後日、別室で卒業証書は渡されるそうだ。高校にも通報された。入学こそ取り消されなかったが、進学後、ペナルティが課されるらしい。

 わたしにはどうでもいいことだ。

読んでくれてありがとうございました。

本話で第Ⅱ章はおしまいです。またしても訪れた桃子のピンチも周囲の協力で退けました。しかし二人の関係は遅々として進みません。それでも前を向く桃子に少しづつ塁も歩み寄っているようです。次話からの第Ⅲ章でどう変わっていくのでしょうか?

投稿は毎週火曜日と金曜日に行う予定です。今後もお付き合い頂けたら幸いです。

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