表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/56

るな 壱

 連休が終わり、珠子が学校に行くと、日焼けしていることに驚かれた。

「少年野球? どこのチーム?」

 川崎かわさきるなが、珠子の言った「少年野球」に反応した。

「田園タイガースだけど」

「ああ、タイガース。やったやった、わたしの頃はけっこう弱かったけどね」

 るなはソフトボール部。小学生の頃は少年野球をやっていて、中学でも部活は野球部だったらしい。

「今度の日曜もあるよね?」

「なにが?」

「少年野球」

「あるけど」

「じゃあ、わたしも行ってみよかな」

 え?

「うちの部活、ユルくてさあ。日曜は練習ないんだよね。かろうじて土曜はあるんだけど、日曜、ヒマでさ」

 あたし、日曜は行かないよ。

「第三公園だったよね、練習場所。何時に行けばいい?」

「八時集合だけど」

「じゃあ、それまでには顔出すわ」

 ええー、じゃあ、あたしも出なきゃいけないじゃない。

 るなはショートヘアをちょっと揺らして、ふふっと笑った。

「そう言えば、タイガースに元町っていたんだよね」

「元町って、元町悠一郎?」

「そうそう、下はそんな名前」

「中学いっしょだったよ。元町がどうかした?」

 るながふふんと笑った。

「あいつからホームラン何本か打ったことあるんだ、わたし」


 結局、珠子は日曜日、大翔といっしょにタイガースに行くことにした。

「お姉ちゃん、今日、用事あるって言ってなかった?」

「うるさいわねー。あったけど、なくなったの!」

 せっかく久々にひとりの時間を楽しみたいと思ってたのに。るなのおかげで、まったくもう。

 第三公園に着くと、すでにるなの姿があった。

「珠子ぉ、おそーい!」

 いやいや、そっちが早すぎるんでしょ。

 るなは練習用ユニフォームに身を固めて、バッグを肩からかけ、バットまで持ってきている。様になっていて、カッコよかった。

「おー、少年! 君が大翔くん?」

 るなは中腰になって、大翔の頭を撫でた。

「おはようございます」

 大翔がるなをまっすぐ見て、返事する。この子、あたしと同い年くらいの女の子に物怖じしない。慣れてるからね。

「ちゃんと挨拶できるじゃない。りっぱりっぱ。わたしはね、川崎るな。お姉ちゃんの友だちだよ。よろしくね」


 見慣れない女子高生がまたひとり現れたことで、コーチのお父さん連中がどよめいた。

「こりゃまた、珠子ちゃん、えらい別嬪さん連れてきたもんやなあ」

 新在家がアケスケな言い方をした。

 確かに、るなって、ちょっといないほどの美人だ。それも深窓系ではなくって、元気ハツラツ系だから、近寄りがたい雰囲気はどこにもなくって、いつも誰かに囲まれてる感がある。でも、なに? お父さん方のこの反応は? つい先週まで、珠子ちゃん珠子ちゃんって言ってたくせに。

 梅田監督が来た。

「なんだ、川崎じゃん」

「監督、お久しぶりです」

 るなが笑顔を監督に向けた。

 るなって、監督知ってるの?

「川崎? ホエールズの? あの川崎?」

 新在家が素っ頓狂な声を上げた。るながにこやかな表情を新在家に向けた。

 新在家コーチも知ってるの?

「ひどいなあ、忘れられるなんて」

「おまえには、ほんっとう、よく打たれたよなあ」

「タイガースさんには、ずいぶん勝たせてもらいました」

 るなが屈託のない笑顔を見せた。


「どれ、高校生になった川崎が、どんなもんか見せてもらおか」

 子どもたちの練習がひと段落したところで、新在家がミットを構えた。

「ボール、M球でいいですか」

「なんでもええ」

「マウンド、近いですけど、いいですか?」

「かまへん、かまへん」

「じゃあ」

 るなが振りかぶった。大きく左足が上がる。ぐんっとお尻が向けられ、左足が大きく前に踏み出された。長身ということもあって、すごく近くに感じる。

 ぶんっ!

 しなるように腕が振られた。

 ずっぱあーん!

「すっんげぇ」

 子どもたちから、どよめきが上がった。

「南中のWエースの一人だからな」

 梅田が落ち着いた口調で言った。

「南中って、県大会でベスト4まで行った?」

 三宮が口を挟んだ。

「そう、タイガースのみんなで見に行ったでしょ。あのときの女ピッチャーがあれ」

「あの子だったんだ」

 お母さん含め、話がどんどん広がってゆく。るなのピッチングはますます凄みを増した。

「変化球行こか」

「コーチ、大丈夫ですか?」

「任せんかいな」

「じゃあ、カーブ行きまあす」

 ぶんっ!

「うおっ」

 ボールが大きく逸れた。新在家コーチが捕れない。

「コーチィ、大丈夫ですかあ?」

「軌道見ただけやがな」

 るなが少しへらへらしたかおで「ほな、もいっかいカーブ行きまーす」と言って、振りかぶった。

 ぶんっ!

 ボールがググッと落ちてゆく。新在家は全身でそれを止めた。

「おー、ナイスキャッチ!」

 るなが帽子のツバに手を当てて、満面の笑みを見せた。

「さすがですね、コーチ。高校のソフトボール部じゃあ捕ってくれる人いないもの」

「ほな、バンバン行こかあ」

 新在家は、嬉しそう。しばらく、るなの凄い投球が続いた。

「新在家さん、そろそろ始めます」

 監督が子どもたちに集合をかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ